[PE11] 親子双方の注意欠如・多動症的行動特性と親子関係との関連
Keywords:注意欠如・多動症、ADHD、親子関係
問題と目的
注意欠如・多動症(ADHD)の子どもの家庭では,親子関係における問題に直面しやすいことが指摘されている(Johnston & Mash, 2001)。また,ADHDの診断を受けた子どもだけでなく,子どもの注意欠如・多動症的行動特性(ADHD特性)の高さについても,親子関係の問題のリスク要因であることが示されている(齊藤他, 2016)。一方,子どもだけでなく,親のADHD特性の高さについても,親子関係の問題の多さに関連を示すことが明らかとなっている(齊藤・坂田, 2017)。しかしながら,親子双方のADHD特性ならびにその組み合わせが親子関係にどのような関連を示すのかについては,これまでに十分な検討が行われていない。本研究は,親子双方のADHD特性の高さならびにその組み合わせが,親子関係(養育のあたたかさ,親子間の葛藤)にどのような関連を示すのか,2時点の縦断データを用いて検討することとした。
方 法
調査対象者と手続き:子どもの養育環境に関する縦断研究の登録家庭において,対象児が小学6年時 (Time 1) と中学1年時 (Time 2) の2時点のデータが欠損なく揃った母親201名と父親158名の回答を分析対象とした。2015年2月と2015年12月に,郵送により質問紙の配付・回収を行った。
測定尺度:(1)親の注意欠如・多動傾向 (Time 1): Adult ADHD Self-Report Scale (ASRS) (Kessler, 2005) 18項目,(2)子どもの注意欠如・多動傾向 (Time 1): ADHD Rating Scale(DuPaul et al., 1998; 市川・田中 監修, 2008)18項目,(3)養育のあたたかさ (Time 2): Parental Bonding Instrument(Parker, 1979)を基に開発された母親・父親版養育態度尺度(菅原他, 2000)のうちあたたかさ5項目,(4)親子間の葛藤: Network Relationship Inventory(Furman & Buhrmester, 1992; 吉武他, 2014)の母親・父親版のうち葛藤3項目
結果と考察
親子の各ADHD特性をStep 1,親子のADHD特性の交互作用をStep 2で投入し,親子関係の各変数を従属変数とする階層的重回帰分析を行った。母親の養育のあたたかさに対しては,子どものADHD特性のみが有意な負の関連を示した(β = -.25, p < .01)。一方,母子間の葛藤に対しては,母子のADHD特性の有意な交互作用が見られ(β = -.18, p < .05),母親のADHD特性が高い場合(β = .18, p < .05)に比べて低い場合(β = .44, p < .01)の方が,子どものADHD特性の高さから母子間の葛藤の多さへの正の関連がより強いことが明らかとなった(Figure 1)。父親の養育のあたたかさに対しては,父子の各ADHD特性が有意な負の関連を示したが(β = -.22, p < .01; β = -.27, p < .01),交互作用は見られなかった。一方,父子間の葛藤に対しては,いずれの変数も関連を示さなかった。
本研究により,あたたかな養育の不足や親子間の葛藤といった親子関係の問題を検討する際に,親子双方のADHD特性に着目することの重要性が示唆された。母子間の葛藤は,親のADHD特性が低い一方で子どものADHD特性が高い家庭において,特に注意が必要であるといえるだろう。
主要引用文献
Johnston & Mash (2001). Clin Child Fam Psychol Rev, 4, 183-207.
齊藤他(2016). パーソナリティ研究, 25, 74-85.
齊藤・坂田(2017). 人間文化創成科学論叢,19, 165-173.
注意欠如・多動症(ADHD)の子どもの家庭では,親子関係における問題に直面しやすいことが指摘されている(Johnston & Mash, 2001)。また,ADHDの診断を受けた子どもだけでなく,子どもの注意欠如・多動症的行動特性(ADHD特性)の高さについても,親子関係の問題のリスク要因であることが示されている(齊藤他, 2016)。一方,子どもだけでなく,親のADHD特性の高さについても,親子関係の問題の多さに関連を示すことが明らかとなっている(齊藤・坂田, 2017)。しかしながら,親子双方のADHD特性ならびにその組み合わせが親子関係にどのような関連を示すのかについては,これまでに十分な検討が行われていない。本研究は,親子双方のADHD特性の高さならびにその組み合わせが,親子関係(養育のあたたかさ,親子間の葛藤)にどのような関連を示すのか,2時点の縦断データを用いて検討することとした。
方 法
調査対象者と手続き:子どもの養育環境に関する縦断研究の登録家庭において,対象児が小学6年時 (Time 1) と中学1年時 (Time 2) の2時点のデータが欠損なく揃った母親201名と父親158名の回答を分析対象とした。2015年2月と2015年12月に,郵送により質問紙の配付・回収を行った。
測定尺度:(1)親の注意欠如・多動傾向 (Time 1): Adult ADHD Self-Report Scale (ASRS) (Kessler, 2005) 18項目,(2)子どもの注意欠如・多動傾向 (Time 1): ADHD Rating Scale(DuPaul et al., 1998; 市川・田中 監修, 2008)18項目,(3)養育のあたたかさ (Time 2): Parental Bonding Instrument(Parker, 1979)を基に開発された母親・父親版養育態度尺度(菅原他, 2000)のうちあたたかさ5項目,(4)親子間の葛藤: Network Relationship Inventory(Furman & Buhrmester, 1992; 吉武他, 2014)の母親・父親版のうち葛藤3項目
結果と考察
親子の各ADHD特性をStep 1,親子のADHD特性の交互作用をStep 2で投入し,親子関係の各変数を従属変数とする階層的重回帰分析を行った。母親の養育のあたたかさに対しては,子どものADHD特性のみが有意な負の関連を示した(β = -.25, p < .01)。一方,母子間の葛藤に対しては,母子のADHD特性の有意な交互作用が見られ(β = -.18, p < .05),母親のADHD特性が高い場合(β = .18, p < .05)に比べて低い場合(β = .44, p < .01)の方が,子どものADHD特性の高さから母子間の葛藤の多さへの正の関連がより強いことが明らかとなった(Figure 1)。父親の養育のあたたかさに対しては,父子の各ADHD特性が有意な負の関連を示したが(β = -.22, p < .01; β = -.27, p < .01),交互作用は見られなかった。一方,父子間の葛藤に対しては,いずれの変数も関連を示さなかった。
本研究により,あたたかな養育の不足や親子間の葛藤といった親子関係の問題を検討する際に,親子双方のADHD特性に着目することの重要性が示唆された。母子間の葛藤は,親のADHD特性が低い一方で子どものADHD特性が高い家庭において,特に注意が必要であるといえるだろう。
主要引用文献
Johnston & Mash (2001). Clin Child Fam Psychol Rev, 4, 183-207.
齊藤他(2016). パーソナリティ研究, 25, 74-85.
齊藤・坂田(2017). 人間文化創成科学論叢,19, 165-173.