日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-68)

Sun. Sep 15, 2019 10:00 AM - 12:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PD46] 不登校児の母親に対する支援過程についての検討

森下文1, 伊藤美奈子2 (1.奈良女子大学, 2.奈良女子大学)

Keywords:不登校、母親支援、M-GTA

問題と目的
 子どもが不登校になった場合,その当事者である子自身が一番辛いことは言うまでもない。しかし,学校に行かない子を家庭で支える母親の大変さは計り知れない。不登校児を対象とした調査(牧,2019)によれば,子が不登校中の一番の相談相手として挙げたのは母親だった。この調査からも,不登校児と母親との関係の緊密さが見て取れ,緊密であるがゆえの母子間の葛藤の大きさが推測される。不登校児を対象とした研究(伊藤2012,2015 etc)は数多く,その実態や支援について多くの知見が積み重ねられてきた。母親に焦点を当てた研究としては,山尾ら(1983)が不登校児の母親の意識調査を,小野(1993)や川中(1998)は母親の心理的変化について研究を行っている。これらの研究から,わが子の不登校という現実を母親が受容することの困難さと苦悩,そして心理的負担の大きさが示された。しかし不登校児の母親をどのようにサポートしていくのかという,母親支援に焦点を絞った研究はこれまであまり行われてこなかった。本研究では,不登校児を持つ母親がわが子の不登校という現実を受容していく心理的プロセスの分析を行い,そこから母親の心理的変化段階に応じた,有効な母親支援の在り方を検討することを目的とした。
調査協力者
 不登校児対象のフリー・スクールに子どもを通わせる母親10名(30代前半~50代前半)を調査対象とした。フリー・スクールに調査協力を依頼し,母親の紹介を受けた。研究の趣旨を伝え十分な同意を得た上で,積極的な語りが得られた。
調査手続き
 201X年4月~201X+1年3月,フリー・スクールの保護者会や研修会等の後,第三者の出入りのない静かな個室において1対1の半構造化面接を行った。「不登校になる以前,不登校の始まり,そして不登校状態にある現在に至るまで,お子さんについてのお母さんの気持や考えの変化とそのきっかけについて語ってください」と教示し,自由に語ってもらった。面接時間は1~2時間(平均1時間13分)だった。面接内容は全て逐語記録に起こした。
分析方法
 母親がわが子の不登校を通して経験した多様な感情変化の軌跡を詳細に捉え,解釈,分析していくという点から質的研究法を採用した。面接調査によって得られた逐語記録は,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA:木下,2003)に基づいて分析を行った。
結果と考察
 逐語記録の分析から抽出された上位カテゴリー『』,カテゴリー【】,概念「」を用い,母親の心理的変化と支援の可能性を説明する。母親は➀『(わが子の)不登校への怯え』期を経て,不登校対応に煩悶する②『不登校の堂々巡り』期に入り,その後,③『子への意識改革』期へと移行していた。①~③の全過程において『外部からの助言や援助』はあるものの,母親の心理状況に応じて援助への認識が変化していた。『不登校の怯え』期,母親は不登校を自力で解決したいという思いが強く,周囲からの支援に対して拒絶的だった。『不登校の堂々巡り』期になると,母親は【子との葛藤サイクル】【母親自身の葛藤サイクル】【周囲との葛藤サイクル】【学校をめぐる確執】の中,心理的不安定状態に陥っていた。この時期,母親への家族からのサポートの重要性が示唆された。また【母の底付きの境地】に至ることで周囲の助言を聞き入れ,【フリー・スクールとの出会い】につながり,そこで「辛さの共感体験」「他親からの学び」を経験し,ついには「ありのままの子の受容」という『子への意識改革』がなされ,子の不登校という現実受容につながっていた。