日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-68)

2019年9月15日(日) 10:00 〜 12:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PD49] 発達障害の早期発見につながりにくい保育とは

菊池知美 (ルーテル学院大学)

キーワード:発達障害、早期発見、保育

門題と目的
 近年, 発達障害については医療分野のみならず教育場面においても注目され, 子どもへの支援につながってきている。認知・知名度ともに高まっている発達障害であるが, 現実的には発見が遅れ年齢が進めば進むほど環境との相互作用の結果ともいうべき二次性障害が付加される(斉藤, 2010)例も少なくない。また, 清水(1997)は早期発見について, その時期や障害の種類, 主な指標をタイプ分けし乳児期から幼児期前期の行動を指標にして発達の異常を探ることが早期発見には肝要だと述べている。では, 乳幼児期に一日の大半を過ごし客観視が可能な保育園にて早期発見へとつながりにくいのはどのような状況であろうか。本研究では, 報告者が巡回指導員として勤務した保育園にて, 発達障害と関連がある低出生体重児(Schieve, et al. 2016)に対する保育がどのようになされているか観察し保育の五領域に沿って検討する。
方  法
 対象者 首都圏の保育園にて行う巡回指導にて, 低出生体重児3人(1868g, 1927g, 2101gですべて男児)と担当の保育士3人(保育歴30年台1人, 10年台2人)を対象とした。調査期間 2017年5月から2019年3月(4月と8月を除く)までで, 1か月に1回, 合計20回, 午前10時から午後3時まで観察を行った。
結  果
 低出生体重児に対する保育は低出生体重児全員(以下, 全員)と特定の低出生体重児(以下, 特定児)に分かれて配慮と対応がなされていた(Table 1を参照。五領域の「人間関係」「環境」「言葉」は紙面の都合上省略)。「健康」では, 全員には身体の動きを促すように声かけをしながらも特定児には「未熟児ちゃんなのに身体が良く動くから安心」とし, (集団から遅れても足を鍛えるため)自由に動き回らせている様子がうかがえた。また, 「表現」では, 保育士が全員と好みの触感・形の遊具などをもとに制作収集をていねいに一緒に行っていた。一方, ねじに似ている物が好きな特定児は保育士とともに細部に渡ってねじに似た物を探し回り, 最終的に設備の一部を「切ってほしい」と頼み保育士は「良く見つけてきたね」と答えた。
考  察
 「健康」の身体の動きについては「良く動く」ことと「良く動かすことができる」ことは異なる。しかし, 子どもをポジティブにとらえようとする保育士の視点から保育士が「良く動く」ことを「良く動かすことができる」状態として認識し多面的な見方をしないと早期発見は遠ざかると思われる。一方, 「表現」における収集は子どもの認知発達において大切なひとつの側面であろう。しかし, それを切り替え時間になっても手放せなかったり大泣きを繰り返すのは好ましい状況ではない。保育学では「子どもの思い」という重要な概念があるが子どもの思いを主体性として大切にしすぎた時にも早期発見にはつながりにくいと思われる。したがって, 保育士による子どもへの多面的な見方が進みにくい時や子どもの主体性を大切にしすぎることは早期発見しにくい状況のひとつになりうると考えられる。
付  記
 個人情報は当該自治体保育課の許可を得ている。