[PD43] 若年就労者の職場適応を規定する在学中の要因(6)
就職前の不安と高揚感が入職後の職場適応に及ぼす影響
Keywords:就職不安、職場適応、若年就労者
問 題
厚生労働省(2018)によれば,就職後3年以内の離職率は新規高卒就職者39.3%,新規大卒就職者31.8%にもなるという。大学生が積極的に就職活動を行い,自らが納得する進路を実現することは非常に重要であるが,そのような就職に向けた活動やその中で経験する不安や効力感などが,入職後にどのような影響を与えるのかについてはあまり検討されていない。そこで,本研究では,入職後の職場適応を促進する在学中の要因について検討したい。その一環として,卒業時に抱いていた就職先に対する肯定的な感情,就職前の高揚感,就職不安が入職1年後の職場適応に及ぼす影響について探索的に検討を行う。
方 法
調査対象者 埼玉県内の私立女子大学4年生を対象に縦断的調査を実施した。第4回調査(Time 4)を2017年3月末に,第5回調査(Time 5)を2018年3月末(入職後約1年後)に実施した。第4調査には115名(平均年齢22.0歳,SD=0.6)が回答した。第5調査には59名(平均年齢23.0歳,SD=0.7)が回答した。両方の調査に回答をした51名を分析対象とした。
質問紙の内容 【第4回調査】1) 就職に関する不安:石本・逸身・齋藤(2010)及び松田・永作・新井(2008)を基に30項目を作成(4件法)。2)就職前の高揚感:著者らの合議により,「4月から就職するのが楽しみだ」など12項目を作成(5件法)。3)就職先に対する納得度/満足度:卒業後の就職先や進路について納得している程度及び満足している程度を各1項目5件法で測定。【第5調査】1)職場適応感尺度:野田・奇(2016)の職場適応感尺度の5因子から因子負荷量が高い3項目を抜粋(15項目,5件法)。以上を分析に使用した。
結 果
就職不安(Time 4) 因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行ない,項目削除後の20項目について固有値1.0 を基準に5因子を抽出。各因子を「社会人になる不安」(α=.892),「職場適応への不安」(α=.829),「適性への不安」(α=.802),「未知の仕事に対する不安」(α=.775),「会社からの能力評価への不安」(α=.743)と解釈。
就職前の高揚感(Time 4) 同様の分析を実施し,2因子を抽出。各因子を「高揚感」(α=.837),「楽観視」(α=.716)と解釈。
職場適応感(Time 5) 同様の分析を実施し,3因子を抽出。各因子を「役割への適応」(α=.835),「職場への馴染み」(α=.902),「職場の居心地のよさ」(α=.793)と解釈。
就職先に対する納得度/満足度,就職前の高揚感及び就職不安(Time 4)が入職1年後の職場適応感(Time 5)に及ぼす影響 就職先に対する納得度及び満足度,就職前の高揚感及び楽観視,就職不安 5因子を説明変数,入職1年後の職場適応感3因子を目的変数にしたステップワイズ法による重回帰分析を行なった(Table 1)。その結果,役割への適応には,社会人になる不安が負の影響を与え,楽観視が正の影響を与えていた。また,職場への馴染みには,適性への不安が負の影響を与えていた。さらに,職場の居心地のよさには,就職先に対する満足度が負の影響を与え,楽観視が正の影響を与えていた。
考 察
本研究の結果より,就職直前の卒業時に楽観的な見通しを持つことが,入職1年後に職場で必要とされ,役に立っている感覚を得ることや,職場を安心して,将来役立つことを学べる場として評価することにつながることが分かった。就職を前にした楽観視は,ある意味自分自身に対する信頼を反映している可能性がある。また,卒業前に社会人になる不安や適性への不安を抱えていることが,入職後に職場になじめず,自分の役割を遂行できていない感情を高めることがわかった。内定を獲得した大学生に対して,このような不安を減じるサポートをすることが重要であると考える。
