[PE16] スマートフォン依存傾向と思考抑制の関係
Keywords:スマートフォン、思考抑制、マインドワンダリング
目 的
児童・生徒の講義中の集中力や注意についての研究の重要性はかねてから主張されてきた。近年では,現在取り組んでいる課題とは無関係な思考や,感覚などの内的情報に注意がうつる現象であるマインドワンダリング(Smallwood & Schooler, 2006)や思考抑制に注目した研究が複数行われている(e.g., 服部・池田, 2016)。大学生における講義中のスマートフォンの利用については,ポジティブとネガティブの両面からさまざまな議論があるが,スマートフォン依存の場合には当然ながら講義に集中できず,適切な利用が困難であると考えられる。そこで本研究では,スマートフォン依存傾向と思考抑制との関係について検討する。
研究1
参加者 大学生36名(男性:17名 女性:19名),平均年齢は20.28歳(SD=1.72)であった。
調査用紙 授業中のスマートフォンの使用状況等については回答させたのち,戸田・西尾・竹下(2015)によるスマートフォン依存尺度(Wakayama Smartphone Dependence Scale; WSDS),梶村・野村(2016)による自発的思考傾向尺度日本語版(Daydream Frequency Scale; DDFS),同じく梶村・野村(2016)によるマインドワンダリング傾向尺度(Mind-Wandering Questionnaire; MWQ)への回答を求めた。
結果と考察
学生の講義中のスマートフォン使用時間は平均26.1分(SD=13.15)であった。講義中のスマートフォン使用きっかけに関する自由記述内容を分類した結果,①ひまだったため,②LINEやメッセージの通知がきたため,③講義に興味がなかったため,④わからないことを調べるため,⑤集中力が切れたための5カテゴリが得られた。実際の操作内容については,①LINE,メール,メッセージなど連絡系アプリ,②Twitter,Instagramなど投稿系アプリ,③Google,Yahoo,辞書など検索系アプリ,④ゲーム系アプリの4カテゴリが得られた。回答したスマートフォンの使用目的における講義への関連度は5段階評定で2.24(SD=1.16)であり,関連度はやや低いことがわかった。各尺度間の相関分析を行った結果,WSDS合計値とDDFS合計値に有意な正の相関関係(r=.46,p<.001)がみられ,スマートフォン依存傾向が高くなるほど,自発的思考が高くなる可能性が示唆された。
研究2
参加者 大学生16名(男性:14名 女性:2名)であった。
調査用紙 研究1で使用したWSDS,DDFSに加えて,調査対象である大学生に焦点を絞った大学生版スマートフォン依存傾向尺度(Smartphone dependency scale; SDS)(松島ら,2017)を使用した。この尺度にはWSDSにはないスマートフォンを使用できない場合の不安や禁断状態に関連する項目が加えられている。また,意図に反する望まない思考(侵入思考)の抑制・制御における知覚の程度を測定することができる小林ら(2016)によるThought Control Ability Questionnaire(TCAQ)の日本語版を使用した。
手続き 調査実施後に個別実験を行った。約10分の動画を2本視聴し,視聴後にこの動画に興味があるかどうかを回答するよう説明された。動画視聴中,動画に興味がないと感じれば無理に視聴する必要はないこと,普段の授業のように視聴してほしいこと,動画の内容に関係なく自由にスマートフォンを使用して構わないこと,実験中はスマートフォンを机の上に置くよう指示をした。動画視聴中,実験者はマジックミラーによって仕切られた別室に移動し,参加者がスマートフォンを触るまでの時間を計測した。そして,参加者がスマートフォンに触り,約30秒操作したことを確認してから,その時のスマートフォンの使用状況について用意された記録用紙の内容に回答を求めた。
結果と考察
動画視聴中に,スマートフォンを使用した学生は5名であった。最も多かった使用理由は,「LINEやメッセージの通知がきたため」であった。使用の有無を独立変数として,各尺度得点を比較した結果,使用群は未使用群に比較してSDSにおける「携帯利用できないことへの不安」が高かった(p<.10)。また尺度間の相関分析を行った結果,TCAQとSDS各因子間に有意な負の相関が確認された。このことは,スマートフォン依存傾向が高いほど,侵入思考の抑制・制御が難しいことを示唆している。今後はスマートフォン依存傾向の高い学生への適切な指導方法を検討する必要がある。
付 記
本研究は,2018年度に大阪産業大学人間環境学部に提出された河野志織氏の卒業論文のデータをもとに,本人に了承のうえ,著者が加筆修正を行ったものである。
