日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-63)

Sat. Sep 14, 2019 10:00 AM - 12:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PA48] 特別支援教育において「恐竜」の大きさが体感できる授業の探究

吉國秀人1, 内山逸子2, 小林禎明3, 棚倉未弥4 (1.兵庫教育大学大学院, 2.こくご・さんすう・数学教室, 3.加古川市立加古川養護学校, 4.元兵庫教育大学大学院)

Keywords:特別支援学級、実物大恐竜図、授業

問題と目的
 特別な配慮を必要とする児童生徒への教授学習心理学研究は,宇野・福山(2006)の「日々の実践例の中から援助の成功例を抽出し,その事例に関与している要因を検討してみること」という提案に基づき現在まで続けられてきている。(例:吉國・赤沢,2012など)。
 前研究では,特別支援学校高等部の生徒を対象とした小林・吉國・棚倉(2018)が,実物大恐竜図と体育館の床との間にマットを挟む支援の工夫等を取り入れた実践を行った。さらに特別支援学校小学部の児童を対象とした棚倉・小林・吉國(2018)は,事前に恐竜の絵本の読み聞かせを行い,絵本の恐竜が教室に遊びにやってきたという文脈下で実物大恐竜図を提示する工夫を行った。 
 既に高橋金三郎(1972)は,学校教育で恐竜教材を取り上げることの意味について,怪獣ではない「ホンモノ」である恐竜へ抱く子どもの興味を,その基本として挙げている。他方,文部科学省(2017)「小学校学習指導要領(解説)」にも目を配ると,例えば生活科においても「繰り返し動植物と関わる息の長い学習活動を設定することが大切である」との記述がある。さらに,いわゆる「学習の質を一層高める授業」の必要性も強く求められている。これらをふまえ本研究では,前研究に引き続き1.児童らが恐竜に対して大昔に実際に生きていた動物として興味を持つことができるようにすること,2.自分たち人間よりも大きな動物として恐竜の大きさを体感しつつわかることの実現を目指した授業を開発することを主たる目的とする。特に,恐竜への興味喚起の具体的な表出が見られるか,恐竜の大きさの理解が「比較活動」を通してどのように可能となっていくのかに注目して分析を行う。
方  法
対象:A市立B小学校の特別支援学級児童12名。知的障害や自閉症のある児童が学んでおり肢体不自由の児童は在籍していない。児童構成は6年1名,5年2名,4年1名,3年5名,2年2名,1年1名であった。 時期:2018年10月。
教材概要:授業のために,神奈川県立生命の星・地球博物館や千葉県立中央博物館,広島市朝動物園のご協力をいただき以下の4種類の教材を準備した。実物大恐竜図(ティラノサウルス,トリケラトプス),実物大恐竜足形(ティラノサウルス足形),化石レプリカ(ティラノサウルスの歯),動物頭骨標本(ライオンとシマウマの頭骨標本,当日に時間がとれなかったため使用しなかった)。
プランの概要:保護者も参観して下さる中で,体育館にて4つの発問に基づき45分間の授業を行った。概要は以下の通り。(発問1)この絵は,大昔の恐竜,ティラノサウルスの頭です。本物のティラノサウルスと,同じ大きさです。大きな口をあけていますね。大きな口の中にたくさんある,これは何だろう。(発問2)こちらの絵は,ティラノサウルスのうしろ足です。これも,本物のティラノサウルスと,同じ大きさです。みんなの足と,ティラノサウルスの足と,足の大きさを比べよう。(発問3)絵をひろげて,ティラノサウルスの体,ぜんぶをみてみよう。くつをぬいで,絵の上にのってもかまいません。・・・(略)・・・ティラノサウルスの体で,きみはどこがすきかな。(発問4)大昔には,ティラノサウルスのほかに,4本足のトリケラトプスもいました。トリケラトプスの絵も見よう。本物のトリケラトプスと同じ大きさです。
結果と考察
 授業における教師と児童らとのやりとりについては,個人のプライバシーに充分配慮し校長先生にも許可をいただき授業記録にまとめ整理した。
整理した表より注目したいやりとりを以下に示す。
1.授業前半は発言が多くなかったが,後半には恐竜の体の大きさやつくりに着目して,どんどん質問を出してくれた児童が1名見られた(例:「何で,ティラノサウルスの鼻って,でっかいんですか?」,「トリケラトプスには,歯が無い!」)。2.授業終盤に,もう1つの実物大恐竜図を広げたとたんに,教師は特別に促し続けなくとも,先に見た実物大図との比較をして,児童からたくさんの意見が出された(例:「4足歩行」,「角がある」,「しっぽが短い」,「ティラノサウルスの爪よりも小さい」,「ちっちゃい,食べられちゃう」)。今後の課題としては次の2点を挙げておきたい。ひとつは,「肉食」や「草食」という語句を必ずしも使わなくとも,襲って肉を食べたり,植物を食べたりする「食う・食われる」の関係について,子どもたちの認識実態をふまえながらどのように工夫すれば問うことができるかを検討すること。2つは,「体の部分」と「体の全体」の学習場面をどのように組み合わせてプランを構造化するか再検討することである。