[PA46] 初任保育者の障害のある幼児に対する配慮の実践知に関する研究
環境調整における「偶発的気づき」に着目して
Keywords:初任保育者、配慮、環境調整
背景と目的
近年,障害のある幼児と健常児とを同じ保育現場で保育するインクルーシブ保育が進められている。そこで保育者は,障害のある子と健常児と同じクラスの中で,関わり,援助していくことが求められている。
このような現状の中,ベテラン保育者は発達障害のある幼児に対して,どのように配慮しているのだろうか。勝浦ら(2018)は,障害のある幼児に対する保育者の配慮の実践知の構造を試みた。ベテラン幼稚園教諭1名へのインタビューをSCAT(大谷 2007,2011)によって分析した結果,配慮を行う上での「見極め」が実践知として蓄積され,その「見極め」具合によって,配慮の在り方が異なることを明らかにした。
では,このような保育者としての障害のある幼児に対する実践知はどのように形成されていくのだろうか。そこには,障害のある幼児との試行錯誤や葛藤を経て,必要な配慮に気づき,また,障害のある幼児への意識変容が起こっていると考えられる。
そこで,筆者ら(2018)は,初任保育者3名に研究協力を依頼し,自閉症のある幼児の事例を提示し,どのような配慮があるのかを聞き取り調査した。3名の保育者は,全員が障害のある幼児の保育経験があり,同じ幼稚園に勤務し,就職後,1〜3年目でそれぞれ一人ずつである。その結果,初任時期では,障害のある幼児が,集団や保育室など,「幼児が環境に適応していくこと」を中心として捉え,環境調整していった。だが,偶発的な出来事から,発達障害のある幼児との環境調整が上手く行った姿を経験することで,「環境が幼児に適応していくこと」への意識変容が起こることが仮説的に明示された。
以上を踏まえ,本研究では,障害のある幼児に対する保育者の実践知の蓄積の上で,初任時期から中堅時期への成長過程に,障害のある幼児の「偶発的な適応への気づき」が重要という仮説のもと,初任保育者がどのような場面で,何に気が付いているのかをフォローアップ・インタビューから明らかにする。
方 法
筆者等の研究(2018)に引き続き,初任保育者3名に研究協力依頼を行った。
3名の保育者は,それぞれ経験年数が1年足されているものの,同じ幼稚園で働いていた。2019年3月に3名の保育者に再度インタビュー調査を約60分行った。
結果と考察
インタビュー調査から,障害のある幼児の「偶発的な適応への気づき」は,7事例が語られた。代表的な事例は以下の通りである。
〈事例1〉
障害のある幼児と仲がいい子の隣の子が欠席していたため,その子の隣に並ばせたら集会に参加できた。たまたま欠席していた子がいた中での発見であった。その後,欠席していた子が登園してきても,3人で参加出来た。これを何度も経験していくと,仲良しの子の隣でなくても手をつないで参加できるようになった。
〈事例2〉
クリスマスのお遊戯の練習にて,踊りに使う桜の枝にビニールテープを巻いた。その色テープを見て,本児は「ドクターイエロー,こまち・・」というように新幹線の名を言っていた。他児のために着けた印のテープではあったが,本児が興味を持って参加できるようになった。
インタビューでの語りの分析から,次の点がポイントとしてあげられた。
①保育者の意図性 高い―低い
②保育者の見通し ある―ない
③障害児の行動 できる―できない
つまり,初任保育者は,障害のある幼児が集団に適応していくという意図を高くもち,そうあって欲しいという期待の見通しを持って関わっていた。そのような関わりの中で,障害のある幼児が環境適応「できる」ことを求めていた。
だが,偶発的な適応の場面では,保育者の意図は低く,見通しもないが,偶然,障害のある幼児が「できた」場面であった。このような経験を通して,初任保育者は徐々に,「環境が幼児に適応していくこと」の必要性を学んでいた。
