日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-67)

Sat. Sep 14, 2019 1:00 PM - 3:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB12] フィンランドの児童の「友だちマップ」にみる友人観の発達

寺川志奈子 (鳥取大学)

Keywords:友人観、フィンランド、児童期


目  的
 児童期においては,9,10歳頃から,他者視点から自分を反省的に捉え始め(Selman,1981),自他についての多面的な理解が始まり,また,友人選択の理由においては,小学校低学年の時期を移行期として,外的要因から内面に関わる要因へと緩やかに変化する(田中,1975)ことが指摘され,友だちに対してより内面的,双方向的な結びつきを求めるようになる(Bigelow,1977)とされる。このことは,子どもの「友人観」の発達とも関連すると考えられるが,文化的社会的要因の異なる国においても,共通する発達的変化を捉えることができるのであろうか。本稿では,9,10歳の発達の質的転換期に着目し,「友だち」の概念地図としての「友だちマップ」作成を通してみた,フィンランドの児童の「友人観」の発達について検討する。
方  法
参加者:ヘルシンキ郊外の小学校2校の3年生42名と5年生38名。
課題と手続き:担任教員によりクラス単位で集団実施。教示が書かれた用紙が配布され,担任教員により実施方法が口頭で説明された。紙の中央に「ystävä」(友だち)という言葉を書き,そこから自由に連想する言葉をつなげて「友だちマップ」に仕上げさせる。この方法は,「アヤトゥス・カルタ」と呼ばれ,フィンランドの授業では,よく用いられている。次に,連想した言葉のなかで,自分に当てはまると思う言葉に,印(下線)をつけさせた。
結果と考察
 「友だち」という言葉から連想して書かれたすべての言葉について,学年毎に出現数の多かったものをTable 1に示した。
 小学3年生は,実際の友だちの名前を挙げたものが最も多かった(但し,1校のみの出現)。そして,「助ける」といった行動レベルでのつながりや,「すてきな」「仲のよい」「楽しい」「親切な」など,友だちに対して一方向的に抱く感情について書かれているものが多かった。
 一方,5年生になると,「信頼できる」といった言葉が最も多く出現し,「正直な」「フェアな」「心地よい」など,内面的なつながりを示すような表記が見られるようになった。また,語彙が広がり,「相手を受け入れる」「いらいらを和らげる」など,短文で表した,友人間のより深い関係性をあらわした表現が示された。
 3年生から5年生にかけての,表現された言葉の内容の発達的変化は,表面的で,一方向的な関係を捉えていた「友人観」から,内面的で,双方向的な関係を捉えた「友人観」への移行を文化普遍的な発達的傾向として示唆していると考えられる。一方,3年生で友だちの実名の表記が見られたのが1校であったことや,もう1校は3年生から「信頼できる」(luotettava)が見られるなど,学校間差がうかがえ,教育の効果を検討する必要があると思われる。今後,日本の児童のデータとの比較検討により,発達的な共通性と,文化的社会的要因について検討していきたい。