日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-67)

Sun. Sep 15, 2019 1:30 PM - 3:30 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:30~14:30
偶数番号14:30~15:30

[PE45] 不登校経験者への高等学校における支援について

高校入学時の気持ちに着目して

松下ひとみ1, 伊藤美奈子2 (1.奈良女子大学, 2.奈良女子大学)

Keywords:不登校経験、通信制高校、登校支援

問題と目的
 高等学校における不登校生徒数は,中学校と比較すると人数・割合ともに少ない(文部科学省,2018)。不登校経験者の高校進学率が低い可能性を考慮しても,高校入学後は学校生活に適応できる生徒がいることを示唆している。高校入学で過去のしがらみが消えるという心機一転効果が学校に通える理由のひとつとなる(伊藤,2008)と考えられる。一方で,高等学校では不登校生徒の27.3%が中途退学(文部科学省,2018)しており,高校生活に適応できず不登校状態を経て中途退学に至る生徒も存在する。文部科学省(2018)によると,2017年度の中途退学者は46,802人であり,退学理由は「学校生活・学業不適応」が34.9%,「進路変更」が34.7%であった。
 これらの生徒に対して適切な支援を行うことは,中途退学者を減らし,彼らの高校生活を将来の社会的自立のための有意義な経験とする可能性がある。そこで本研究では,高校生活に適応できる生徒と適応できない生徒の違いを明らかにし,特に不登校経験などの困難を抱える生徒にとって,高等学校においてどのような支援が有効か,その可能性を探ることを目的とした。
方  法
調査時期:201X年度4-5月(1学期の始業時),7月(1学期の終業時)の2回
調査対象:広域通信制A高等学校の全日制コース(週5日通学)に在籍する1年生250名(男子153名,女子96名,不明1名)。このうち不登校経験のあるものは167名で,対象者の66.8%であった。
調査内容:以下の項目からなる質問紙調査
(1回目)不登校経験の有無,入学理由(提示した11の選択肢から1つを選択), 高校生活に対する楽しみ度と不安度(「大変楽しみ」から「まったく楽しみでない」,「大変不安」から「まったく不安でない」の各4段階。それぞれ4点から1点として得点化)
(2回目)高校生活の満足度(「大変満足」から「まったく満足でない」の4段階。「大変満足」「やや満足」を「満足群」,「あまり満足でない」「まったく満足でない」を「不満足群」とした)
 ほかに高等学校における支援への期待や評価も尋ねたが,本研究では分析対象としない。
結果と考察
 高校生活の満足度は,満足群が全体の83.9%となった。不登校経験の有無による差はみられなかった(χ2=3.07,df=3,p=.382)。
 高校生活への楽しみ度と不安度を従属変数とし,満足度と不登校経験の有無を独立変数とした2要因分散分析を行なった(Table1)。その結果,楽しみ度では満足度による主効果が有意であり(F(1,225)=12.24, p<.01),満足群が不満足群より0.48ポイント高かった。また,不安度では不登校経験有無の主効果に有意傾向がみられ(F(1,226)=3.04, p<.10),不登校経験群の得点が不登校未経験群より0.28ポイント高かった。楽しみ度・不安度のいずれも交互作用はみられなかった(F(1,225)=0.71,p=.790;F(1,226)=0.38,p =.538)。
 また,入学理由の選択肢を,その内容から積極的理由(「もっと勉強したかったから」など)と消極的理由(「親が学校の先生がすすめたから」など)に操作的に分類し,不登校経験有無と満足度によって差があるかどうかχ2検定を行なった。満足度による差に有意な傾向がみられ(χ2=3.82,df=1,p<.1),満足群の方が積極的理由を選択する割合が多かった。不登校経験による差はみられなかった(χ2=0.60,df=1,p=.449)。
 以上のことより,下記の結果を得た。不登校を経験した生徒は,不登校を経験していない生徒と比較すると,高校生活の満足度に差はみられなかったが,入学時の不安度が高かった。しかし,入学前あるいは入学直後に,高校生活を楽しみに感じる気持ちを高める支援を行なうことが,不登校経験の有無に関わらず満足度の向上につながる可能性が示唆された。また,高校入学時点で高校生活を楽しみに感じておらず,積極的な意義を見出せていない生徒は,その後の高校生活に対して不満を抱きやすい可能性が示唆された。