今後,偶発的な場面に気づき,その理解をどのように深めていけるかという研修などの開発が課題である。
近年,障害のある幼児と健常児とを同じ保育現場で保育するインクルーシブ保育が進められている。そこで保育者は,障害のある子と健常児と同じクラスの中で,関わり,援助していくことが求められている。
このような現状の中,ベテラン保育者は発達障害のある幼児に対して,どのように配慮しているのだろうか。勝浦ら(2018)は,障害のある幼児に対する保育者の配慮の実践知の構造を試みた。ベテラン幼稚園教諭1名へのインタビューをSCAT(大谷 2007,2011)によって分析した結果,配慮を行う上での「見極め」が実践知として蓄積され,その「見極め」具合によって,配慮の在り方が異なることを明らかにした。
では,このような保育者としての障害のある幼児に対する実践知はどのように形成されていくのだろうか。そこには,障害のある幼児との試行錯誤や葛藤を経て,必要な配慮に気づき,また,障害のある幼児への意識変容が起こっていると考えられる。
そこで,筆者ら(2018)は,初任保育者3名に研究協力を依頼し,自閉症のある幼児の事例を提示し,どのような配慮があるのかを聞き取り調査した。3名の保育者は,全員が障害のある幼児の保育経験があり,同じ幼稚園に勤務し,就職後,1〜3年目でそれぞれ一人ずつである。その結果,初任時期では,障害のある幼児が,集団や保育室など,「幼児が環境に適応していくこと」を中心として捉え,環境調整していった。だが,偶発的な出来事から,発達障害のある幼児との環境調整が上手く行った姿を経験することで,「環境が幼児に適応していくこと」への意識変容が起こることが仮説的に明示された。
以上を踏まえ,本研究では,障害のある幼児に対する保育者の実践知の蓄積の上で,初任時期から中堅時期への成長過程に,障害のある幼児の「偶発的な適応への気づき」が重要という仮説のもと,初任保育者がどのような場面で,何に気が付いているのかをフォローアップ・インタビューから明らかにする。
方 法
筆者等の研究(2018)に引き続き,初任保育者3名に研究協力依頼を行った。
3名の保育者は,それぞれ経験年数が1年足されているものの,同じ幼稚園で働いていた。2019年3月に3名の保育者に再度インタビュー調査を約60分行った。
結果と考察
インタビュー調査から,障害のある幼児の「偶発的な適応への気づき」は,7事例が語られた。代表的な事例は以下の通りである。
〈事例1〉
障害のある幼児と仲がいい子の隣の子が欠席していたため,その子の隣に並ばせたら集会に参加できた。たまたま欠席していた子がいた中での発見であった。その後,欠席していた子が登園してきても,3人で参加出来た。これを何度も経験していくと,仲良しの子の隣でなくても手をつないで参加できるようになった。
〈事例2〉
クリスマスのお遊戯の練習にて,踊りに使う桜の枝にビニールテープを巻いた。その色テープを見て,本児は「ドクターイエロー,こまち・・」というように新幹線の名を言っていた。他児のために着けた印のテープではあったが,本児が興味を持って参加できるようになった。
インタビューでの語りの分析から,次の点がポイントとしてあげられた。
①保育者の意図性 高い―低い
②保育者の見通し ある―ない
③障害児の行動 できる―できない
つまり,初任保育者は,障害のある幼児が集団に適応していくという意図を高くもち,そうあって欲しいという期待の見通しを持って関わっていた。そのような関わりの中で,障害のある幼児が環境適応「できる」ことを求めていた。
だが,偶発的な適応の場面では,保育者の意図は低く,見通しもないが,偶然,障害のある幼児が「できた」場面であった。このような経験を通して,初任保育者は徐々に,「環境が幼児に適応していくこと」の必要性を学んでいた。
今後,偶発的な場面に気づき,その理解をどのように深めていけるかという研修などの開発が課題である。