[PC32] 教職志望学生における学業と職業の接続に対する意識と学習の質及び量
学業と職業の接続の理想状況及び理想と現実のズレを参照しながら
Keywords:接続意識、学習、教職志望学生
問題と目的
教職志望学生の所属先も含意される高等教育機関では,大学生の自律性や成長意欲を反映させるものとして学習時間だけでなく主体的な学習態度も注目されている(畑野, 2011)。溝上・畑野(2013)は,大学生のアイデンティティが将来に向けた日常生活の行動を表す接続行動を介して学習動機,授業外学習時間や自主学習時間に影響を及ぼすことを示した。しかし,当該の接続行動は,包括的な将来展望と日常生活での行動を捉えているため,大学生の学びの中核となる正課内の授業に主眼を置いたものではない。半澤・坂井(2005)は,大学での学業と将来の目標である職業の接続意識に着目し,学業と職業が強く接続していることを理想とする群では,接続の理想と現実のズレが学業や授業意欲低下と関連することを示した。このことは,学業と職業の接続の捉え方が学習に影響を及ぼす可能性を示す。こうしたことに鑑みれば,教職志望学生という目的養成の中で学ぶ大学生の学業と職業の接続に対する意識に基づく検討は,正課内外の学習デザインに寄与すると考えられる。
以上の議論より,本研究では,教職志望学生の学業と職業が接続していることに対する意識の実態を学業と職業が接続していることの理想状況,理想と現実のズレといった複眼的な視点からタイプを類型化するとともに,タイプごとの「学習の質」や「学習の量」に対する評定に差違が生じるかを探索的に明らかにすることを目的とする。
方 法
調査協力者と実施手続き 同一大学で開講された2つの講義にて,無記名の個人記入形式の質問紙を配付し,調査協力を承諾した教員免許状を取得することが卒業要件となっている145名(男性80名,女性65名)を調査協力者とした。
質問紙 (1)学習の質:畑野(2011)の「主体的な学習態度」1因子9項目 (5件法)。(2)学習の量:畑野・溝上(2013)の「大学で授業や実験に参加する(授業内学習時間)」,「授業に関する勉強(予習や復習,宿題・課題など)をする(授業外学習時間)」,「授業とは関係のない勉強を自主的にする(自主的な学習時間)」3項目 (8件法)。(3)学業と職業の接続意識:半澤・坂井(2005)の「接続意識尺度」2因子(理想・現実)各7項目 (5件法)。なお,本研究では学業を教育職員免許状に関わる科目と限定することを示すため,「ここで学業として挙げられているのは,教育職員免許状に関わる科目になります。教育職員免許状に関わる科目をイメージしてご回答ください。」と明記した。質問紙は,その他の尺度も含めて構成していたが,本稿では,研究目的に合致する内容のみを記載した。
結果と考察
教職志望学生の学業と職業の接続に対する意識の視点からタイプを類型化するため,接続意識尺度を構成する理想得点,理想得点から現実得点を減算し絶対値として捉えたズレ得点に基づきクラスター分析(Ward法)を行った(Cophenetic’ r=.47)。その結果,解釈可能性から3クラスター解を採用した(Table 1)。各クラスターの特徴として,タイプ1は,理想得点中・ズレ得点低型と考えられる。人数比が最も高いタイプ2は,理想得点高・ズレ得点低型と考えられる。タイプ3は,理想得点高・ズレ得点高型と考えられる。なお全てのタイプにおいて,学業と職業が接続していることを理想とする得点が比較的高いものであった。このことは,高等教育機関という学びの場における教職志望学生の実態を捉える上で興味深い知見である。
一方,「学習の質」や「学習の量」を構成する各学習評定に対して,クラスターを被験者間要因とする分散分析を行った。その結果,「学習の質」を構成する「主体的な学習態度」のみ効果(F(2,142)=8.01, p=.001 (η2=.101))がみられ,多重比較(Ryan法, p<.05)の結果,タイプ2はタイプ1・3よりも評定が高かった。この結果は,学業と職業が接続していることを理想とする得点が高いだけでなく理想と現実のズレ得点が小さい場合に最も正課内の授業に取り組んでいることを示している。今後は,教職志望学生のキャリアを複眼的に捉えつつ学業と職業の接続に対する意識と正課内外での学習との関係を検証していく必要もある。
付 記