児童・生徒の講義中の集中力や注意についての研究の重要性はかねてから主張されてきた。近年では,現在取り組んでいる課題とは無関係な思考や,感覚などの内的情報に注意がうつる現象であるマインドワンダリング(Smallwood & Schooler, 2006)や思考抑制に注目した研究が複数行われている(e.g., 服部・池田, 2016)。大学生における講義中のスマートフォンの利用については,ポジティブとネガティブの両面からさまざまな議論があるが,スマートフォン依存の場合には当然ながら講義に集中できず,適切な利用が困難であると考えられる。そこで本研究では,スマートフォン依存傾向と思考抑制との関係について検討する。
研究1
参加者 大学生36名(男性:17名 女性:19名),平均年齢は20.28歳(SD=1.72)であった。
調査用紙 授業中のスマートフォンの使用状況等については回答させたのち,戸田・西尾・竹下(2015)によるスマートフォン依存尺度(Wakayama Smartphone Dependence Scale; WSDS),梶村・野村(2016)による自発的思考傾向尺度日本語版(Daydream Frequency Scale; DDFS),同じく梶村・野村(2016)によるマインドワンダリング傾向尺度(Mind-Wandering Questionnaire; MWQ)への回答を求めた。
結果と考察
学生の講義中のスマートフォン使用時間は平均26.1分(SD=13.15)であった。講義中のスマートフォン使用きっかけに関する自由記述内容を分類した結果,①ひまだったため,②LINEやメッセージの通知がきたため,③講義に興味がなかったため,④わからないことを調べるため,⑤集中力が切れたための5カテゴリが得られた。実際の操作内容については,①LINE,メール,メッセージなど連絡系アプリ,②Twitter,Instagramなど投稿系アプリ,③Google,Yahoo,辞書など検索系アプリ,④ゲーム系アプリの4カテゴリが得られた。回答したスマートフォンの使用目的における講義への関連度は5段階評定で2.24(SD=1.16)であり,関連度はやや低いことがわかった。各尺度間の相関分析を行った結果,WSDS合計値とDDFS合計値に有意な正の相関関係(r=.46,p<.001)がみられ,スマートフォン依存傾向が高くなるほど,自発的思考が高くなる可能性が示唆された。
研究2
参加者 大学生16名(男性:14名 女性:2名)であった。
調査用紙 研究1で使用したWSDS,DDFSに加えて,調査対象である大学生に焦点を絞った大学生版スマートフォン依存傾向尺度(Smartphone dependency scale; SDS)(松島ら,2017)を使用した。この尺度にはWSDSにはないスマートフォンを使用できない場合の不安や禁断状態に関連する項目が加えられている。また,意図に反する望まない思考(侵入思考)の抑制・制御における知覚の程度を測定することができる小林ら(2016)によるThought Control Ability Questionnaire(TCAQ)の日本語版を使用した。
手続き 調査実施後に個別実験を行った。約10分の動画を2本視聴し,視聴後にこの動画に興味があるかどうかを回答するよう説明された。動画視聴中,動画に興味がないと感じれば無理に視聴する必要はないこと,普段の授業のように視聴してほしいこと,動画の内容に関係なく自由にスマートフォンを使用して構わないこと,実験中はスマートフォンを机の上に置くよう指示をした。動画視聴中,実験者はマジックミラーによって仕切られた別室に移動し,参加者がスマートフォンを触るまでの時間を計測した。そして,参加者がスマートフォンに触り,約30秒操作したことを確認してから,その時のスマートフォンの使用状況について用意された記録用紙の内容に回答を求めた。
結果と考察
動画視聴中に,スマートフォンを使用した学生は5名であった。最も多かった使用理由は,「LINEやメッセージの通知がきたため」であった。使用の有無を独立変数として,各尺度得点を比較した結果,使用群は未使用群に比較してSDSにおける「携帯利用できないことへの不安」が高かった(p<.10)。また尺度間の相関分析を行った結果,TCAQとSDS各因子間に有意な負の相関が確認された。このことは,スマートフォン依存傾向が高いほど,侵入思考の抑制・制御が難しいことを示唆している。今後はスマートフォン依存傾向の高い学生への適切な指導方法を検討する必要がある。
付 記
本研究は,2018年度に大阪産業大学人間環境学部に提出された河野志織氏の卒業論文のデータをもとに,本人に了承のうえ,著者が加筆修正を行ったものである。