[PB13] 仲間の違反の報告に対する児童の認識に教師からの質問の有無が与える影響の検討
Keywords:真実の報告、教師からの質問、善悪判断
問題と目的
本研究は,他者(仲間)の違反を教師に報告すること(告げ口,tattling)に対する児童の認識を検討するものである。仲間の違反の報告に対する子どもの認識を扱ったものに,Chiu Loke et al.(2011,2014)の一連の研究がある。これらの研究では,違反の目撃者が自発的に教師に仲間の違反を報告する仮想場面が設定されていた。それに対し,楯(2018,2019)の研究では,教師から仲間の違反について,誰が行ったかを尋ねられる場面が含まれていた。本研究ではこの点に注目し,教師からの問いかけ,質問の有無が仲間の違反の報告に対する児童の認識に与える影響を検討する。また,本研究では仲間の違反の報告に対する認識として,報告および未報告に対する善悪判断とともに,報告によるネガティブな結果の予期を取り上げ,これらと仲間の違反の報告の選択・決定との関連性を分析する。
方 法
調査対象 公立小学校に通う小学6年生104名(平均年齢11.85歳,男子48名,女子56名)。
課題内容 教師からの質問の有無が,仲間の違反の報告に対する認識に与える影響を検討するために,大きく2種類のストーリー課題が設定された。1つは,クラスメイト(違反者)の違反を見つけた登場人物(目撃者)が,その後教師から違反者について尋ねられるストーリー(質問あり条件)であった。もう1つは,教師から質問を受ける場面がない以外は同一のストーリー(質問なし条件)が用いられた。教師からの質問の有無は被験者間要因で設定された。それぞれの条件について,違反事例(図書室の本を破る,廊下のポスターを破る)の異なる2つのストーリーが作成され,調査対象者は同一条件の2つのストーリーへの回答が求められた。
質問内容 (1)報告―善悪判断質問 目撃者が教師に違反者のことを告げることに対する善悪判断を尋ねた。(2)未報告―善悪判断質問 目撃者が教師に違反者のことを告げないことに対する善悪判断を求めた。この2つの質問に関しては,7件法で回答を求めた。(3)結果予期質問 目撃者が違反者のことを教師に告げた後に,何か困ったことが目撃者に起こるかどうかを5件法で尋ねた。(4)違反報告の選択・決定質問 「もしあなたが目撃者だったら」という形式で,違反者のことを教師に告げるか否かを「言わないと思う」「どちらともいえない」「言うと思う」3件法(-1から+1に得点化)で尋ねた。それぞれの質問の得点は,2つのストーリーの回答を合計した値を用いた。
調査手続き 質問紙による仮想場面実験の手続きが取られた。クラス単位で教師による質問紙の配布,回収が行われた。
結 果
ストーリー課題の条件による比較 それぞれの質問ごとに対応のないt検定を実施し,平均値の比較を行った。その結果,違反報告の選択・決定質問において0.1%水準で有意差が見られた(t(102)=3.99,p<.001(両側検定))。質問なし条件(58名,M=0.04,SD=1.51)と比べて質問あり条件(46名,M=1.13,SD=1.22)において平均値が高く,より教師に違反者のことを報告すると回答していた。その他の質問に関しては,いずれもストーリー課題の条件による有意差は認められなかった。
質問間の関連性 違反報告の選択・決定質問と他の質問との関連性を検討するために,ストーリー課題の条件ごとに相関係数を算出した(有意性検定はいずれも両側検定)。結果として,質問あり条件においては,違反報告の選択・決定質問と報告―善悪判断質問との間に有意な正の相関が認められた(r=.331,p<.01)。一方,質問なし条件では違反報告の選択・決定質問と報告―善悪判断質問との間に有意な正の相関(r=.375,p<.01),未報告―善悪判断質問(r=-.308,p<.05),結果予期質問(r=-.260,p<.05)との間に有意な負の相関が認められた。
考 察
教師からの仲間の違反についての問いかけの有無は,仲間の違反を告げるか否かの自らの決定に関与すると児童は認識していることが示された。教師からの質問が真実の報告を促す一定の影響力を持つ,と児童は認識している可能性が考えられる。
報告の選択・決定と他の認識との関連性を見ると,ストーリー課題の条件間で関連性の有無に違いが見られた。教師からの質問の有無は,違反報告の選択・決定と他の認識のとの関連性にも影響を与えているのかもしれない。
