日本教育心理学会第61回総会

Presentation information

ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-68)

Sun. Sep 15, 2019 10:00 AM - 12:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PD04] 子どもの発達と学びの連続性を共通理解するために

保幼小合同研修プログラムについての一考察

小松和佳 (広島大学大学院)

Keywords:保幼小接続、保幼小合同研修、幼児期の終わりまでに育ってほしい姿

問題と目的
 幼児期から児童期へと教育をつなぐ課題としては,円滑な保幼小接続が挙げられる。保幼小接続と関連して,幼児期から児童期へと子どもの発達と学びをつなぐ「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」(以下,10の姿と記す)が示されている。幼児期の教育を担う保育者は,10の姿に向けて子どもを育むことが求められ,小学校教員には,10の姿を踏まえた学びの工夫が求められている。
 吉永(2018)によれば,保育者と小学校教員が,幼児期から児童期への子どもの発達と学びの連続性を共通理解するためには,同じ研修を受けたり,保育者が小学校で授業を行ったり,あるいは,小学校教員が保育体験を行ったりする等の取組みが必要であるとされている。また,岸野(2018)は,保育者と小学校教員が,10の姿を手がかりとし,幼児期から児童期へ子どもの発達と学びの連続性を共通理解する必要性があることを示している。これらのことから,幼児期から児童期へ子どもの発達と学びの連続性を共通理解するためには,10の姿を手がかりとした保幼小合同研修会が必要であると考えられる。しかし,10の姿を手がかりとした保幼小合同研修については,具体的な研修内容の提案がなされていない現状がある。そこで,本研究では,10の姿を手がかりとした子どもの発達と学びの連続性を共通理解する保幼小合同研修プログラムを実施し,その効果を検証することを目的とする。
方  法
調査協力者 A小学校区における小学校教員16名,B保育所の保育者6名,C幼稚園の保育者5名の合計27名。研修プログラム内容 午前中,A小学校の教員とC幼稚園の保育者は,B保育所において補助的役割として保育体験を行った。午後は,保育者と小学校教員が含まれる5グループに分かれ研修を行った。午後の研修においては,筆者が進行を行った。まず,各グループで,保育体験について感想を交流した後,交流した内容を全体で共有した。次に,筆者は,幼児期の教育と小学校教育の内容や指導の方法,評価の相違点や共通点,および幼児期から児童期へ子どもの発達と学びを連続させる手がかりとなる10の姿について説明をした。その後,10の姿を見る視点とする保育カンファレンスを実施した。保育カンファレンスでは,B保育所,C幼稚園のエピソード各1事例の映像を視聴後,映像の中の子どもが何を経験しているのか,また,経験したことが10の姿のどの姿につながるのかグループで話し合われた。各グループで話し合われた内容は,全体で共有された。調査データ 一連の研修プログラム終了後,調査協力者が記述した感想。
結果と考察
 記述された感想は,意味内容が一つのまとまりになっている文・節・句で区分し1項目とした。その結果,全体の文・節・句は,88項目になった。このうち,研修プログラム内容に関するものは,64項目であった。次に,64項目について,佐藤(2008)に依拠し,意味内容が共通もしくは類似する語句に着目した上で分類し,カテゴリーを生成した。
 生成された9カテゴリーのうち,「子どもの発達と学びの共通理解」,「保幼小接続への意欲」,「具体的な事例からの学び」,「教育の違いを再認識」の4カテゴリーは,保育者と小学校教員両方の感想から生成された。「保育者の気づき」,「幼児期の学びを発信」の2カテゴリーは,保育者の感想から生成された。「幼児理解」,「児童期へつなぐ」,「保育者の専門性からの学び」の3カテゴリーは,小学校教員の感想から生成された。
 これらの結果から,保育者と小学校教員は,幼児期と児童期の教育の違いを再認識すると共に,具体的な事例から,子どもの発達と学びの連続性について理解し,また,保幼小接続への意欲を向上させたと考えられる。さらに,保育者は,幼児期の子どもの発達と学びについて,発信する必要性を実感し,また,保育実践について新たな気づきを得ることができたと言える。一方,小学校教員は,保育者の専門性から学んだり,幼児期の子どもについて理解したりすると共に,幼児期の発達と学びを児童期につなぐ必要性を実感したと考えられる。
 また,調査協力者27名中11名(小学校教員6名,B保育所の保育者2名,C幼稚園の3名)の感想には,10の姿について記述がされていた。記述例は,「保育から見取り共有したことや10の姿と重ねたことで,より就学前にいろいろな活動への意欲や主体性を育み,学びに向かう力を養っていきたいと思いました。(保育者)」「小学校では,各教科に分かれ学習を進めているものの,育ってほしい10の姿は,何ら変わりなく,また全ての活動の中で育てていくものであると感じました。そのために,指導者自身が,それを意識し,そういう目を持って子どもたちを指導していくことが大切であると感じました。(小学校教員)」等であった。11名の感想を検討した結果,保育者と小学校教員は,10の姿を見る視点とする具体的な事例についての話合いを通して,幼児期から児童期へ子どもの発達と学びの連続性を理解することができたと言える。
 これらのことから,本研究における保幼小合同研修プログラムは,保育者と小学校教員が10の姿を手がかりに,幼児期から児童期へ子どもの発達と学びの連続性を共通理解する一助になると考えられる。