[PC20] 大学生の時間的展望が学業成績に与える影響
Keywords:時間的展望、学業成績
問題と目的
従来の時間的展望研究では,extension(長さ)を扱うものが最も多かった(都筑,1982)。時間的展望の長さと学業成績の関連を検討した先行研究(小川・高橋・吉野・長塚,1974;O'Rand & Ellis,1974;DeVolder & Lens,1982) では,両者に正の関連があることを繰り返し示してきた。その後,時間的展望は研究領域が拡大し,認知・感情・動機の面から研究されるようになった(都筑,2007)。都筑(1999a)は,時間的展望を「認知」「感情・評価」「欲求・動機」の3側面とそれらを支える「基礎的認知能力」から構成されるとした。都筑(1999a)によれば,基礎的認知能力とは過去・現在・未来について考える力であり,1)過去・現在・未来の出来事や経験,自分自身の過去・現在・未来などを想起・予想・想像する能力,2)将来目標を計画・立案・設定する能力,3)目標間や目標-手段の関係を比較・分析・管理する能力が含まれている。
本研究の目的は,時間的展望の基礎的認知能力に着目し,先行研究と同様に時間的展望と学業成績に正の関連がみられるのかについて明らかにすることである。
方 法
調査時期:2016年12月から2017年1月。
対象者:就職サイトのモニターである全国の大学3年生3,520名(男性:1,090名,女性:2,430名)。
質問項目:①時間的展望:目標意識尺度(都筑,1999a)の下位尺度である「時間管理」(「私は自分の時間を効果的に使うことを考えて,計画を立てる」など5項目)と「計画性」(「何かをやろうとしても,〆切の日にならないとなかなか始められない(反転項目)」など5項目)を用いた。5件法で尋ねた。②学業成績:「あなたはこれまでの大学の成績の中で,優(A)の数は取得した単位の何割くらいを占めていましたか。 「優(A)」以上の成績(例:AAやA+)があればそれも含めて計算して下さい。」と教示し,0割から10割までの選択肢からひとつを回答するように求めた。分析の際には実数に置き換えた。
結果と考察
時間的展望の下位尺度ごとに合計を求め,それぞれ時間管理得点(M=16.08,SD=4.72),計画性得点(M=14.48,SD=4.88)とした。時間管理でα=.86,計画性でα=.83であり,十分な内的一貫性があると判断した。学業成績(優の数)の平均は5.74(SD=2.51)であった。男女別に尺度間の相関係数を算出したところ,性別によって相関係数と符号を逆とする大きな相関は認められなかったため,性別による大きな傾向差はないものと判断した。時間的展望の下位尺度が,学業成績をどの程度予測しうるかについて調べるため,学業成績を目的変数,時間的展望の下位尺度を説明変数とする重回帰分析(強制投入法)を行った(Table1)。その結果,時間管理(β=.11)と計画性(β=.17)は学業成績に対して正の影響があることが明らかになった。
都筑(1999b)は,大学3年生を対象にした調査で,一般企業の就職活動に関連する情報収集を開始している者は,開始していない者よりも時間管理と計画性に優れていること,大学4年生を対象にした調査で,進路が決定している者は未決定の者よりも時間管理が優れていることを明らかにした。これらの結果は,進路選択時において,時間的展望の基礎的認知能力が高いことがポジティブな影響をもたらすことを示すものである。本研究では,進路選択よりも手前の段階,すなわち,大学3年生の前期までの成績で優秀な結果を残すことに対しても,時間的展望の基礎的認知能力が高いことがポジティブな影響をもたらすことを明らかにした。
両者の結果を総合すれば,日常の大学生活で効果的に時間を使えるようにスケジュールを管理しつつ,いつからどのように勉強をするのか計画を立てて実行を促すというアプローチは学業に対しても,卒業後の進路選択に向けた行動に対しても有効になりうることを示している。
従来の時間的展望研究では,extension(長さ)を扱うものが最も多かった(都筑,1982)。時間的展望の長さと学業成績の関連を検討した先行研究(小川・高橋・吉野・長塚,1974;O'Rand & Ellis,1974;DeVolder & Lens,1982) では,両者に正の関連があることを繰り返し示してきた。その後,時間的展望は研究領域が拡大し,認知・感情・動機の面から研究されるようになった(都筑,2007)。都筑(1999a)は,時間的展望を「認知」「感情・評価」「欲求・動機」の3側面とそれらを支える「基礎的認知能力」から構成されるとした。都筑(1999a)によれば,基礎的認知能力とは過去・現在・未来について考える力であり,1)過去・現在・未来の出来事や経験,自分自身の過去・現在・未来などを想起・予想・想像する能力,2)将来目標を計画・立案・設定する能力,3)目標間や目標-手段の関係を比較・分析・管理する能力が含まれている。
本研究の目的は,時間的展望の基礎的認知能力に着目し,先行研究と同様に時間的展望と学業成績に正の関連がみられるのかについて明らかにすることである。
方 法
調査時期:2016年12月から2017年1月。
対象者:就職サイトのモニターである全国の大学3年生3,520名(男性:1,090名,女性:2,430名)。
質問項目:①時間的展望:目標意識尺度(都筑,1999a)の下位尺度である「時間管理」(「私は自分の時間を効果的に使うことを考えて,計画を立てる」など5項目)と「計画性」(「何かをやろうとしても,〆切の日にならないとなかなか始められない(反転項目)」など5項目)を用いた。5件法で尋ねた。②学業成績:「あなたはこれまでの大学の成績の中で,優(A)の数は取得した単位の何割くらいを占めていましたか。 「優(A)」以上の成績(例:AAやA+)があればそれも含めて計算して下さい。」と教示し,0割から10割までの選択肢からひとつを回答するように求めた。分析の際には実数に置き換えた。
結果と考察
時間的展望の下位尺度ごとに合計を求め,それぞれ時間管理得点(M=16.08,SD=4.72),計画性得点(M=14.48,SD=4.88)とした。時間管理でα=.86,計画性でα=.83であり,十分な内的一貫性があると判断した。学業成績(優の数)の平均は5.74(SD=2.51)であった。男女別に尺度間の相関係数を算出したところ,性別によって相関係数と符号を逆とする大きな相関は認められなかったため,性別による大きな傾向差はないものと判断した。時間的展望の下位尺度が,学業成績をどの程度予測しうるかについて調べるため,学業成績を目的変数,時間的展望の下位尺度を説明変数とする重回帰分析(強制投入法)を行った(Table1)。その結果,時間管理(β=.11)と計画性(β=.17)は学業成績に対して正の影響があることが明らかになった。
都筑(1999b)は,大学3年生を対象にした調査で,一般企業の就職活動に関連する情報収集を開始している者は,開始していない者よりも時間管理と計画性に優れていること,大学4年生を対象にした調査で,進路が決定している者は未決定の者よりも時間管理が優れていることを明らかにした。これらの結果は,進路選択時において,時間的展望の基礎的認知能力が高いことがポジティブな影響をもたらすことを示すものである。本研究では,進路選択よりも手前の段階,すなわち,大学3年生の前期までの成績で優秀な結果を残すことに対しても,時間的展望の基礎的認知能力が高いことがポジティブな影響をもたらすことを明らかにした。
両者の結果を総合すれば,日常の大学生活で効果的に時間を使えるようにスケジュールを管理しつつ,いつからどのように勉強をするのか計画を立てて実行を促すというアプローチは学業に対しても,卒業後の進路選択に向けた行動に対しても有効になりうることを示している。