本研究は,他者(仲間)の違反を教師に報告すること(告げ口,tattling)に対する児童の認識を検討するものである。仲間の違反の報告に対する子どもの認識を扱ったものに,Chiu Loke et al.(2011,2014)の一連の研究がある。これらの研究では,違反の目撃者が自発的に教師に仲間の違反を報告する仮想場面が設定されていた。それに対し,楯(2018,2019)の研究では,教師から仲間の違反について,誰が行ったかを尋ねられる場面が含まれていた。本研究ではこの点に注目し,教師からの問いかけ,質問の有無が仲間の違反の報告に対する児童の認識に与える影響を検討する。また,本研究では仲間の違反の報告に対する認識として,報告および未報告に対する善悪判断とともに,報告によるネガティブな結果の予期を取り上げ,これらと仲間の違反の報告の選択・決定との関連性を分析する。
方 法
調査対象 公立小学校に通う小学6年生104名(平均年齢11.85歳,男子48名,女子56名)。
課題内容 教師からの質問の有無が,仲間の違反の報告に対する認識に与える影響を検討するために,大きく2種類のストーリー課題が設定された。1つは,クラスメイト(違反者)の違反を見つけた登場人物(目撃者)が,その後教師から違反者について尋ねられるストーリー(質問あり条件)であった。もう1つは,教師から質問を受ける場面がない以外は同一のストーリー(質問なし条件)が用いられた。教師からの質問の有無は被験者間要因で設定された。それぞれの条件について,違反事例(図書室の本を破る,廊下のポスターを破る)の異なる2つのストーリーが作成され,調査対象者は同一条件の2つのストーリーへの回答が求められた。
質問内容 (1)報告―善悪判断質問 目撃者が教師に違反者のことを告げることに対する善悪判断を尋ねた。(2)未報告―善悪判断質問 目撃者が教師に違反者のことを告げないことに対する善悪判断を求めた。この2つの質問に関しては,7件法で回答を求めた。(3)結果予期質問 目撃者が違反者のことを教師に告げた後に,何か困ったことが目撃者に起こるかどうかを5件法で尋ねた。(4)違反報告の選択・決定質問 「もしあなたが目撃者だったら」という形式で,違反者のことを教師に告げるか否かを「言わないと思う」「どちらともいえない」「言うと思う」3件法(-1から+1に得点化)で尋ねた。それぞれの質問の得点は,2つのストーリーの回答を合計した値を用いた。
調査手続き 質問紙による仮想場面実験の手続きが取られた。クラス単位で教師による質問紙の配布,回収が行われた。
結 果
ストーリー課題の条件による比較 それぞれの質問ごとに対応のないt検定を実施し,平均値の比較を行った。その結果,違反報告の選択・決定質問において0.1%水準で有意差が見られた(t(102)=3.99,p<.001(両側検定))。質問なし条件(58名,M=0.04,SD=1.51)と比べて質問あり条件(46名,M=1.13,SD=1.22)において平均値が高く,より教師に違反者のことを報告すると回答していた。その他の質問に関しては,いずれもストーリー課題の条件による有意差は認められなかった。
質問間の関連性 違反報告の選択・決定質問と他の質問との関連性を検討するために,ストーリー課題の条件ごとに相関係数を算出した(有意性検定はいずれも両側検定)。結果として,質問あり条件においては,違反報告の選択・決定質問と報告―善悪判断質問との間に有意な正の相関が認められた(r=.331,p<.01)。一方,質問なし条件では違反報告の選択・決定質問と報告―善悪判断質問との間に有意な正の相関(r=.375,p<.01),未報告―善悪判断質問(r=-.308,p<.05),結果予期質問(r=-.260,p<.05)との間に有意な負の相関が認められた。
考 察
教師からの仲間の違反についての問いかけの有無は,仲間の違反を告げるか否かの自らの決定に関与すると児童は認識していることが示された。教師からの質問が真実の報告を促す一定の影響力を持つ,と児童は認識している可能性が考えられる。
報告の選択・決定と他の認識との関連性を見ると,ストーリー課題の条件間で関連性の有無に違いが見られた。教師からの質問の有無は,違反報告の選択・決定と他の認識のとの関連性にも影響を与えているのかもしれない。