付 記
本研究はH30年度本学のプロジェクト研究費の助成を受け実施された。
厚生労働省(2018)によれば,就職後3年以内の離職率は新規高卒就職者39.3%,新規大卒就職者31.8%にもなるという。大学生が積極的に就職活動を行い,自らが納得する進路を実現することは非常に重要であるが,そのような就職に向けた活動やその中で経験する不安や効力感などが,入職後にどのような影響を与えるのかについてはあまり検討されていない。そこで,本研究では,入職後の職場適応を促進する在学中の要因について検討したい。その一環として,卒業時に抱いていた就職先に対する肯定的な感情,就職前の高揚感,就職不安が入職1年後の職場適応に及ぼす影響について探索的に検討を行う。
方 法
調査対象者 埼玉県内の私立女子大学4年生を対象に縦断的調査を実施した。第4回調査(Time 4)を2017年3月末に,第5回調査(Time 5)を2018年3月末(入職後約1年後)に実施した。第4調査には115名(平均年齢22.0歳,SD=0.6)が回答した。第5調査には59名(平均年齢23.0歳,SD=0.7)が回答した。両方の調査に回答をした51名を分析対象とした。
質問紙の内容 【第4回調査】1) 就職に関する不安:石本・逸身・齋藤(2010)及び松田・永作・新井(2008)を基に30項目を作成(4件法)。2)就職前の高揚感:著者らの合議により,「4月から就職するのが楽しみだ」など12項目を作成(5件法)。3)就職先に対する納得度/満足度:卒業後の就職先や進路について納得している程度及び満足している程度を各1項目5件法で測定。【第5調査】1)職場適応感尺度:野田・奇(2016)の職場適応感尺度の5因子から因子負荷量が高い3項目を抜粋(15項目,5件法)。以上を分析に使用した。
結 果
就職不安(Time 4) 因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行ない,項目削除後の20項目について固有値1.0 を基準に5因子を抽出。各因子を「社会人になる不安」(α=.892),「職場適応への不安」(α=.829),「適性への不安」(α=.802),「未知の仕事に対する不安」(α=.775),「会社からの能力評価への不安」(α=.743)と解釈。
就職前の高揚感(Time 4) 同様の分析を実施し,2因子を抽出。各因子を「高揚感」(α=.837),「楽観視」(α=.716)と解釈。
職場適応感(Time 5) 同様の分析を実施し,3因子を抽出。各因子を「役割への適応」(α=.835),「職場への馴染み」(α=.902),「職場の居心地のよさ」(α=.793)と解釈。
就職先に対する納得度/満足度,就職前の高揚感及び就職不安(Time 4)が入職1年後の職場適応感(Time 5)に及ぼす影響 就職先に対する納得度及び満足度,就職前の高揚感及び楽観視,就職不安 5因子を説明変数,入職1年後の職場適応感3因子を目的変数にしたステップワイズ法による重回帰分析を行なった(Table 1)。その結果,役割への適応には,社会人になる不安が負の影響を与え,楽観視が正の影響を与えていた。また,職場への馴染みには,適性への不安が負の影響を与えていた。さらに,職場の居心地のよさには,就職先に対する満足度が負の影響を与え,楽観視が正の影響を与えていた。
考 察
本研究の結果より,就職直前の卒業時に楽観的な見通しを持つことが,入職1年後に職場で必要とされ,役に立っている感覚を得ることや,職場を安心して,将来役立つことを学べる場として評価することにつながることが分かった。就職を前にした楽観視は,ある意味自分自身に対する信頼を反映している可能性がある。また,卒業前に社会人になる不安や適性への不安を抱えていることが,入職後に職場になじめず,自分の役割を遂行できていない感情を高めることがわかった。内定を獲得した大学生に対して,このような不安を減じるサポートをすることが重要であると考える。
付 記
本研究はH30年度本学のプロジェクト研究費の助成を受け実施された。