日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-68)

2019年9月15日(日) 10:00 〜 12:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PD29] 短文理解に伴う状況イメージの検討

短文を接続する語「そのあと」を用いて

伊藤尚枝 (恵泉女学園大学)

キーワード:短文理解、心的なシミュレーション

問題と目的
 de Vega et al.(2004)は,例えば「木を切り倒す」「フェンスにペンキを塗る」という2つの短文を,接続詞(whileまたはafter)でつないで重文を作り,参加者に読んでもらった。重文の意味が通るかを尋ねると,"after"の場合は意味が通るが,"while"の場合は通らないと答えた。さらに,読解時間を比較すると,"after"のほうが"while"よりも有意に短かった。この結果から,同時には実行できない動作文を"after"でつなぐと,辻褄の合う状況として表象して,動作を心的にシミュレーションできるようになると主張している。
 本研究では,"after"のかわりに,フレーズ「そのあと」を使用する。そして,2つの動作文をつなぐ「そのあと」の有無を操作して,表象するイメージに違いが現れるかを実験的に検討する。指標としては,単語の再生テストを使用する。「そのあと」があることで,読者が一貫した状況を表象して動作をシミュレーションするならば,フレーズの有無に応じて再生成績に違いが表れるだろう。
方  法
実験参加者 大学生60名(18~20歳)。フレーズあり条件(30名)と,フレーズなし条件(30名)にランダムに割りあてた。
実験計画 1要因の参加者間計画。要因は,呈示するフレーズ(「そのあと」)の有無であった。
呈示刺激 2文を1組として,18組呈示した。Table 1に,使用した刺激文から5組を抜粋して示す。フレーズあり条件は,2文の間に「そのあと」(Table 1内[ ]で示す)を入れて呈示した。フレーズなし条件は,2文の間に何も入れなかった。短文は,すべて「(名詞)を~する」の形であった。
手続き 参加者に,条件に応じた刺激文をパワーポイントで呈示した。スライド1枚につき2文を1ペアにして呈示して,7秒間黙読してもらった。参加者の課題は,呈示された2つの文中に含まれる単語(名詞)を覚えることであった。単語は,1文につき1つずつ指定したが,一緒に呈示した2文の単語をペアにして覚えてもらった。記憶する単語は,下線を引いて示した(Table 1内の二重線と太線部分)。刺激文を読み終わった後,再生テストを受けてもらった。再生テストでは,第1文の単語(Table 1内の二重線)をヒントにして,ペアである第2文の単語(Table 1内の太線)を再生してもらった。
結果と考察
 ペアの相方の単語を正しく再生できたときに,1点を与えて得点化した(18点満点)。Figure 1に,各条件ごとの正解得点の平均値を示す。2条件の平均値に差があるかどうかを調べるために,対応のないt検定を実行したところ,有意な差が認められた(t(58)=2.85, p<.05)。
 フレーズあり条件のほうが,記憶成績がよかったのは,フレーズ「それから」によって,脈絡のない2つの動作文を統合するイメージを形成して,動作を心的にシミュレーションしたためだと推察できる。
引用文献
de Vega, M., Robertson, D. A., Glenberg, A. M., Kaschak, M. P.,& Rinck, M. (2004). On doing two things at once: Temporal constraints on actions in language comprehension. Memory & Cognition, 32, 1033-1043.