日本教育心理学会第61回総会

Presentation information

ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-66)

Sat. Sep 14, 2019 3:30 PM - 5:30 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号15:30~16:30
偶数番号16:30~17:30

[PC12] 児童の基礎リテラシーの習得度合いと代替手段の可能性(1)

「読み」の代替について

高橋麻衣子1, 平林ルミ2 (1.東京大学, 2.東京大学)

Keywords:読解、聴解、インクルーシブ教育

問題と目的
 インクルーシブ教育システムの重要性が叫ばれ,多様な教育的ニーズを持つ児童・生徒が通常学級内でともに学ぶシステムの構築が求められている。学習に特異的に困難をもつ学習障害児・者は,読み書き計算を自力で行う基礎リテラシーの習得に困難を持つがゆえに,紙の教科書とノートで展開される一斉授業では学びの入り口に立つことができない場合が多い。しかし,ICT機器等の活用によって読み書き計算を補助することで,その障壁をクリアし,思考,判断,表現等の学びの活動への参加の可能性が広がることが考えられる。
 本研究では基礎リテラシーをICT機器で補助する代替アプローチの前提に立ち,通常学級内に代替アプローチが有効だと考えられる児童がどの程度存在するのかを明らかにすることを大きな目的とする。基礎リテラシーの中でも「読み」に焦点を当て,文章を自力で読むことが苦手な場合に誰かに読んでもらうと理解が促進される児童がどの程度いるのかを調査し,これからの通常学級の授業の在り方について考察する。
方  法
調査対象者 群馬県内の公立小学校に在籍する小学生158名(2年生26名,3年生30名,4年生38名,5年生22名,6年生42名)
調査時期 2019年2月の2日間。最初の調査の1週間後に2度目の調査を実施した。
調査課題 500字程度の説明的文章を4種類作成した。5,6年生用の課題文章は2~4年生の各文章の最後にもう1段落(約100字)の文章を追加した。各課題文章に対して4肢選択の設問を2~4年生には5問,5,6年生には6問作成した。設問は,文章の逐語的な記憶を問うものと内容理解を問うものを作成した。各課題文章と設問を朗読に習熟した女性に読み上げてもらい,それを録音して音声ファイルを作成した。各課題文章の読み上げに2分,1つの課題文章に対する全設問と選択肢の読み上げに3分となるように調節した。
手続き 課題は学級単位で実施した。まず,各児童が自分で課題文章を読んで質問に答える自力読み課題を実施した。課題文章をA4用紙1ページに,設問と選択肢を次ページに印刷し,2種類の問題セットを掲載した4ページの冊子を配布した。課題文章の提示に2分,設問のページに3分の時間制限を設け,合図によってページをめくって進めること,設問に答える際には前のページを見返さないことを教示した。自力読み課題実施の1週間後に読み上げ課題の実施を行なった。自力読みで使用しなかった2種類の文章セットを印刷した冊子を各児童に配布し,各ページに該当する読み上げ音声をスピーカから提示した。制限時間や教示は自力読み時と同様であった。
結果と考察
 逐語記憶問題と内容理解問題における,自力読みと読み上げ時の各学年の平均正答率をFigure 1,2に示す。逐語記憶問題の正答率について,学年と読み方(自力読み・読み上げ)を要因とした分散分析を行ったところ,学年の主効果は有意となった(F (4,153) = 14.94, p < .01)が,読み方の主効果と交互作用は有意水準に達しなかった。一方で,内容理解問題の正答率について同様の分散分析を行ったところ,学年と読み方の主効果及び交互作用がすべて有意となった(Fs > 4.14, ps < .01)。単純主効果を検討したところ,2~4年生においては自力読みのほうが読み上げられたよりも成績が有意に高く(Fs > 21.52, ps < .01),5年生ではその差が有意傾向となり(F (1,153) = 3.35, p = .06),6年生で有意差がなくなる(F = .38, n.s.)ことが示された。本調査の環境下では,読み上げ音声を提示されるよりも自力で読むほうが理解が促進されるという結果となった。
 ただし,自力で読むことに困難を持つ児童の中には読み上げの効果がみられることが予想される。そこで,自力読みと読み上げの正答率について,学年ごとに児童の偏差値を算出した。自力読みにおいて偏差値40未満の児童は30名(19.0%)であり,その中で読み上げによって偏差値が40以上になる児童が21名(13.3%),読み上げの効果がない児童が9名(5.7%)であった。自力読みが困難である場合,ICT等で読み上げを代替することが文章理解を補償することが示唆された。