日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-68)

2019年9月15日(日) 10:00 〜 12:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PD15] 学びのパフォーマンスのデザイン(1)

高等学校教員のファシリテーションが生徒のパフォーマンスに及ぼす影響

黒木美和子1, 有元典文2 (1.横浜国立大学大学院, 2.横浜国立大学)

キーワード:学習環境デザイン、ファシリテーション、リスク

問題と目的
 国立教育政策研究所生徒指導研究センターの報告(平成16年)によると,現代の子どもたちの一番の問題は,「人と関わりたい」という意欲そのものが低下していることである。同報告は,「人(他の子ども)と関わりたい」と思う気持ちは,自らの体験によってのみ獲得されるものであり,他の子どもとの関わり合いを通して,「人と関わることは楽しい,苦痛なことではない」と感じるところから,「社会性の基礎」を形づくると述べている。
 国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センターの報告(平成27年)によると,日本の子どもの場合,認められて育つという「他者からの評価」が子どもの自信に大きく影響するという。そのため,教員は授業時に子どもたち同士の適切なコミュニケーションを援助促進することが必要であるが,そういった足場かけを教員自身が考慮して行っているのかは,明らかにされていない。
 そこで本研究では,授業時の活動について,教員の指示と,生徒がパフォーマンスすることに対して抱くリスク(行動するのをためらう気持ち)を比較し,教員のファシリテーションが生徒のパフォーマンスに及ぼす影響について検討することを目的とする。
方  法
 2018年9月から2019年2月にわたり,首都圏県立高等学校の教員(平均経験年数21.14年,標準偏差14.82,男性28人,女性15人)を対象に,授業時の活動を指示する頻度に関する質問紙調査を実施した。さらに,同校の1年生の生徒(男子49人,女子30人)を対象に,授業時の活動に対するリスクに関する質問紙調査を実施した。
結  果
 授業時の6種類の活動(Table 1)について,教員が指示する頻度を5件法(1低い,2やや低い,3どちらともいえない,4やや高い,5高い)で回答するよう求めた。あわせて,生徒が抱くリスクを5件法(1低い,2やや低い,3どちらともいえない,4やや高い,5高い)で回答するよう求めた。
 教員が指示する頻度のうち,項目3は項目4,5,6に比べて高く,生徒が抱くリスクは項目2が最も高く,項目4は最も低かった。
考  察
 教員が指示する頻度が高い項目は,3「隣の人とペアワークをする」である。これは教員にとって普段の授業でも取り入れやすいため,指示する頻度が高くなっていることが考えられる。一方,指示する頻度が低い項目は,4「仲の良い人とペアワークをする」5「隣の人に解説する」6「隣の席の人の解説を聞く」である。これらは教員にとって生徒同士のコミュニケーションを促進するファシリテーションが必要な指示であるが,その頻度が低いことから,教員はこれらの活動を指示することに苦手意識やリスクを抱えていると考えられる。教員は漠然とペアワークの指示をし,生徒同士の関係づくりを生徒のみに委ねるのではなく,適切なファシリテーションで生徒の「人と関わりたい」という意欲を引き出す必要がある。
 生徒が抱くリスクが高い項目は,2「発表をするために手を挙げる」である。これは生徒にとって自らの意見を主体的・自発的に述べる活動であるため,集団の注目を浴びながら「自身のパフォーマンスが他者に評価される」リスクがつきまとうことが予想される。教員はそうした生徒のリスクに気づき,安心感のある学習環境を設定する必要があると考えられる。一方,リスクが低い項目は,4「仲の良い人とペアワークをする」である。仲の良い友人であれば,他者に意見が評価されるというリスクより,協働し合うことに目が向けられる可能性があるため,教員はこういった生徒同士のより良い関係づくりを促進する必要がある。
 教員のファシリテーションと生徒のパフォーマンスを積み重ねながら,共に学習環境をつくりあげていくことにより,生徒同士だけではなく教員自身も新しい発見をし,生徒との関係を高め合い深め合い成長するという相互作用が期待できる。教員もパフォーマーとして安心感のある学習環境づくりの一翼を担っている自覚を持つことが必要である。