日本教育心理学会第61回総会

Presentation information

ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-68)

Sun. Sep 15, 2019 10:00 AM - 12:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PD51] 中学生における特別な支援ニーズは親への愛着に対して関連・影響はあるのか?

三浦巧也1, 杉岡千宏2, 日下虎太朗3, 橋本創一4 (1.東京農工大学, 2.東京学芸大学大学院, 3.東京学芸大学大学院, 4.東京学芸大学)

Keywords:特別な支援ニーズ、愛着、中学生

目  的
 特別な支援ニーズのある子どもの愛着形成が,他の子ども達よりも遅れ,また,質的に異なることが,様々な研究より指摘されている。そこで本研究では,中学生における特別な支援ニーズについて,親への愛着との関連性や影響を把握することを目的とした。
方  法
調査期間:2019年4月に実施した。
調査協力者:私立中学1年生を調査協力者とした。本研究では,欠損値を除く男子109名(73.2%),女子40名(26.8%),合計149名のデータを用いた。調査用紙配布時に本研究の趣旨と個人情報の取り扱い等を説明し,回答をもって同意を得た。
質問項目:特別な支援ニーズについては,発達的修学困難チェックシート10項目版(松下・福盛・一宮,2014)を採用した。このチェックシートは,「友人関係を築くことの困難さ」と「修学上の不器用さ」の2因子から構成されている。そうではない(0),どちらかと言えばそうではない(1),どちらかと言えばそうである(2),そうである(3)の4件法でたずねた。この尺度は,得点が高いほど困難の度合いが高いことが示される。愛着については,生徒が認知する「親への愛着」因子13項目(西野・氏家・二宮・五十嵐・井上・山本,2009)を採用した。かなりある(0),すこしある(1),あまりない(2),まったくない(3)の4件法でたずねた。この尺度は,得点が高いほど親への愛着を抱きにくいことが示される。なお,全ての項目について,調査協力者の中学生が理解できるように文意を変えずに修正を施した。
分析方法:修学上の困難さと親への愛着との関係性および因果関係を把握するため,相関分析と重回帰分析を行った。なお,性別ごとの分析も行った。
結  果
相関分析の結果:「修学上の不器用さ」因子について,「親への愛着」因子に正の低相関がみられた(γ=0.29,p<0.01)。性別ごとに分析した結果,男子ではγ=0.24(p<0.05),女子ではγ=0.38(p<0.05)という値となり正の低相関がみられた。「友人関係を築くことの困難さ」因子について,「親への愛着」因子に正の低相関がみられた(γ=0.25,p<0.01)。性別ごとに分析した結果,男子ではγ=0.25(p<0.05),女子ではγ=0.22(n.s.)という値となり男子のみ正の低相関がみられた。「修学総合的困難さ」因子と,「親への愛着」因子(γ=0.36,p<0.01)に正の低相関がみられた。性別ごとに分析した結果,男子ではγ=0.28 (p<0.01),女子ではγ=0.33(p<0.05)という値となり正の低相関がみられた。
重回帰分析の結果:重回帰分析の結果,R2は0.09,0.1%水準で有意であった。標準偏回帰係数をみると,「修学上の不器用さ」因子が正の有意な値(β=0.22,p<0.05)となっている。「友人関係を築くことの困難さ」因子(β=0.11,n.s.)は有意な値ではなかった。したがって,修学上の不器用さを感じている生徒ほど,親への愛着を認識することが難しいことが示された。性別ごとに分析した結果,男子における重回帰分析の結果,R2は0.07,5%水準で有意であった。標準偏回帰係数をみると,「修学上の不器用さ」因子が正の有意な値(β=0.14,n.s.),「友人関係を築くことの困難さ」因子(β=0.15,n.s.)となり,有意な値ではなかった。女子における重回帰分析の結果,R2は0.15,10%水準で有意な傾向を示した。標準偏回帰係数をみると,「修学上の不器用さ」因子が正の有意な値(β=0.37,p<0.05)となっている。「友人関係を築くことの困難さ」因子(β=0.03,n.s.)は有意な値ではなかった。したがって,修学上の不器用さを感じている女子生徒ほど,親への愛着を認識することが難しいことが示された。
考  察
 特別な支援ニーズを強く認識するほど,親に対する愛着を抱くことが難しいという傾向が推測された。また,友人関係を築くことへの難しさを認識している男子ほど,親への愛着を抱くことが難しいことも推測された。一方で,女子は男子よりも,修学上の不器用さと親への愛着の認識との関連性がやや強いことが示唆された。加えて,修学上における不器用さを強く認識することが,親への愛着を抱くことに影響を及ぼしていることも推測された。不器用さは目に見える困難さであるため,周囲(特に身近な他者である親等)から指摘を受けやすいことから,他者からの基本的信頼感や愛着を認識しにくい自己へと成長してしまう可能性が推察される。本研究では算出された係数が低い値が多かったた。今後は,特別な支援ニーズと愛着に関連がみられる自尊感情や自己肯定感等の要因を考慮した分析を実施するとともに,思春期における特別な支援ニーズのある生徒の特性と愛着形成に関する理解と,支援方法の確立が期待される。