[PC66] 大学生のキャリア支援を目的とする学校型メンタリング・プログラムの効果の検証
セルフ・エスティームおよびスキル・能力の向上
Keywords:学校型メンタリング・プログラム、複数メンター、セルフ・エスティーム
背景と目的
多様な人々と協働し国際社会に貢献するグローバルリーダーの育成を目指して創設された学部特別教育プログラム(「新渡戸カレッジ」)は,メンバーの学生に対し,同窓生によるメンタリングプログラム(「対話プログラム(対話P)」)を提供している。
メンターを持つメリットのひとつにself-esteem(SE)の向上がある。年長の,経験を積んだメンターから自分について建設的な意見や助言を受け,親身に考えてもらう経験が,自分自身をよりポジティブな方向に捉え直すことにつながることが実証研究で示されている(例:DuBoisら2011)。高いSEは適切なリーダーシップの発揮にとって重要な要素であり,対話Pの役割は大きい。しかし,限られた回数(年3回程度),学内という制限のある場所で行う学校型のプログラムであるため,学外で頻繁に会い,多様な活動を行う伝統的なタイプに比べて関係が発展しにくい。さらに,毎回異なるメンターとの面談の形をとるため,多様な考えに触れる機会となる一方,個々のメンターとの関係は希薄になりやすい。解決策として,複数年度にわたる参加を可能としており,毎年度,新規と継続でほぼ同数の学生が参加している。参加によりSEが向上するのか,また,複数年度にわたる参加がSE向上の点で効果的なのかを調べるため,新規の学生群の1回目と3回目に測定したSEの平均値,そして3回目における新規と継続の学生群のSE平均値の比較を行う。さらに,参加後のスキルや能力におけるポジティブ・ネガティブ両面の変化についての学生の認識を調べる。
方 法
対象者 第1回対話P(2018年4月)に参加し,その2-3週間後の新渡戸カレッジ進学説明会で調査票Aに回答した2年目学生(18名(男女各9名)),(b)第3回対話P(同年11月)に参加し調査票Bに回答した2〜6年生と大学院生計23名(男9名,女14名)。
調査内容 (1)調査票A: (a)SE(豊田・松本(2004)のSE尺度を使用),(b)第1回対話Pの参加の有無,(2)調査票B: (a)SE(調査票Aと同じ),(c)対話Pに参加した年数,(d)文献および過去の調査結果をもとに対話開始時からの変化(ポジティブ10,ネガティブ9項目)を設定し,それぞれ「そう思う」から「そう思わない」まで4件法で聞いた)。
結果と考察
SEの変化 新規の学生群の1回目と3回目のSE平均値はそれぞれ28.83(SD=6.00)と25.36(SD=5.02)で,3回目で低下気味だったが,有意な差ではなかった(t(30)=1.75, p=.091)。また,継続生の方が新規学生より高いSE平均値(28.56(SD=2.88))を示したが,有意な差ではなかった(t(21)=-1.73, p=.098)。新規学生のSEが年間を通して低下気味となった原因のひとつとして,自身を別の観点から見直すことにより自己の評価がいったん下がった可能性が考えられる。一方,継続生のSE値が新規学生より高めだったことから,参加を継続する中,自身についての捉え方が安定し,SEが回復しうることが想定できる。また,中断した新規の学生の中にSEのより高い者が含まれていた可能性もある。いずれの場合も,SE向上という面での対話Pの役割は1年あるいはそれ以上続けた場合も限定的であることがわかった。
スキル・能力の変化 他者からの評価,リーダーを務める機会,新しい人にアプローチする頻度の増加について,肯定的(「そう思う」「ややそう思う」を選択)と否定的(「そう思わない」「あまりそう思わない」を選択)な回答に分かれた。自分の強みや弱み,自信,進路の方向性,問題対応力,コミュニケーション能力等については,多くがポジティブな変化を認め,ネガティブな変化を否定した。コミュニケーション能力の向上では,女性は全員(14名)が肯定したのに対し,男性は肯定(5名)と否定(4名)に分かれた。今後,大学生を対象とするメンタリング尺度の開発に向け,項目を精査の上,より多くの被験者を得て因子分析を実施する必要がある。
引用文献
DuBois, D. L., Portillo, N., Rhodes, J. E., Silverthorn, N., & Valentine, J. C. How effective are mentoring programs for youth? A systematic assessment of the evidence. Psychological Science in the Public Interest, 12(2), 57-91.
