日本教育心理学会第61回総会

Presentation information

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-67)

Sat. Sep 14, 2019 1:00 PM - 3:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB06] 保育者養成課程における共感性育成プログラムの提案

最終レポートにおける記述の検討から

木野和代1, 内田千春2 (1.宮城学院女子大学, 2.東洋大学)

Keywords:多次元共感性、メンタルヘルス、自由記述

問題と目的
 保育者養成課程では,子どもや保護者と関わる上で,受容的共感的態度が重要であると説かれている。これは,子ども一人一人の行動や思い,発達の状況を理解し,子どもが安心して自己発揮できるような人的環境を整えることが基本とされる乳幼児教育の考え方による。また,子育て支援においても,保護者への共感的態度が必要であるとされる。しかし支援対象がますます多様化するとともに,保育ニーズが高い都市部では最低基準ぎりぎりまで子どもを受け入れるなど,支援者である保育者側に余裕のない状況が生まれている。こうした中,支援対象に共感しようとしすぎることがメンタルヘルスに悪影響を及ぼし,早期離職を促すことが懸念される。
 そこで筆者らは,これまで保育者における共感性と共感疲労の関連から保育者のメンタルヘルスの問題を検討してきた(木野・内田,2017,他)。本研究ではこれまでの研究の知見を踏まえ,共感疲労に陥らない健康な共感的態度について考えるプログラムを作成し,保育者養成教育での活用可能性とその効果について実践的に検討した。
方  法
プログラム参加者:保育士・幼稚園教諭養成課程に所属する大学4年生(「教職実践演習」受講者)90名,小学校・幼稚園教諭養成課程に所属する大学3年生(「幼児理解」受講者)25名。このうち,研究協力に同意が得られ,かつ,毎回の宿題提出を含めた全活動に参加した56名(男4,女52),17名(男5,女12)の記述を分析に用いた。
プログラム実施方法:1グループ25人以下の5つの授業用に組まれたグループごとに,3回の授業時間内に実施した。授業時間の前半平均50分に共感性プログラムを,後半にプログラムで用いた事例に関連するテーマを扱った小講義を行った。
プログラムおよび小講義の概要:【第1回】共感性の多次元的理解(自己分析),事例検討1,小講義「新要領のめざす保育観と保育者に求められるもの」,宿題。【第2回】共感疲労(自己分析;今他,2007より),事例検討2,小講義「社会情動的スキルの育成のために」,宿題。【第3回】レジリエンス(自己分析;森他, 2002より),事例検討3,小講義「チーム学校(保育者の協働)」,宿題。
プログラム振り返り:授業レポートとして「これまで3回の授業で学んできたことについて思い返し,あなたにとって大事なこと,今後役立ちそうなことについて具体的に書いてください。」と依頼した。73名中71名がレポートを提出した。
結果と考察
記述内容の評定:プログラム振り返りの自由記述(授業レポート)について,以下に述べる複数の「評価項目」を立て,これらの記述が確認できるかを著者2名が独立に評定した。2者間で不一致の評定については,協議により再評定した。
評定の集計結果:「メンタルヘルス管理の重要性」に言及した者は55名(77.5%; 以降,分母は71名)であった。このうち,16名(22.5%)が『より良い保育に重要』など「保育者として仕事をする上での重要性」に言及した。大半の学生がメンタルヘルスの重要性を意識できたといえる。さらに,自分自身の健康のためだけではなく,『よりよい支援を提供するために必要』という点まで自発的に説明した者がみられた。このような視点を持つことは,行き詰まった時に思い切って切替・休息ができるかという点にかかわると考えられるため,一層の意識化を促す必要があるのではないだろうか。
 また,先述の55名のうち48名(67.6%)が「メンタルヘルス対策」に言及し,このうち9名が「将来,先輩保育者等として新人のメンタルヘルスにも配慮」することにも触れていた。具体的な対策としては,事例検討3で取り扱った職場の人への相談や相談できる環境を整えることに言及した者が34名(47.9%)であった。気分転換や休息は10名(14.1%)が記述した。この他,自分自身のレジリエンスの認知・自己点検など予防的な観点の対策もみられた(10名)。被影響性にかかわる対策として『入り込みすぎない』『一歩引いて客観的に考える』などの記述もみられた。加えて,自己分析の結果に基づいて自身の特徴を踏まえた対応策を述べる者がみられたことから,自己分析を取り入れたプログラムは有効であったと考えられる。ただし,具体的対策への言及がないまま『レジリエンスを高める』と記述される場合もあり,さらに踏み込んだ働きかけが必要と考えられた。
 自己分析により自信がついたという者がみられた一方で,自己分析の結果や事例中の人物への同一化によって不安になった者(「自信低下・不安」)が3名(4.2%)いた。こうした参加者には,個別のアプローチも必要と考えられた。