日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-68)

Sun. Sep 15, 2019 10:00 AM - 12:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PD30] 教師の指示の仕方に対する小学生の認識

小学1年生とその担任教師に対する質問紙調査と授業観察から

川島哲 (武蔵野大学)

Keywords:小学校、指示、教室談話

問  題
 教室談話の分析においては,教室の特徴を示すような多くの知見が得られてきている(Macbeth, 2003: Mehan, 1979など)。教室における指示表現を対象にした研究も進められているが(川島, 2012; 森,2013など),言語学における依頼表現や敬語表現に鑑みて,知見の蓄積は少ないと言える。
 言語学の知見であるポライトネス理論(Brown and Levinson, 1987)を応用し,川島(2018)は,教師の指示を分析し,授業に含まれる指示表現全体の分類を行った。多様な表現を使われていることが明らかにされたが,教室談話では一般的な会話と異なり,子どもと教師という特殊な立場間の会話であることから,指示を受け取る子どもの認識について扱う必要を指摘できる。
 そこで,本研究では,教師と子どもに指示の認識を問うことと,教室を観察することを組み合わせることで,子どもの認識と子どもの行為と教師の指示の関係性について,探索的に検討することを目的とする。
方  法
研究協力者:都区内の小学校1年生1クラスに協力いただいた。研究に対しては,校長および担任教諭に了承をもらい,担任教諭を通じて保護者の了解を得た。
 クラスは,25名であった。担任教諭は,教職歴25年以上のベテランの女性教諭で,授業の研究会を主催するなど授業をよくすることに意欲的だった。
方法:映像および音声資料を収集し,教室談話の分析対象とした。
 質問紙は,独自に作成した場面想定法の質問紙であり,3場面について3通りの指示を示し,それぞれについての印象を5件法で回答を求めた。また,それぞれの指示を聞いた際の振る舞いについても,従わない・今の活動を終えたら従う・すぐに従う,という趣旨の3択で回答を求めた。集計した結果,未回答や連続した同じ回答が多い4名を一部の分析の対象外として,21名を分析対象とした。
 また同様の場面において,教師がどのように指示発話を行うかと,その理由についても,担任教諭に回答を求めた。
 以上の3つの資料を組み合わせて分析した。
結果と考察
 以下,質問紙調査の結果と考察を示す。
 質問紙調査の結果,ある場面における「指示を冷たいと感じるか」という質問の答えにおいて,指示毎の回答の分散分析に有意な傾向が見られた(F(2, 36)=4.184, p= .024, 偏η2=.189)。そのため,作業をやめて黒板を見ることを促す場面において, 3つの指示で指示の冷たさに違いがあることが分かった。多重比較の結果,授受関係を示す指示をより冷たく感じ(M=1.789)に対して,勧誘表現「みましょう」(M=1.421)と「ください」表現(M=1.474)がそれぞれ有意な差を示した(それぞれp=.030; p=.031)。教師が子どもに対して,丁寧に「では,黒板を見てくれますか?」と言うことは,心理的に遠い位置からの指示と感じられ,心理的に近い仲間の位置からの勧誘表現の指示や標準的な指示表現より,冷たく感じたことが示唆された。ただし,Holm法による調整を行うと,有意差は見られないため,一般化にはより大きなサンプルサイズが必要だろう。
 同様の,しかし優位傾向が,別の場面における指示の種類の効果への分散分析から,指示の分かりやすさと冷たさに見られた。
 教師への質問紙調査からは,子どもの様子を正確に把握し,それに即した発話をすると自らを捉えていることが示された。ポライトネス理論では現実の関係性や状況に即した発話表現が使われるとされるが,逆に会話参加者が関係性や状況をコントロールするために,特定の発話表現を用いる可能性を示唆している。本研究の小学校教師は前者の使い方が主にしていることが示された。