豊田加奈子・松本恒之(2004). 大学生の自尊心と関連する諸要因に関する研究 東洋大学人間科学総合研究所紀要 創刊号, 38-54.
多様な人々と協働し国際社会に貢献するグローバルリーダーの育成を目指して創設された学部特別教育プログラム(「新渡戸カレッジ」)は,メンバーの学生に対し,同窓生によるメンタリングプログラム(「対話プログラム(対話P)」)を提供している。
メンターを持つメリットのひとつにself-esteem(SE)の向上がある。年長の,経験を積んだメンターから自分について建設的な意見や助言を受け,親身に考えてもらう経験が,自分自身をよりポジティブな方向に捉え直すことにつながることが実証研究で示されている(例:DuBoisら2011)。高いSEは適切なリーダーシップの発揮にとって重要な要素であり,対話Pの役割は大きい。しかし,限られた回数(年3回程度),学内という制限のある場所で行う学校型のプログラムであるため,学外で頻繁に会い,多様な活動を行う伝統的なタイプに比べて関係が発展しにくい。さらに,毎回異なるメンターとの面談の形をとるため,多様な考えに触れる機会となる一方,個々のメンターとの関係は希薄になりやすい。解決策として,複数年度にわたる参加を可能としており,毎年度,新規と継続でほぼ同数の学生が参加している。参加によりSEが向上するのか,また,複数年度にわたる参加がSE向上の点で効果的なのかを調べるため,新規の学生群の1回目と3回目に測定したSEの平均値,そして3回目における新規と継続の学生群のSE平均値の比較を行う。さらに,参加後のスキルや能力におけるポジティブ・ネガティブ両面の変化についての学生の認識を調べる。
方 法
対象者 第1回対話P(2018年4月)に参加し,その2-3週間後の新渡戸カレッジ進学説明会で調査票Aに回答した2年目学生(18名(男女各9名)),(b)第3回対話P(同年11月)に参加し調査票Bに回答した2〜6年生と大学院生計23名(男9名,女14名)。
調査内容 (1)調査票A: (a)SE(豊田・松本(2004)のSE尺度を使用),(b)第1回対話Pの参加の有無,(2)調査票B: (a)SE(調査票Aと同じ),(c)対話Pに参加した年数,(d)文献および過去の調査結果をもとに対話開始時からの変化(ポジティブ10,ネガティブ9項目)を設定し,それぞれ「そう思う」から「そう思わない」まで4件法で聞いた)。
結果と考察
SEの変化 新規の学生群の1回目と3回目のSE平均値はそれぞれ28.83(SD=6.00)と25.36(SD=5.02)で,3回目で低下気味だったが,有意な差ではなかった(t(30)=1.75, p=.091)。また,継続生の方が新規学生より高いSE平均値(28.56(SD=2.88))を示したが,有意な差ではなかった(t(21)=-1.73, p=.098)。新規学生のSEが年間を通して低下気味となった原因のひとつとして,自身を別の観点から見直すことにより自己の評価がいったん下がった可能性が考えられる。一方,継続生のSE値が新規学生より高めだったことから,参加を継続する中,自身についての捉え方が安定し,SEが回復しうることが想定できる。また,中断した新規の学生の中にSEのより高い者が含まれていた可能性もある。いずれの場合も,SE向上という面での対話Pの役割は1年あるいはそれ以上続けた場合も限定的であることがわかった。
スキル・能力の変化 他者からの評価,リーダーを務める機会,新しい人にアプローチする頻度の増加について,肯定的(「そう思う」「ややそう思う」を選択)と否定的(「そう思わない」「あまりそう思わない」を選択)な回答に分かれた。自分の強みや弱み,自信,進路の方向性,問題対応力,コミュニケーション能力等については,多くがポジティブな変化を認め,ネガティブな変化を否定した。コミュニケーション能力の向上では,女性は全員(14名)が肯定したのに対し,男性は肯定(5名)と否定(4名)に分かれた。今後,大学生を対象とするメンタリング尺度の開発に向け,項目を精査の上,より多くの被験者を得て因子分析を実施する必要がある。
引用文献
DuBois, D. L., Portillo, N., Rhodes, J. E., Silverthorn, N., & Valentine, J. C. How effective are mentoring programs for youth? A systematic assessment of the evidence. Psychological Science in the Public Interest, 12(2), 57-91.
豊田加奈子・松本恒之(2004). 大学生の自尊心と関連する諸要因に関する研究 東洋大学人間科学総合研究所紀要 創刊号, 38-54.