[PD03] 新卒社会人の職場適応と大学在学中の学業領域固有の知覚された無気力の関連
Keywords:学業領域固有の知覚された無気力、職場適応、新卒社会人
問題と目的
知覚された無気力 perceived apathyとは,長内(2009)によれば,個人が自己の意欲や精神的なエネルギーの低下を主観的に認識している状態である。これは従来の無気力やスチューデント・アパシー研究とは異なり,個人の認知的側面に焦点を当てたものである。大西(2016)は,「労力回避」「葛藤」「達成非重視」の3因子からなる学業領域固有の無気力状態測定尺度(PASS-A)を作成し,学業に積極的な「積極群」,非積極的な「非積極群」,労力を回避したいがために無気力行動をとるけれども,それに葛藤する「回避-葛藤群」,学業上の課題の達成自体を重視していない「達成非重視群」という4群を見いだした。
本研究の目的は大学在学中の学業領域固有の知覚された無気力と,卒業後の職場適応の関連を検討することである。学業も仕事も,やらなければならないタスクであるという点で共通しており,就職後の仕事というタスクに向かい合った際の心理状態に,大学在学時の学業というタスクに取りくむ姿勢が関連している可能性は高い。
方 法
4年制大学卒業後3年以内の新卒社会人300名(男性138名,女性161名,その他1名,平均年齢24.5歳,SD=1.19)を対象に,個別記入式の質問紙調査を行った。調査の実施は株式会社クロス・マーケティングに委託した。調査時期は2019年2月であった。調査の開始画面に研究の主旨と,調査への協力が強制でないこと,プライバシーが保護されることを記した説明文を表示し,チェック欄を用いて同意を得た。
調査項目はa)学業領域固有の無気力状態測定尺度(PASS-A)(大西,2016)77項目5件法,b)ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度日本語版 (UWES-J)(Shimazu,2008)17項目6件法,c)職場適応感尺度(野田・奇,2016)30項目5件法,d)自己評価式抑うつ尺度(SDS)(福田・小林,1983)20項目4件法であった。
結果と考察
PASS-Aについて最尤法・Promax回転による確認的因子分析を行った結果,大西(2016)と同様の3因子構造が得られた。信頼性係数は労力回避がα=.87,葛藤がα=.89,達成非重視がα=.83だった。PASS-AとUWES-J,職場適応感尺度,SDSの相関分析の結果をTable 1に示す。ワーク・エンゲイジメントにおいては労力回避と没頭,葛藤と活力の間にそれぞれ負の関連が示された。職場適応感においては,葛藤と劣等感,達成非重視と劣等感,SDSの間にそれぞれ関連性が示された。
k-means法による分割的クラスタ分析の結果,大西(2016)と同様の4群が得られた。クラスタを独立変数,UWES-J,職場適応感尺度,SDSを従属変数とした分散分析の結果,職場適応感の「劣等感のなさ」(F(3,296)=3.87,p=<.05,η2=.04)とSDS(F(3,296)=3.60,p=<.05,η2=.04)に有意な差が得られた。Bonferroni法による多重比較の結果,「劣等感」は非積極群が積極群よりも高く,SDSは非積極群が他の3群よりも高かった。各変数のクラスタ毎の平均値と標準偏差をTable 2に示す。
分散分析では有意な差がなかった変数も,クラスタ毎の平均値には若干の差異が見られた。大学在学中の学業領域固有の知覚された無気力と,卒業後の職場適応が関連する可能性が示された。
引用文献
大西恭子 (2016). 学業領域固有の知覚された無気力の探索的研究 教育心理学研究64(3),340-351.
付 記
2018年度京都文教大学ともいき研究推進助成により本研究を実施した。
知覚された無気力 perceived apathyとは,長内(2009)によれば,個人が自己の意欲や精神的なエネルギーの低下を主観的に認識している状態である。これは従来の無気力やスチューデント・アパシー研究とは異なり,個人の認知的側面に焦点を当てたものである。大西(2016)は,「労力回避」「葛藤」「達成非重視」の3因子からなる学業領域固有の無気力状態測定尺度(PASS-A)を作成し,学業に積極的な「積極群」,非積極的な「非積極群」,労力を回避したいがために無気力行動をとるけれども,それに葛藤する「回避-葛藤群」,学業上の課題の達成自体を重視していない「達成非重視群」という4群を見いだした。
本研究の目的は大学在学中の学業領域固有の知覚された無気力と,卒業後の職場適応の関連を検討することである。学業も仕事も,やらなければならないタスクであるという点で共通しており,就職後の仕事というタスクに向かい合った際の心理状態に,大学在学時の学業というタスクに取りくむ姿勢が関連している可能性は高い。
方 法
4年制大学卒業後3年以内の新卒社会人300名(男性138名,女性161名,その他1名,平均年齢24.5歳,SD=1.19)を対象に,個別記入式の質問紙調査を行った。調査の実施は株式会社クロス・マーケティングに委託した。調査時期は2019年2月であった。調査の開始画面に研究の主旨と,調査への協力が強制でないこと,プライバシーが保護されることを記した説明文を表示し,チェック欄を用いて同意を得た。
調査項目はa)学業領域固有の無気力状態測定尺度(PASS-A)(大西,2016)77項目5件法,b)ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度日本語版 (UWES-J)(Shimazu,2008)17項目6件法,c)職場適応感尺度(野田・奇,2016)30項目5件法,d)自己評価式抑うつ尺度(SDS)(福田・小林,1983)20項目4件法であった。
結果と考察
PASS-Aについて最尤法・Promax回転による確認的因子分析を行った結果,大西(2016)と同様の3因子構造が得られた。信頼性係数は労力回避がα=.87,葛藤がα=.89,達成非重視がα=.83だった。PASS-AとUWES-J,職場適応感尺度,SDSの相関分析の結果をTable 1に示す。ワーク・エンゲイジメントにおいては労力回避と没頭,葛藤と活力の間にそれぞれ負の関連が示された。職場適応感においては,葛藤と劣等感,達成非重視と劣等感,SDSの間にそれぞれ関連性が示された。
k-means法による分割的クラスタ分析の結果,大西(2016)と同様の4群が得られた。クラスタを独立変数,UWES-J,職場適応感尺度,SDSを従属変数とした分散分析の結果,職場適応感の「劣等感のなさ」(F(3,296)=3.87,p=<.05,η2=.04)とSDS(F(3,296)=3.60,p=<.05,η2=.04)に有意な差が得られた。Bonferroni法による多重比較の結果,「劣等感」は非積極群が積極群よりも高く,SDSは非積極群が他の3群よりも高かった。各変数のクラスタ毎の平均値と標準偏差をTable 2に示す。
分散分析では有意な差がなかった変数も,クラスタ毎の平均値には若干の差異が見られた。大学在学中の学業領域固有の知覚された無気力と,卒業後の職場適応が関連する可能性が示された。
引用文献
大西恭子 (2016). 学業領域固有の知覚された無気力の探索的研究 教育心理学研究64(3),340-351.
付 記
2018年度京都文教大学ともいき研究推進助成により本研究を実施した。