本研究は,第24回大学教育研究フォーラム(野中, 2018)を新たな観点から分析したものである。また,JSPS科研費19K14318の助成を受けた。
教職志望学生の所属先も含意される高等教育機関では,大学生の自律性や成長意欲を反映させるものとして学習時間だけでなく主体的な学習態度も注目されている(畑野, 2011)。溝上・畑野(2013)は,大学生のアイデンティティが将来に向けた日常生活の行動を表す接続行動を介して学習動機,授業外学習時間や自主学習時間に影響を及ぼすことを示した。しかし,当該の接続行動は,包括的な将来展望と日常生活での行動を捉えているため,大学生の学びの中核となる正課内の授業に主眼を置いたものではない。半澤・坂井(2005)は,大学での学業と将来の目標である職業の接続意識に着目し,学業と職業が強く接続していることを理想とする群では,接続の理想と現実のズレが学業や授業意欲低下と関連することを示した。このことは,学業と職業の接続の捉え方が学習に影響を及ぼす可能性を示す。こうしたことに鑑みれば,教職志望学生という目的養成の中で学ぶ大学生の学業と職業の接続に対する意識に基づく検討は,正課内外の学習デザインに寄与すると考えられる。
以上の議論より,本研究では,教職志望学生の学業と職業が接続していることに対する意識の実態を学業と職業が接続していることの理想状況,理想と現実のズレといった複眼的な視点からタイプを類型化するとともに,タイプごとの「学習の質」や「学習の量」に対する評定に差違が生じるかを探索的に明らかにすることを目的とする。
方 法
調査協力者と実施手続き 同一大学で開講された2つの講義にて,無記名の個人記入形式の質問紙を配付し,調査協力を承諾した教員免許状を取得することが卒業要件となっている145名(男性80名,女性65名)を調査協力者とした。
質問紙 (1)学習の質:畑野(2011)の「主体的な学習態度」1因子9項目 (5件法)。(2)学習の量:畑野・溝上(2013)の「大学で授業や実験に参加する(授業内学習時間)」,「授業に関する勉強(予習や復習,宿題・課題など)をする(授業外学習時間)」,「授業とは関係のない勉強を自主的にする(自主的な学習時間)」3項目 (8件法)。(3)学業と職業の接続意識:半澤・坂井(2005)の「接続意識尺度」2因子(理想・現実)各7項目 (5件法)。なお,本研究では学業を教育職員免許状に関わる科目と限定することを示すため,「ここで学業として挙げられているのは,教育職員免許状に関わる科目になります。教育職員免許状に関わる科目をイメージしてご回答ください。」と明記した。質問紙は,その他の尺度も含めて構成していたが,本稿では,研究目的に合致する内容のみを記載した。
結果と考察
教職志望学生の学業と職業の接続に対する意識の視点からタイプを類型化するため,接続意識尺度を構成する理想得点,理想得点から現実得点を減算し絶対値として捉えたズレ得点に基づきクラスター分析(Ward法)を行った(Cophenetic’ r=.47)。その結果,解釈可能性から3クラスター解を採用した(Table 1)。各クラスターの特徴として,タイプ1は,理想得点中・ズレ得点低型と考えられる。人数比が最も高いタイプ2は,理想得点高・ズレ得点低型と考えられる。タイプ3は,理想得点高・ズレ得点高型と考えられる。なお全てのタイプにおいて,学業と職業が接続していることを理想とする得点が比較的高いものであった。このことは,高等教育機関という学びの場における教職志望学生の実態を捉える上で興味深い知見である。
一方,「学習の質」や「学習の量」を構成する各学習評定に対して,クラスターを被験者間要因とする分散分析を行った。その結果,「学習の質」を構成する「主体的な学習態度」のみ効果(F(2,142)=8.01, p=.001 (η2=.101))がみられ,多重比較(Ryan法, p<.05)の結果,タイプ2はタイプ1・3よりも評定が高かった。この結果は,学業と職業が接続していることを理想とする得点が高いだけでなく理想と現実のズレ得点が小さい場合に最も正課内の授業に取り組んでいることを示している。今後は,教職志望学生のキャリアを複眼的に捉えつつ学業と職業の接続に対する意識と正課内外での学習との関係を検証していく必要もある。
付 記
本研究は,第24回大学教育研究フォーラム(野中, 2018)を新たな観点から分析したものである。また,JSPS科研費19K14318の助成を受けた。