日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-68)

Sun. Sep 15, 2019 10:00 AM - 12:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PD16] 学びのパフォーマンスのデザイン(2)

高校授業にインプロゲームを導入した際の学習者リスクの検討

渡邉由貴1, 有元典文2 (1.横浜国立大学大学院, 2.横浜国立大学)

Keywords:学校教育、インプロ・ゲーム、学習環境デザイン

問題と目的
 対話的な学びが推進されている一方,学校教育では子供の社会性の低下が問題とされてきた(菅田, 2008; 国立教育政策研究所, 2011)。文部科学省(2017)は,子供に期待する資質・能力を,予測困難な社会の変化に主体的に関わり,よりよい社会と幸福な人生の創り手となる力を身に付けられるようにすること,と規定している。学校には,変わり続ける状況に対応する資質・能力を育むことが期待されるが,西田・北島(2005)は,予測不能な状況に置かれると人は不安感や困難を経験することを明らかにしている。そこで注目されているのが,やり方を知らないことに挑戦し,集団としての協働を学習していく即興演劇手法「インプロ・ゲーム」(ロブマン&ウィンドクゥスイト,2016)である。有元(2019)は教育実践の中にあるパフォーマンスの重要性を指摘し,教育とは皆が共同でリスクを支えあいながら発達する実践であると述べている。ここではリスクを,予測できない物事に挑戦することで生じる不安感や困難と定義する。協働の学習であるインプロ・ゲームの導入によって,生徒の社会性に起因するリスクは低減するだろうか。本研究では,社会性の向上を期待して実施する高等学校の授業におけるインプロ・ゲームの効果と影響を明らかにし,対話的な学びの学習環境デザインを検討する際の基礎資料とすることを目的とする。
方  法
 2018年12月に首都圏にある定時制公立高等学校の生徒32名(男子20名,女子12名)を対象に,インプロ・ゲームを用いた授業を実施した。授業者は著者であり,授業では,即興での協働を必要とする6つのインプロ・ゲームを実施し,各ゲームのリスク得点を質問紙で調査した。実施したゲームは(1)ラインアップ,(2)ミートゥー,(3)ペンのダンス,(4)ぱんぱっちんどん,(5)ブラインドジャンプ,(6)一音ソングであった。リスク得点は「1 全くリスクを感じない」「2 あまりリスクを感じない」「3 どちらともいえない」「4 ややリスクを感じる」「5 非常にリスクを感じる」の5件法で回答を求めた。リスク得点の回答は,各ゲーム終了直後に逐次行い,終了後,「リスクについて感じたことと授業の感想」を自由記述形式での回答を求めた。
結  果
 まず,インプロ・ゲームのリスクを検討するため,得られた自由記述(27個)をインプロに対する「快感情」と「不快感情」の2群に分類し,どちらにも当てはまらないもの(8個)は分析対象から除外した。一連の処理は実施者及び心理学を専攻する大学院生2名,大学教授1名で行い,不一致の箇所は合議により決定した。快・不快群とリスク得点の間で対応のないt検定を行った結果,リスク得点は快群よりも不快群の方が有意に高かった(t(18)=11.25,p<.01)(Table 1)。
 次に,インプロ・ゲームに対する学習者の捉え方を検討するため,算出したリスク得点の中央値を除いた上で,リスク低群・高群に二分し,自由記述の内容を上述の通り複数の合議に基づき比較した。リスク低群では「楽しい」,高群では「難しい」という内容の記述が多く見られた。各群の自由記述例を以下のTable 2に示す。
考  察
 インプロ・ゲームに対して快感情を抱いている生徒のリスクが低く,不快感情を抱いている生徒のリスクが高いことから,社会性の向上を期待してインプロ・ゲームを実施しても,生徒みなの社会性に関するリスクが低下するわけではなく,ゲームそのものがリスクである層もいることが明らかになった。これはゲームという構造のもつ成功・失敗,上手い・下手の自他への明確な可視性のためだと推察される。
 次に,同じインプロ・ゲームをしても楽しさを感じる者と困難さを感じる者がいることが明らかになった。ここから,同じ活動をしていても学習者によって学習の体験が異なっていたことが示唆される。
 結局筆者は授業者として,一部の生徒の社会的なリスクを高め,不快な感情を与えていたことになる。有元(2019)は「教える」ということを教師にも同時に学習が引き起こされ,学習が必要とされる「場」であると述べている。本研究から、教師に取って何より重要なのは、学習者の多様性を把握し,教師も含んだ皆が支え合うことでやり方を知らないことに挑み,学習できる場づくりをしていくことであると改めて思い知らされた。