[PD11] 虐待が疑われる児童に対する保育者の初期面接
Keywords:司法面接、児童虐待、保育者
児童と関わる機会の多い保育・教育現場の教職員は,虐待の早期発見に重要な役割を担う。しかしながら先行研究では,教職員は虐待か否かの判断に慎重であり,通告をためらう場合があることを指摘している(笠原・加藤, 2007など)。虐待が疑われる場合,子どもから直接話を聞き,情報を収集することも必要だろう。それでは,教職員はどのような方法で子どもから話を聞くのだろうか。今日,司法や福祉の領域では,被虐待児から話を聞く際には「司法面接」が用いられる。司法面接では,子どもの自発的な発話を促すオープン質問により話を聞くことが重視される。子どもの供述が被虐待の証拠となる可能性をふまえると,保育・教育現場の初期段階においても,司法面接的な聞き取りが求められる。
そこで本研究では,保育現場の教職員が,虐待が疑われる児童にいかなる初期面接を行っているのかを明らかにする。これにより,保育者の虐待に対する意識と,虐待の早期発見・解決に向けた,保育・教育現場の在り方を考察する。
方 法
参加者 保育者149名と保育科学生(統制群)94名が質問紙に回答した。
質問紙 虐待種別(ネグレクト,身体,性,心理)と虐待の疑わしさのレベル(高,低)の組み合わせから,虐待が疑われる事案を8つ作成した。
それぞれの場面について,(1)虐待であると思うかどうか(虐待判断),(2)子どもから話を聞く必要があると思うか(聴取の必要性)を5件法で尋ね,その上で(3)子どもから話を聞く場合にどのような質問をするかを「具体的な言葉」で自由記述してもらった。
結果と考察
(1)虐待判断 職種(2:保育者,学生)×虐待レベル(2:高,低)×虐待種別(4:ネグレクト,身体,性,心理)の分散分析を行った。結果,職種,レベル,虐待種別の主効果が有意であり,評定値は学生>保育者,高>低,および身体>ネグレクト>性>心理だった。また,交互作用が有意であり,保育者の評定は,ネグレクト,身体,心理において高レベル>低レベルだったが,性では差がなかった。
(2)聴取の必要性 分散分析の結果,レベルと虐待種別の主効果が有意であり,高>低,身体>ネグレクト>心理>性であった。また,交互作用が有意であり,低レベルでは身体>ネグレクト>心理>性であったが,高レベルでは身体,ネグレクト>心理,性であった。
(3)話の聞き方 得られた記述をカテゴリに分類し,回答数を求めた。回答数を従属変数とし,分散分析を行った。
①オープン質問 司法面接で主に用いる,子どもの自由な発話を促す質問である。分析の結果,身体>心理>ネグレクト>性の主効果が有意であった。また,交互作用も有意で,身体,性は高>低だった が,心理は低>高だった。
②WH質問 時間や場所など,特定の情報を尋ねる質問である。分析の結果,保育者>学生,高>低,および,ネグレクト,性,心理>身体であった。また保育者は,高レベルのネグレクトでWH質問が多かった。
③クローズド質問 「はい・いいえ」や面接者が提示した選択肢での回答を求める質問である。分析の結果,保育者>学生であり,ネグレクト>身体,性>心理であった。また,低レベルのネグレクト,身体,高レベルの身体,性で,保育者>学生であった。
④指導・助言 状況の解釈や対応方法などを伝える発話である(××なんじゃない等)。分析の結果,保育者>学生,心理>他の種別であった。また,心理では保育者>学生の差が顕著であった。
全体考察 身体的虐待では,保育者は聴取の必要性を認識し,オープン質問で事実を確認することが多かった。一方,性や心理的虐待では,聴取の必要性が低く判断された。特に心理的虐待では,指導・助言による教育的な援助が多かった。保育者は心理的虐待を,子育て支援の問題だと捉えていることが示唆される。虐待の早期発見に向け,心理的虐待における,事実確認の重要性を明確化することが求められるかもしれない。
そこで本研究では,保育現場の教職員が,虐待が疑われる児童にいかなる初期面接を行っているのかを明らかにする。これにより,保育者の虐待に対する意識と,虐待の早期発見・解決に向けた,保育・教育現場の在り方を考察する。
方 法
参加者 保育者149名と保育科学生(統制群)94名が質問紙に回答した。
質問紙 虐待種別(ネグレクト,身体,性,心理)と虐待の疑わしさのレベル(高,低)の組み合わせから,虐待が疑われる事案を8つ作成した。
それぞれの場面について,(1)虐待であると思うかどうか(虐待判断),(2)子どもから話を聞く必要があると思うか(聴取の必要性)を5件法で尋ね,その上で(3)子どもから話を聞く場合にどのような質問をするかを「具体的な言葉」で自由記述してもらった。
結果と考察
(1)虐待判断 職種(2:保育者,学生)×虐待レベル(2:高,低)×虐待種別(4:ネグレクト,身体,性,心理)の分散分析を行った。結果,職種,レベル,虐待種別の主効果が有意であり,評定値は学生>保育者,高>低,および身体>ネグレクト>性>心理だった。また,交互作用が有意であり,保育者の評定は,ネグレクト,身体,心理において高レベル>低レベルだったが,性では差がなかった。
(2)聴取の必要性 分散分析の結果,レベルと虐待種別の主効果が有意であり,高>低,身体>ネグレクト>心理>性であった。また,交互作用が有意であり,低レベルでは身体>ネグレクト>心理>性であったが,高レベルでは身体,ネグレクト>心理,性であった。
(3)話の聞き方 得られた記述をカテゴリに分類し,回答数を求めた。回答数を従属変数とし,分散分析を行った。
①オープン質問 司法面接で主に用いる,子どもの自由な発話を促す質問である。分析の結果,身体>心理>ネグレクト>性の主効果が有意であった。また,交互作用も有意で,身体,性は高>低だった が,心理は低>高だった。
②WH質問 時間や場所など,特定の情報を尋ねる質問である。分析の結果,保育者>学生,高>低,および,ネグレクト,性,心理>身体であった。また保育者は,高レベルのネグレクトでWH質問が多かった。
③クローズド質問 「はい・いいえ」や面接者が提示した選択肢での回答を求める質問である。分析の結果,保育者>学生であり,ネグレクト>身体,性>心理であった。また,低レベルのネグレクト,身体,高レベルの身体,性で,保育者>学生であった。
④指導・助言 状況の解釈や対応方法などを伝える発話である(××なんじゃない等)。分析の結果,保育者>学生,心理>他の種別であった。また,心理では保育者>学生の差が顕著であった。
全体考察 身体的虐待では,保育者は聴取の必要性を認識し,オープン質問で事実を確認することが多かった。一方,性や心理的虐待では,聴取の必要性が低く判断された。特に心理的虐待では,指導・助言による教育的な援助が多かった。保育者は心理的虐待を,子育て支援の問題だと捉えていることが示唆される。虐待の早期発見に向け,心理的虐待における,事実確認の重要性を明確化することが求められるかもしれない。