日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-68)

Sun. Sep 15, 2019 10:00 AM - 12:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PD67] 複数冊子における素点を用いたDIF検出方法について

CEFR descriptors質問紙を用いた検討

熊谷龍一1, 野口裕之2 (1.東北大学, 2.名古屋大学)

Keywords:DIF、素点

目  的
 本研究の目的は,熊谷(2015)で提案された「素点を用いたDIF検出方法」について,テストが共通項目を含んだ複数冊子(版)で構成されている場合に,その対応策を提案し,実データによる分析例を示すことである。ここでDIFとは特異項目機能(differential item functioning)のことを指す。
素点を用いたDIF検出方法(熊谷,2015)
手続き1 受検者ごとに正答数得点を算出し,その値ごとに層分けを行なう。この時,各下位集団における層の人数が一定数(たとえば10)に満たない場合は,隣接する層と結合を行なう。
手続き2 層ごとに以下の値を計算する。
ここでLは層を,P_LMaxは層Lにおいて下位集団ごとに正答率(多値型の場合は平均値)を算出した時の最大値,およびP_LMinは最小値である。W_Lは全受検者数に対する層Lの人数の比率を表す。
手続き3 以下の値K2をもって,DIFの大きさを表す指標とする。
複数冊子分析における問題点と対応策
問題点 分析対象としたい項目数が多く,一つのテスト内に含めることができる項目数が少ない場合などにおいて,共通項目を含めた複数冊子(版)による分析を行うことがある。このような場合において,上記のDIF分析(この時,冊子と下位集団は1対1対応しているとは限らない)を行うとき,手続き1の「正答数得点」を算出する場合には,全項目の正答数(総得点)ではなく,共通項目の部分のみの正答数を用いなければならない。これは,等しい能力を持っている受検者を各層に付置するためであり,各冊子に含まれる項目数や項目の困難度などが異なる場合には,「総得点」ではその機能を果たせなくなるためである(この点については,同じく正答数得点を利用するDIF分析手法のMantel-Haenszel法においても同様に問題となる)。共通項目の数が非常に少ないような場合には,得点段階も少なくなることが問題となる。
対応策 この問題について,全冊子の反応パタンを同一にしたデータ行列(各冊子の未提示部部分については,欠測値とする)について,項目反応理論(Item Response Theory; 以下IRTとする)の分析による潜在特性尺度値(以下θとする)を用いることを提案する。θを用いることにより,共通項目部分以外の情報も「能力値」に組み込むことができ,得点段階の減少も防ぐことができる。
実データを用いた分析
 本研究で提案した方法について,実際に取集されたデータを用いた分析例を示す。
データ 欧州言語共通参照枠(CEFR)におけるCan do descriptors(言語活動で何ができるかを記述したもの)の「読む」,「聞く」から70項目を抽出し,4件法の自己評価形式とした質問紙データ。
受検者 ベトナム,中国,オーストラリア,日本国内在住の,日本語を母語としない日本語学習者,556名。
冊子構成 ベトナム語4版,中国語3版,英語3版,それぞれに共通項目が含まれている。
下位集団 国内在住(88名),国外在住(468名)の2集団
結  果
 70項目について,Raschモデルによりθを算出し,それにより受検者を4層に分けた上で,指標K2を算出したところ,DIF検出の基準となるK2>0.3 を示した項目は2項目であった。Figure 1は K2=0.40 となった項目24「(日本語で)毎日使っている機器・設備の取扱説明のような,簡単な専門的情報を理解することができる」のDIF状況である。