[PA49] 体罰を起こさない教師教育に関する研究
教師志望学生にロールレタリングを導入して
Keywords:体罰、ロールレタリング、教師教育
目 的
学校教育法第11条では,「校長及び教員は,教育上必要があると認めるときは,監督庁の定めるところにより,学生,生徒及び児童に懲戒を加えることができる。但し,体罰を加えることはできない」としている。にもかかわらず,学校教育現場での体罰問題は一向に後を絶たない現状にある。
安田(2000)は,被体罰体験者ほど「時と場合によって許される」と体罰を容認する傾向があるとし,兄井・永里・竹内・長嶺・須崎(2014)は,教育学部に所属し,将来教員を目指す学生の意識調査から,2割の学生が体罰を体験し,体罰を受けた気持ちとして,「自分が悪かったので仕方ないと思った」というものが最も多く,そのうち2割は,将来場合によっては体罰を行うと回答していることを報告している。このことは,体罰が児童生徒の人権侵害行為であることの意識の欠如や体罰を「行う者-受ける者」といった二者関係のみで捉え,体罰をめぐり様々な人間関係に影響を与えることを認知できていないものと思われる。
ロールレタリングとは,自らが自己と他者の立場になって,役割交換を行いながら,双方から交互に手紙で訴えることで,多様な他者の視点による様々な気づきが生じ,自己の問題解決の促進を図る心理技法である。
そこで,これまでの研究報告から得た知見をもとに,教師志望学生を対象に,ロールレタリングを導入し,体罰を起こさない教師教育の支援の一方途を究明することを目的とし,研究を行った。
方 法
本研究の対象は,A大学の中等教職科目の「生徒・進路指導論」の受講者である大学2年生38名(男性20名,女性18名)を無作為に,実験群19名(男性10名,女性9名)と統制群19名(男性10名,女性9名)に割り当てた。実験群の学生には「生徒・進路指導論」の授業後,ロールレタリングを1回15分,計4回(2往復)を11回~14回の授業後に実施した。すべての被験者には当研究の趣旨を書面にて説明し,同意後実施した。
実施前の調査は,10回目の「生徒・進路指導論」の授業後に実験群,統制群に,秋池(1992),藤田・市川・福場(2016)の項目を参考に作成し,「体罰容認態度」「体罰の教育効果」(各々2項目で4件法)で回答を求める体罰意識調査を行った。実施後の調査は,15回目の「生徒・進路指導論」の授業後,実験群がロールレタリングを1回15分,計4回(2往復)「私→体罰を受けて不登校になった生徒へ(1回目)」「体罰を受けて不登校になった生徒→私へ(2回目)」「体罰で職を失った私→大切な〇〇へ(3回目)」「大切な〇〇→体罰で職を失った私へ(4回目)」を実施後,実施前と同様に,体罰意識調査を実験群,統制群に行った。さらに,実験群では,計4回(2往復)のロールレタリングの記述内容やロールレタリングの内省報告から効果を検証した。なお,「生徒・進路指導論」第9回の授業で「体罰」に関する内容を取り扱った。
結 果
「体罰容認態度」の得点変化については,実験×時期の交互作用には有意差は認められなかったものの下降傾向にあった(F(1,36)=3.78,p<.10)。 「体罰の教育効果」の得点変化については,実験群における時期の主効果は有意に下降した(F(1,36)=3.97,p<.05)。
ロールレタリングの記述内容については,抽出学生A(男性)は,体罰を受けて不登校になった生徒への往信では,「先生はあなたのためを思って手を上げてしまったんだよ」と記述し,不登校になった生徒の立場による返信では,「先生は,良かれと思って,私のことを叩いたと思いますが,みんなの前で叩かれてショックで学校にも行けないくらいトラウマ状態です」と記述していた。
ロールレタリングの内省報告については,抽出学生B(男性)は,「体罰は受けた自分が認めていれば良いと思っていたが,本 人や保護者は当然であるが,自分の家族や職場の教職員の信頼も失わせ,多くの周りの人に迷惑をかけていることに気づいた」と記述していた。また,抽出学生C(女性)は,「体罰を行うことで,教師自身が暴力を肯定し,そのような態度や行動を生徒に見せることは,生徒のいじめにもつながっていくのではないかと感じた」と記述していた。
結 論
本研究では,教師志望学生を対象に,ロールレタリングを導入することで,体罰意識調査「体罰の教育効果」の認知が下降するとともに,ロールレタリングの記述内容やロールレタリング後の内省報告による様々な気づきから,体罰を起こさない教師教育支援の一方途となることが示唆された。
