[PB14] 読み手意識の具体性が文章産出に与える影響
Keywords:読み手意識、文章産出、理由想定
問題と目的
質の高い文章産出を実現するためには,読み手意識(audience awareness)をもち,読み手の知識や要求に合わせて文章を調整する必要がある(McCutchen, 2006)。一方,小学生や中学生を対象とした研究では,読み手を意識し,読み手に合わせて文章を産出しようとするものの,それらを十分に達成できない学習者の存在が指摘されてきた(e.g., Lindgren, Leijten, & Van Waes, 2011;小野田,2014)。そこで本研究では,中学生の文章産出活動を対象とし,生徒にとっての「仮想の読み手」の特徴を明らかにする。また,読み手意識の具体性を高める介入を行い,産出される文章にどのような変化が生じるかについて検証する。
研究1
目的 生徒が想定する仮想の読み手の特徴を明らかにする。
方法
参加者:中学校2年生の1学級(43名)。
作文課題:「自分の中学校の良さを小学校6年生にプレゼンする」ことを作文の論題とした。
読み手意識調査:「どのように読み手を想像したか」について5件法(1:まったく読み手を想像しなかった〜5:かなり具体的に読み手を想像した)で尋ねた。
読み手の特徴に関する自由記述:「想像した読み手」について具体的に記述するように求めた。
結果
読み手意識の評定:評定得点の平均値は3.19 (SD = 0.66)であり,小学校6年生という読み手を教示したにもかかわらず,十分に読み手を想定していない生徒もいることが示された。
想定された読み手の特徴:読み手に関する自由記述を分析した結果,読み手の属性情報として,読み手の年齢や性別,所属などの人口統計学的な特徴に関する情報である「デモグラフィック記述」と,読み手の趣味や能力など,個人の特徴に関する情報である「パーソナル記述」の2カテゴリが見出された。それぞれの記述数は,デモグラフィック記述が平均1.33 (SD = 0.71),パーソナル記述が平均0.21 (SD = 0.41) であり,読み手の具体的な想定は必ずしもなされていないことが示された。
次に,読み手意識の評定得点と2つの属性記述,および文章内容との相関係数を検証した。文章内容としては,学校に関する情報数である「学校情報数」と,問いかけなど読み手を説得するための工夫の数である「工夫数」を算出した。読み手意識の評定得点と各変数の相関係数を算出した結果,デモグラフィック記述数(r = .17, n.s.),パーソナル記述数(r = .20, n.s.),学校情報数(r = .17, n.s.),工夫数(r = .09, n.s.)であり,読み手意識の評定は実際の読み手の想定と関連していない可能性が示された。
研究2
目的 読み手意識の具体性が文章産出に与える影響を検証する。
方法
参加者:中学校1年生の2学級(79名)。
条件:(1)研究1と同様の教示を行い,さらに口頭で読み手の想定を強調する「対照条件」と,(2)それに加えて想定した読み手を作文用紙の余白に書く「実験条件」を設定した。
作文課題・読み手意識調査:研究1と同様。
結果
読み手意識評定得点は対照条件(M = 2.79, SD = 1.02),実験条件(M = 3.95, SD = 0.71)であり,実験条件でより具体的に読み手が想定されていたことが示された(t (77) = 5.93, p < .01, d = 1.34, 95%CI [0.84, 1.82])。
読み手の属性に関する記述(デモ記述;デモグラフィック記述,パソ記述;パーソナル記述),および文章内容の条件間差をFigure 1に示す。
いずれの変数についても,条件間で有意な平均値差が認められたことから,具体的に読み手を書くだけの介入であっても文章産出に影響を与えることが示された。一方,実験条件では読み手を具体的に想定することで,学校情報に偏りが生起していた。これらの結果は,普段の文章産出において読み手が十分に想定されていないこと,および読み手を具体的に想定するだけでも文章産出に変化が生じる可能性を示す結果だといえる。
質の高い文章産出を実現するためには,読み手意識(audience awareness)をもち,読み手の知識や要求に合わせて文章を調整する必要がある(McCutchen, 2006)。一方,小学生や中学生を対象とした研究では,読み手を意識し,読み手に合わせて文章を産出しようとするものの,それらを十分に達成できない学習者の存在が指摘されてきた(e.g., Lindgren, Leijten, & Van Waes, 2011;小野田,2014)。そこで本研究では,中学生の文章産出活動を対象とし,生徒にとっての「仮想の読み手」の特徴を明らかにする。また,読み手意識の具体性を高める介入を行い,産出される文章にどのような変化が生じるかについて検証する。
研究1
目的 生徒が想定する仮想の読み手の特徴を明らかにする。
方法
参加者:中学校2年生の1学級(43名)。
作文課題:「自分の中学校の良さを小学校6年生にプレゼンする」ことを作文の論題とした。
読み手意識調査:「どのように読み手を想像したか」について5件法(1:まったく読み手を想像しなかった〜5:かなり具体的に読み手を想像した)で尋ねた。
読み手の特徴に関する自由記述:「想像した読み手」について具体的に記述するように求めた。
結果
読み手意識の評定:評定得点の平均値は3.19 (SD = 0.66)であり,小学校6年生という読み手を教示したにもかかわらず,十分に読み手を想定していない生徒もいることが示された。
想定された読み手の特徴:読み手に関する自由記述を分析した結果,読み手の属性情報として,読み手の年齢や性別,所属などの人口統計学的な特徴に関する情報である「デモグラフィック記述」と,読み手の趣味や能力など,個人の特徴に関する情報である「パーソナル記述」の2カテゴリが見出された。それぞれの記述数は,デモグラフィック記述が平均1.33 (SD = 0.71),パーソナル記述が平均0.21 (SD = 0.41) であり,読み手の具体的な想定は必ずしもなされていないことが示された。
次に,読み手意識の評定得点と2つの属性記述,および文章内容との相関係数を検証した。文章内容としては,学校に関する情報数である「学校情報数」と,問いかけなど読み手を説得するための工夫の数である「工夫数」を算出した。読み手意識の評定得点と各変数の相関係数を算出した結果,デモグラフィック記述数(r = .17, n.s.),パーソナル記述数(r = .20, n.s.),学校情報数(r = .17, n.s.),工夫数(r = .09, n.s.)であり,読み手意識の評定は実際の読み手の想定と関連していない可能性が示された。
研究2
目的 読み手意識の具体性が文章産出に与える影響を検証する。
方法
参加者:中学校1年生の2学級(79名)。
条件:(1)研究1と同様の教示を行い,さらに口頭で読み手の想定を強調する「対照条件」と,(2)それに加えて想定した読み手を作文用紙の余白に書く「実験条件」を設定した。
作文課題・読み手意識調査:研究1と同様。
結果
読み手意識評定得点は対照条件(M = 2.79, SD = 1.02),実験条件(M = 3.95, SD = 0.71)であり,実験条件でより具体的に読み手が想定されていたことが示された(t (77) = 5.93, p < .01, d = 1.34, 95%CI [0.84, 1.82])。
読み手の属性に関する記述(デモ記述;デモグラフィック記述,パソ記述;パーソナル記述),および文章内容の条件間差をFigure 1に示す。
いずれの変数についても,条件間で有意な平均値差が認められたことから,具体的に読み手を書くだけの介入であっても文章産出に影響を与えることが示された。一方,実験条件では読み手を具体的に想定することで,学校情報に偏りが生起していた。これらの結果は,普段の文章産出において読み手が十分に想定されていないこと,および読み手を具体的に想定するだけでも文章産出に変化が生じる可能性を示す結果だといえる。