日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-67)

Sat. Sep 14, 2019 1:00 PM - 3:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB56] 保育所における「実践し省察するコミュニティ」の形成

町の4保育所における4年間のプロセス

岸野麻衣 (福井大学)

Keywords:省察、コミュニティ、保育者の専門性

問題と目的
 幼児教育の実践現場においては,保育場面における子どもの姿や環境構成の在り方などについて保育カンファレンスを行い,より良い援助に向けてその質を高めたり,特定の場面についてエピソードを記述して事例検討を行い,実践を省察して保育の力量を高めたりしていくことが行われてきた。また,保育の記録も重要とされ,日々の記録や週の記録を通して子どもの姿を捉え直し,次の保育の計画に結び付けることが重要とされている。
 一方で園によっては,早朝から夜まで保育にかかり,また正規職員と臨時職員が交代して働く忙しい現実があり,そうした研修の場と時間をどう捻出するかが今もなお課題になっていることは否めない。特に,子どもの姿を記述し,検討しあう「書く」文化がない園においては,省察の場を創っていくことにいっそう課題があるといえる。
 本研究では,保育者が主体に,実践を「書く」ことを通して子どもの姿を捉え直す風土を作っていった,一つの地域の複数の保育所の事例を検討し,その過程で生じるサイクルを明らかにする。
方  法
 ある町立保育所の事例について,そこでの過程を検討する。当該町には4つの公立保育所があり,2015年に各園から1,2名ずつで構成される実践研究グループ「ぴっか」が立ち上げられた。この名前には「“子どもがひらめいた時の様子”を音の響きで連想させ、その一人ひとりのひらめきに寄り添っていける存在でありたい」という思いが込められているという。このグループが,町の公開保育研究会や各園の保育研究についての企画運営を担っていった。著者は毎年3回助言者として研究会に参加してきたほか,福井大学での公開研究会に彼らを招聘し,協働でシンポジウムを開催した。本稿では,これまでの研究会の資料や記録などをもとに振り返り,どのようなサイクルが展開してきたのかを捉え直して記述していく。
結果と考察
1.園の保育を拓く:まずやってみる
(1)問題意識の共有と手立ての構想:2015年度
 まずは4園から集うコア・メンバーが問題意識を共有していった。6・10・12月に,極小規模1園を除く3園を著者が訪問し,ぴっかメンバーと共に保育を見て,各園の保育者と語り合った。その中で,子どもの主体性が十分引き出せていないという課題がメンバーの中に共有されていった。12月には,年長児が主体となって園内で小さな発表会を開く実践が展開され,目指す方向性を具体的に共有することができた。遊びが単発に終わらず子どもの思いがつながって翌日以降に継続して展開していくには,子どもたちが遊んだ後にみんなで振り返り次の展開を考えていく場や,保育者がそれを見取ってつないでいく記録の重要性が共有された。具体的には週案の毎日の記録とは別に週レベルでの振り返りを記載してみることとした。
(2)試行錯誤:2016年度
 各園で公開保育研究会をするのと別に,6・10・12月に著者が訪問して,ぴっかメンバーで一つの保育所に絞って保育を継続的に見て検討していった。子どもの遊びが途切れないよう十分な時間を取るよう1日の流れが変更されていた。協議会では,全体会形式で一人一言ずつ言っていく中,環境や職員間の連携の問題が話題になった。一園に絞ったこともあり,各園の遊びの展開についてスライドで共有したほか,ぴっかメンバーが事例を書いて検討し合った。この段階では書くことの意味や書き方について十分検討しきれていなかった。
2.見合い語り合う風土の醸成:仕切り直し
 2017年度も各園の公開保育のほか,一つの保育所に絞った年3回の公開研究会が開かれた。協議会は,小グループに分かれて互いに感じたことや考えたことを交流するようにした。各園の遊びの展開についても,写真を印刷して持参し,グループで語り合うことが取り入れられた。公開保育と協議の場に学区の小学校長も参加したほか,夏には各学区の小学校教師が各保育所で遊びを参観し子どもの姿について語り合う会が始められた。記録についても,週案とは別紙のシートが作られ,ぴっかメンバーが中心となって修正が重ねられた。
3.書いた実践を元に語り合う:新たなステージ
 2018年度には各園の公開保育や夏の小学校教師の保育参観は定例化し,加えて週ごとの記録に各園で取り組み,ぴっかメンバー以外にも優れた記録が見られるようになった。著者の訪問は冬に3園となり,各園で検討会を経て書かれた各年齢の事例をぴっかメンバーと共に検討し合うことに取り組み,書くことの意義が共有された。
 ぴっかメンバーが各園のコーディネータとして研究を進める中で,各層でコミュニティが発展し,実践を省察する文化が培われてきた。