[PB36] ポジティブ教育と成育環境要因(1)
グリットを支える要因
Keywords:目標構造、達成目標、グリット
問 題
ポジティブ心理学は,心のポジティブな側面に関する研究実践を行う運動である(島井, 2006)。ポジティブ心理学では,人格的な強み(charactor strengths)やグリット(grit; 重要目標への忍耐力)などのポジティブな特性をとらえ,それを育成するためのさまざまな実践が行われ始めているが,その基礎となる知見は蓄積されていない。本研究ではグリットに焦点をあて,それを高めるうえで効果的な社会的要因について探索した。
グリット育成に影響を及ぼす社会的要因としては学校の目標構造が指摘されている。すなわち,子どもに対して習得目標の重要性を強調する学校ではグリットが高まり,遂行目標の重要性を強調する学校ではグリットが低下しやすい(Park et al., 2018)。ただし,この研究では学校の目標構造以外の要因の効果については検討されていない。特に親は子どもに大きな影響を与えうる社会的要因であると考えられる。
そこで,本研究では回想法を用いて,子どもの頃の社会的要因(e.g., 親や学校の関わり)と成人後のグリットの関係について検討した。
方 法
調査対象 就労者1,600名(20-59歳の男女)に対してインターネット調査を行った。
調査内容 現在のグリット(竹橋ら, 2018)と人格的強み(24種の強みを各1項目で測定; CST)について評定させた後,過去の社会的要因についての次の項目に回答を求めた。本研究は関西福祉科学大学研究倫理審査(承認番号18-46)のうえで実施された。
中学時代の学校の関わり:学校の目標構造(習得重視vs.遂行重視; Roeserら, 1996)に加え,学校享受感(例:「学校は楽しかった」「居場所があった」)を測定した。
中学時代の親の関わり:親の目標構造尺度(Friedelら, 2007)を参考とし,習得重視,遂行重視,社会性重視(例:「親は私に,社会の役に立つ人間になってほしいと願っていた」)の尺度を作成した。他に,親からの愛着(内海, 2013)を測定した。
幼少期の社会経済的地位(SES):子どもの頃(10歳まで)の豊かさと予測困難性(Griskeviciusら, 2013)を測定した。
結果と考察
現在のグリットを従属変数,中学校時代の学校や親の関わり,幼少期の社会経済的地位,性別,年齢を独立変数とするステップワイズ法による重回帰分析を行った。
その結果(表1),中学時代の親の関わりの効果がみられた。親が習得重視であったと思う人ほど現在のグリットが高く,親が遂行重視であったと思う人ほどグリットが低かった。この結果はParkら(2018)の知見と一致する。グリットを育むうえでは,性急に結果を求めず,成長や学びの大切さを強調することが重要であると考えられる。また,年齢が高いほどグリットが高いという結果は,Duckworthら(2007)と一致する。
新たな知見としては,以下の二つを挙げることができる。第一に,中学校時代に親から子どもへの社会性への期待が高かったと思う人ほど,現在のグリットが高かった。親が子どもに大志を抱くように期待することは,子どものグリットを育成するうえで有効かもしれない。本研究の結果は,習得-遂行の重視といった従来の目標構造(Park et al., 2018)を超えて,多様な目標構造が子どものグリットと関連する可能性を示唆する。
第二の新たな知見として,中学時代の学校享受感が高かった人ほど,現在のグリットが高かった。困難に粘り強く取り組む(高グリットを発揮する)うえでは,個人を取り巻く環境が心理的に安全であることが重要であるかもしれない。
なお,中学時代の親からの愛着は成人後のグリットと関連しなかった。グリットを育むうえでは親が子に愛情を注ぐだけでは不十分であり,子の習得や社会性への期待を示すなどの行動が重要になるかもしれない。今後,グリットを支える要因についてさらに検討することが求められる。
付 記
H.30関西福祉科学大学共同研究費助成を受けた。
ポジティブ心理学は,心のポジティブな側面に関する研究実践を行う運動である(島井, 2006)。ポジティブ心理学では,人格的な強み(charactor strengths)やグリット(grit; 重要目標への忍耐力)などのポジティブな特性をとらえ,それを育成するためのさまざまな実践が行われ始めているが,その基礎となる知見は蓄積されていない。本研究ではグリットに焦点をあて,それを高めるうえで効果的な社会的要因について探索した。
グリット育成に影響を及ぼす社会的要因としては学校の目標構造が指摘されている。すなわち,子どもに対して習得目標の重要性を強調する学校ではグリットが高まり,遂行目標の重要性を強調する学校ではグリットが低下しやすい(Park et al., 2018)。ただし,この研究では学校の目標構造以外の要因の効果については検討されていない。特に親は子どもに大きな影響を与えうる社会的要因であると考えられる。
そこで,本研究では回想法を用いて,子どもの頃の社会的要因(e.g., 親や学校の関わり)と成人後のグリットの関係について検討した。
方 法
調査対象 就労者1,600名(20-59歳の男女)に対してインターネット調査を行った。
調査内容 現在のグリット(竹橋ら, 2018)と人格的強み(24種の強みを各1項目で測定; CST)について評定させた後,過去の社会的要因についての次の項目に回答を求めた。本研究は関西福祉科学大学研究倫理審査(承認番号18-46)のうえで実施された。
中学時代の学校の関わり:学校の目標構造(習得重視vs.遂行重視; Roeserら, 1996)に加え,学校享受感(例:「学校は楽しかった」「居場所があった」)を測定した。
中学時代の親の関わり:親の目標構造尺度(Friedelら, 2007)を参考とし,習得重視,遂行重視,社会性重視(例:「親は私に,社会の役に立つ人間になってほしいと願っていた」)の尺度を作成した。他に,親からの愛着(内海, 2013)を測定した。
幼少期の社会経済的地位(SES):子どもの頃(10歳まで)の豊かさと予測困難性(Griskeviciusら, 2013)を測定した。
結果と考察
現在のグリットを従属変数,中学校時代の学校や親の関わり,幼少期の社会経済的地位,性別,年齢を独立変数とするステップワイズ法による重回帰分析を行った。
その結果(表1),中学時代の親の関わりの効果がみられた。親が習得重視であったと思う人ほど現在のグリットが高く,親が遂行重視であったと思う人ほどグリットが低かった。この結果はParkら(2018)の知見と一致する。グリットを育むうえでは,性急に結果を求めず,成長や学びの大切さを強調することが重要であると考えられる。また,年齢が高いほどグリットが高いという結果は,Duckworthら(2007)と一致する。
新たな知見としては,以下の二つを挙げることができる。第一に,中学校時代に親から子どもへの社会性への期待が高かったと思う人ほど,現在のグリットが高かった。親が子どもに大志を抱くように期待することは,子どものグリットを育成するうえで有効かもしれない。本研究の結果は,習得-遂行の重視といった従来の目標構造(Park et al., 2018)を超えて,多様な目標構造が子どものグリットと関連する可能性を示唆する。
第二の新たな知見として,中学時代の学校享受感が高かった人ほど,現在のグリットが高かった。困難に粘り強く取り組む(高グリットを発揮する)うえでは,個人を取り巻く環境が心理的に安全であることが重要であるかもしれない。
なお,中学時代の親からの愛着は成人後のグリットと関連しなかった。グリットを育むうえでは親が子に愛情を注ぐだけでは不十分であり,子の習得や社会性への期待を示すなどの行動が重要になるかもしれない。今後,グリットを支える要因についてさらに検討することが求められる。
付 記
H.30関西福祉科学大学共同研究費助成を受けた。