学校教育法第11条では,「校長及び教員は,教育上必要があると認めるときは,監督庁の定めるところにより,学生,生徒及び児童に懲戒を加えることができる。但し,体罰を加えることはできない」としている。にもかかわらず,学校教育現場での体罰問題は一向に後を絶たない現状にある。
安田(2000)は,被体罰体験者ほど「時と場合によって許される」と体罰を容認する傾向があるとし,兄井・永里・竹内・長嶺・須崎(2014)は,教育学部に所属し,将来教員を目指す学生の意識調査から,2割の学生が体罰を体験し,体罰を受けた気持ちとして,「自分が悪かったので仕方ないと思った」というものが最も多く,そのうち2割は,将来場合によっては体罰を行うと回答していることを報告している。このことは,体罰が児童生徒の人権侵害行為であることの意識の欠如や体罰を「行う者-受ける者」といった二者関係のみで捉え,体罰をめぐり様々な人間関係に影響を与えることを認知できていないものと思われる。
ロールレタリングとは,自らが自己と他者の立場になって,役割交換を行いながら,双方から交互に手紙で訴えることで,多様な他者の視点による様々な気づきが生じ,自己の問題解決の促進を図る心理技法である。
そこで,これまでの研究報告から得た知見をもとに,教師志望学生を対象に,ロールレタリングを導入し,体罰を起こさない教師教育の支援の一方途を究明することを目的とし,研究を行った。
方 法
本研究の対象は,A大学の中等教職科目の「生徒・進路指導論」の受講者である大学2年生38名(男性20名,女性18名)を無作為に,実験群19名(男性10名,女性9名)と統制群19名(男性10名,女性9名)に割り当てた。実験群の学生には「生徒・進路指導論」の授業後,ロールレタリングを1回15分,計4回(2往復)を11回~14回の授業後に実施した。すべての被験者には当研究の趣旨を書面にて説明し,同意後実施した。
実施前の調査は,10回目の「生徒・進路指導論」の授業後に実験群,統制群に,秋池(1992),藤田・市川・福場(2016)の項目を参考に作成し,「体罰容認態度」「体罰の教育効果」(各々2項目で4件法)で回答を求める体罰意識調査を行った。実施後の調査は,15回目の「生徒・進路指導論」の授業後,実験群がロールレタリングを1回15分,計4回(2往復)「私→体罰を受けて不登校になった生徒へ(1回目)」「体罰を受けて不登校になった生徒→私へ(2回目)」「体罰で職を失った私→大切な〇〇へ(3回目)」「大切な〇〇→体罰で職を失った私へ(4回目)」を実施後,実施前と同様に,体罰意識調査を実験群,統制群に行った。さらに,実験群では,計4回(2往復)のロールレタリングの記述内容やロールレタリングの内省報告から効果を検証した。なお,「生徒・進路指導論」第9回の授業で「体罰」に関する内容を取り扱った。
結 果
「体罰容認態度」の得点変化については,実験×時期の交互作用には有意差は認められなかったものの下降傾向にあった(F(1,36)=3.78,p<.10)。 「体罰の教育効果」の得点変化については,実験群における時期の主効果は有意に下降した(F(1,36)=3.97,p<.05)。
ロールレタリングの記述内容については,抽出学生A(男性)は,体罰を受けて不登校になった生徒への往信では,「先生はあなたのためを思って手を上げてしまったんだよ」と記述し,不登校になった生徒の立場による返信では,「先生は,良かれと思って,私のことを叩いたと思いますが,みんなの前で叩かれてショックで学校にも行けないくらいトラウマ状態です」と記述していた。
ロールレタリングの内省報告については,抽出学生B(男性)は,「体罰は受けた自分が認めていれば良いと思っていたが,本 人や保護者は当然であるが,自分の家族や職場の教職員の信頼も失わせ,多くの周りの人に迷惑をかけていることに気づいた」と記述していた。また,抽出学生C(女性)は,「体罰を行うことで,教師自身が暴力を肯定し,そのような態度や行動を生徒に見せることは,生徒のいじめにもつながっていくのではないかと感じた」と記述していた。
結 論
本研究では,教師志望学生を対象に,ロールレタリングを導入することで,体罰意識調査「体罰の教育効果」の認知が下降するとともに,ロールレタリングの記述内容やロールレタリング後の内省報告による様々な気づきから,体罰を起こさない教師教育支援の一方途となることが示唆された。