[PD06] 孤独感への対処は精神的健康の低下を防ぐことができるのか?
小学生を対象として
キーワード:孤独感、精神的健康、小学生
問題と目的
近年,わが国において子どもの孤独感に着目した研究が,再び報告されるようになってきた。こうした動向は,UNICEF (2007) の子どものwell beingに関するレポートと無関係ではないであろう。このレポートでは,日本における孤独を感じている子どもの多さが紹介されている
「悲しい」や「つらい」などと表現される感情的傾向と定義される孤独感は,他者との関係性や親密さの欠如によって引き起こされる。そして,引き起こされた孤独感が後の精神的健康を阻害することも明らかにされている。ただし,子どもは孤独感を経験した際に,ただそれを受け入れているわけではない。その不快な感情を処理するために,孤独感への対処行動を行うことが指摘されている (村上・西村, 2012)。例えば,村上・西村 (2013)は以下の六つを挙げている。それらは,さみしさを感じていないふりをする「自己呈示」,出来事の良い面を見出そうとする「肯定的思考」,人と関わることでさみしさを紛らわそうとする「社会的接触」,友だちにちょっかいを出したり,嫌がったりするようなことをする「攻撃的対処」,さみしさに浸る「受容的対処」,自分の好きなことをする“一人遊び”である。
本研究では2時点の縦断調査を行い,潜在変化モデルを用いて,孤独感と精神的健康との関連,特に1時点目の孤独感の高さとその後の孤独感の変化がそれらとどのように関わっているのかを明らかにすることとした。精神的健康の変数としてストレス反応と自尊心を選択した。そして,孤独感への対処行動のストレス反応や自尊心への効果を検討することとした。どのような対処行動が精神的健康の低下を防ぐことができるのか,教育的な示唆を得ることができると考えられた。
方 法
調査対象と調査内容
A県内の公立小学校5校24学級の4年生から6年生603名 (4年男子106名, 女子100名, 5年男子99名, 女子90名, 6年男子112名, 女子96名) を調査対象とした。第一回目の調査は6月に実施され,第二回目の調査は12月に実施された。2回の調査ともに,孤独感尺度 (Five-LSC; 西村・村上・櫻井, 2015),孤独感対処行動尺度 (村上・西村, 2013),改訂・自己知覚尺度日本語版 (眞榮城・菅原・酒井・菅原, 1997),児童用ストレス反応 (嶋田・戸ヶ崎・坂野, 1994) が測定された。
結果と考察
まず,孤独感とストレス反応および自尊心に関して潜在変化モデルをそれぞれ作成した。高橋 (2015) を参照し,具体的には,2時点の孤独感とストレス反応を用いて,潜在変化モデルを作成し,因子の差得点を表現した。その際には,モデルの識別問題を回避するために,同じ項目の潜在変数への影響指数を同値に固定した上で,誤差間には共分散を仮定し,一次因子の分散を0に固定した。また,一部の潜在変数に対してparcelingを適用し,24個の観測変数からモデルを作成した。このモデルの適合度指標は,χ2 (242) = 692.070 (p < .001),CFI = .934, RMSEA = .056 [ 90% CI: .051-.060 ],SRMR = .045,であり十分な値であった。
関連を検討した結果,ストレス反応の変化因子と孤独感の変化因子に,また自尊心の変化因子と孤独感の共通因子に,それぞれ正の関連が確認された。媒介分析の結果,孤独感の変化因子が受容的対処を介してストレス反応を高め自己呈示や攻撃行動を介して自尊心を低めることが確認された。
近年,わが国において子どもの孤独感に着目した研究が,再び報告されるようになってきた。こうした動向は,UNICEF (2007) の子どものwell beingに関するレポートと無関係ではないであろう。このレポートでは,日本における孤独を感じている子どもの多さが紹介されている
「悲しい」や「つらい」などと表現される感情的傾向と定義される孤独感は,他者との関係性や親密さの欠如によって引き起こされる。そして,引き起こされた孤独感が後の精神的健康を阻害することも明らかにされている。ただし,子どもは孤独感を経験した際に,ただそれを受け入れているわけではない。その不快な感情を処理するために,孤独感への対処行動を行うことが指摘されている (村上・西村, 2012)。例えば,村上・西村 (2013)は以下の六つを挙げている。それらは,さみしさを感じていないふりをする「自己呈示」,出来事の良い面を見出そうとする「肯定的思考」,人と関わることでさみしさを紛らわそうとする「社会的接触」,友だちにちょっかいを出したり,嫌がったりするようなことをする「攻撃的対処」,さみしさに浸る「受容的対処」,自分の好きなことをする“一人遊び”である。
本研究では2時点の縦断調査を行い,潜在変化モデルを用いて,孤独感と精神的健康との関連,特に1時点目の孤独感の高さとその後の孤独感の変化がそれらとどのように関わっているのかを明らかにすることとした。精神的健康の変数としてストレス反応と自尊心を選択した。そして,孤独感への対処行動のストレス反応や自尊心への効果を検討することとした。どのような対処行動が精神的健康の低下を防ぐことができるのか,教育的な示唆を得ることができると考えられた。
方 法
調査対象と調査内容
A県内の公立小学校5校24学級の4年生から6年生603名 (4年男子106名, 女子100名, 5年男子99名, 女子90名, 6年男子112名, 女子96名) を調査対象とした。第一回目の調査は6月に実施され,第二回目の調査は12月に実施された。2回の調査ともに,孤独感尺度 (Five-LSC; 西村・村上・櫻井, 2015),孤独感対処行動尺度 (村上・西村, 2013),改訂・自己知覚尺度日本語版 (眞榮城・菅原・酒井・菅原, 1997),児童用ストレス反応 (嶋田・戸ヶ崎・坂野, 1994) が測定された。
結果と考察
まず,孤独感とストレス反応および自尊心に関して潜在変化モデルをそれぞれ作成した。高橋 (2015) を参照し,具体的には,2時点の孤独感とストレス反応を用いて,潜在変化モデルを作成し,因子の差得点を表現した。その際には,モデルの識別問題を回避するために,同じ項目の潜在変数への影響指数を同値に固定した上で,誤差間には共分散を仮定し,一次因子の分散を0に固定した。また,一部の潜在変数に対してparcelingを適用し,24個の観測変数からモデルを作成した。このモデルの適合度指標は,χ2 (242) = 692.070 (p < .001),CFI = .934, RMSEA = .056 [ 90% CI: .051-.060 ],SRMR = .045,であり十分な値であった。
関連を検討した結果,ストレス反応の変化因子と孤独感の変化因子に,また自尊心の変化因子と孤独感の共通因子に,それぞれ正の関連が確認された。媒介分析の結果,孤独感の変化因子が受容的対処を介してストレス反応を高め自己呈示や攻撃行動を介して自尊心を低めることが確認された。