日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-67)

Sat. Sep 14, 2019 1:00 PM - 3:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB09] 教職課程への動機づけが教育実習後の教師効力感・アイデンティティにおよぼす影響

田中希穂 (同志社大学)

Keywords:教職課程、動機づけ、アイデンティティ

目  的
 教師の早期離職が教育現場の問題の一つとなっていることから,大学の教職課程は教員としての必要な資質能力を学生に確実に身につけさせ,教職志望の優秀な人材を育成することが必要であり,教職課程の改善・充実に向けた更なる取り組みが求められている。特に,教師としての効力感やアイデンティティの獲得が教職現場における適応と関連することから,学生時代に教師効力感・アイデンティティの発達を促すことは重要である。
 大学の教職課程が学生に培わせるべき教師としての資質能力の中核には教職への志望意識や志望動機があることから(仲山,2007),これらが教師としての効力感やアイデンティティの発達に影響すると考えられる。そこで本研究では,学生の教職志望理由や教職課程履修動機と,教師効力感やアイデンティティの発達との関連を検討する。特に教育実習は,大学の教職課程で獲得した知識やスキルを実践する場であり,教師としての自己を見つめる機会であることから,実習経験を通した影響を検討する。
方  法
参加者:4年制総合大学で教職課程を履修している4年生93名。
測度:①教師志望理由‐藤原(2004)の尺度のうち1項目を削除,1項目を追加した14項目を用いた。最尤法プロマックス回転による因子分析の結果から「子ども好き」「職業的憧れ」「他者の勧め」「職業的価値」を下位尺度とした。②教職課程履修動機‐Black & Deci(2000)のSRQ-Lの12項目を修正し用いた。因子分析の結果,「自己成長」「他者承認」「成績不安」を下位尺度とした。③教師効力感‐ Schwarzer, Schmitz, & Daytner(1999)のTeacher Self-Efficacy Scaleの10項目を用いた。因子分析の結果,「子・親への対応」「教育的取組」を下位尺度とした。④教師アイデンティティ‐松井・柴田(2008)の職業的アイデンティティ尺度から16項目を用いた。因子分析の結果,「明確な教師像」「教師としての貢献」「教師としての存在価値」「職業としての継続性」を下位尺度とした。
調査時期:4年生のはじめに①教師志望理由,②教職課程履修動機,③教師効力感,④教師アイデンティティを測定した。教育実習後に③教師効力感と④教師アイデンティティを再度測定した。
結果および考察
 教育実習前に測定した教師志望理由と教職課程履修動機を独立変数,教育実習後の教師効力感と教師アイデンティティを従属変数とした重回帰分析を行った。分析の際,統制変数として,教育実習前の効力感・アイデンティティを分析に加えた。
 分析の結果,教職志望理由のうち,「子ども好き」という理由は,“教師として生徒の願いに応えたい”という「教師としての貢献」のような教師アイデンティティの促進と関連した(β=.26)。“教師は社会的に重要な職業だから”のような「職業的価値」を重視した志望理由は,「教育的取組」への効力感(β=.24),教師としての「貢献」・「存在価値」・職業としての「継続性」(β=.35, .33, .17)のような教師アイデンティティと関連した。他者からの勧めや教師への憧れというような理由ではなく,子どもに目を向けているかどうかや,教職や教育の価値に着目して教職を志望している学生の方が,教育実習を通して教師効力感や教師アイデンティティを発達させる傾向があった。
 履修動機のうち“教職の本質や深い内容について学ぶことが興味深い”という「自己成長」動機は,教師効力感の「子・親への対応」と教師アイデンティティの「継続性」とネガティブに関連した(β=-.27, -.19)。「自己成長」のような内発的動機づけによって教職課程に取り組んでいても,教育実習を経験したことにより,授業実践・学校運営・子どもや保護者への対応・その他の雑務に取り組む教員を見たり,直接経験した結果,教職課程で学習した知識やスキルと教育現場の実情との乖離を実感し,職業として生涯続けていくことに不安を感じた可能性が考えらえる。“良い成績が取れないかもしれないという不安”から教職課程に取り組んでいる「成績不安」動機もまた「継続性」にネガティブに影響した(β=-.23)。教職関連科目の履修に対する不安は,教師としての知識・スキルへの不安を高め,教育実習を通して教職という職業選択を躊躇した可能性が考えられる。
 教職の社会的重要性の認識や,子どもとの積極的なかかわりを通して子どもに対するポジティブな感情の育成が,大学の教職課程においては重要であると考えられる。また,内発的に学習に動機づけられていたとしても,それが教師アイデンティティの発達につながらない可能性があることは,今後の教育内容の再検討の必要性を示唆している。