日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-67)

2019年9月15日(日) 13:30 〜 15:30 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:30~14:30
偶数番号14:30~15:30

[PE09] 親子間における失敗観の伝達プロセスの検討

解良優基 (南山大学)

キーワード:動機づけ、失敗観、目標構造

問題と目的
 教育場面においては,しばしば失敗を肯定的に捉え,以降の行動修正の指針とするように子どもたちを励ますことがある。実際に,失敗は自身の学習を促進するための有益な情報を数多く含んでいることから,失敗した原因を分析的に検討し,次回以降の教訓を導くことの重要性は教育心理学の分野でも数多く示されてきた (e.g., 市川, 1991)。しかし,子どもたちの側に立つと失敗に対する見方,すなわち失敗観には大きな個人差があり,上記のように失敗を肯定的に捉えてその後の学習の改善に活用可能であるという「失敗の活用可能性の認知」と,失敗は自身の価値を脅かすため回避すべきであるという「失敗の脅威性の認知」の2種類の下位因子が提案されている (西村他, 2017)。
 失敗の活用可能性の認知は,自律的な動機づけや失敗時の適応的な対処行動などと正の相関をもつことから (西村他, 2017),理論的にも実証的にもその重要性が示されている。しかし,一方で子どもたちがそのような認知をもつために,周囲の大人たちはどのような支援が可能なのかという点については未だ明らかになっていない部分も多い。本研究では,特に家庭での支援に着目し,親子間において失敗観が伝達するプロセスについて検討を行う。
方  法
被調査者:中学生を子どもにもつ父親及び母親と,その子ども(男子112名,女子99名)211世帯。
調査時期:2018年2月から3月にかけて,調査会社に委託してFax調査を行った。
測定変数:失敗観 両親と子どもの3名にそれぞれ尋ねた。子どもには西村他 (2017) の尺度を,両親には池田・三沢 (2012) の尺度を用いた。 達成目標構造 三木・山内 (2005) などの学級における目標構造尺度を参考に,一部家庭用に項目表現を変更して用いた。両親と子どもにそれぞれ尋ねた。
結果と考察
 親の失敗観→親の認知する達成目標構造→子どもの認知する達成目標構造→子どもの失敗観という一連のプロセスを想定したパス解析を行った。なお,欠測値処理として完全情報最尤法を用いた。その結果,母親の肯定的な失敗観は,母親の熟達目標構造および子どもの熟達目標構造の認知を媒介し,子どもの失敗に対する活用可能性の認知に影響していた。すなわち,失敗からの学習可能性を認知する母親は,家庭において学習内容の深い理解や子ども自身の成長に焦点を当てた働きかけを行うことで,肯定的な失敗観を子どもに伝達している可能性が示された。その一方で,父親の目標構造からは子どもの目標構造の認知に対しての影響がみられなかった。
 全体的に決定係数の値が低かった点は考慮する必要があるものの,子どもの肯定的な失敗観を高めるうえで両親のもつ信念に着目する必要性が示された。