日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-67)

Sun. Sep 15, 2019 1:30 PM - 3:30 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:30~14:30
偶数番号14:30~15:30

[PE57] 養護教諭およびスクールカウンセラーとの連携・協働に対する公立小・中学校教諭の評価

橋本博文1, 前田楓#2 (1.安田女子大学, 2.安田女子大学)

Keywords:「チームとしての学校」、チーム援助、心理教育的援助サービス

問  題
 近年,複雑化・多様化する学校教育現場の諸課題に対応すべく,学校教職員の立場や役割を明確にすると同時に,「チームとしての学校」(文部科学省, 2015)を具現化していく必要があるとされている。校長のリーダーシップの下で,学校教諭間の連携を推進するとともに,専門スタッフとの協働にも力を入れることで,学校が抱える諸課題に対応できる体制づくりを模索しているのが現状といえる。こうした連携・協働が奏功するか否かは,まさに「チームとしての学校」において中核となる教諭にかかっている。その意味において,学校教育現場に身を置く現職の教諭が,教諭間連携やスクールカウンセラー(以下,SC)をはじめとする他業種の専門スタッフとの協働についてどのように評価しているのかを定量的に押さえておくことは,これからの連携・協働のあり方を考えるうえで重要な作業となるはずである。
 従来の学校心理学研究においても,さまざまな教諭間連携ないし専門スタッフとの協働のあり方について議論がなされてきたが(例えば,石隈,1999),いずれも定性的な議論を中心に据えた研究が多く,定量的な意味において現職の教諭が学校教職員間の連携・協働のあり方をどのように評価しているのかを分析しようとした研究は少ない。本研究の目的は,これからの「チーム学校」時代において重要な存在を担うと考えられる養護教諭とSCに焦点をあわせつつ,養護教諭やSCとの連携・協働について,現職の教諭がどのように評価しているのかを定量的に明らかにすることにある。
方  法
調査対象者 公立小・中学校教諭からの多様な意見を可能な限り広く収集するために,クロス・マーケティング社に委託するかたちでインターネット調査を実施した。調査対象者は,公立小・中学校の教諭421名(男性328名,女性93名; 平均年齢49.7歳)であった。
各連携・協働への評価 教諭と養護教諭やSCとの連携・協働のあり方には多様なかたちがあるが,本研究では,1)養護教諭やSCを頼りにすることなく教諭のみが問題を抱える児童生徒への援助に取り組む「連携・協働なし(教諭からの援助のみ)」,2)養護教諭やSCが教諭に対して援助を行い,教諭が問題を抱える児童生徒を援助するという「コンサルテーション型連携・協働」,3)養護教諭やSCがそれぞれの役割を担いつつ,必要に応じて教諭に協力を依頼するという「コーディネーション型連携・協働」,4)教諭と養護教諭ないしSCとがチームを組み,役割分担をしつつそれぞれが援助にあたるという「コラボレーション型連携・協働」の計四形態を取り上げ,各連携・協働のあり方について図と簡潔な一文で調査対象者に提示したうえで,それぞれの形態が問題を抱える児童生徒に対してどの程度有効な支援を提供できると思うかを7件法(-3=「まったくそう思わない」~+3=「非常にそう思う」)で評定させた。小学校・中学校における勤続年数や,教諭が現在勤務している学校種及び学校の規模についても回答を求めた。
結  果
 本研究の調査対象者である公立小・中学校教諭はコーディネーション型連携・協働(養護教諭との連携: M = 0.96, SD = 1.23; SCとの協働: M = 0.76, SD = 1.28)やコラボレーション型連携・協働(養護教諭との連携: M = 1.54, SD = 1.33; SCとの協働: M = 1.56, SD = 1.31)についてはそうした援助の有効性を評価する一方で,コンサルテーション型連携・協働については,問題を抱える児童生徒に対して有効な支援をもたらすものと評価していなかった(養護教諭との連携: M = -0.11, SD = 1.29; SCとの協働: M = 0.01, SD = 1.33)。
考  察
 本研究の結果は,コンサルテーション型連携・協働にみられるような養護教諭やSCからのいわば「一方向的な」援助のあり方を,教諭は実際には望んでいない可能性を示唆している。「チーム学校」時代として形容される現在,養護教諭やSCをはじめとする教職員間あるいは他業種の専門スタッフとの連携・協働体制の整備・充実は不可欠である。養護教諭やSCに限らず,多くの関係者がチーム援助に加わることで,有益な心理教育的援助サービスのあり方を考える視点が多様になることは間違いない。今後は,現職の教諭にとって,いかなる連携・協働が有益な支援につながると評価されるかという点のみならず,「なぜ」そうした教諭の評価が生まれるのか,あるいはいかなる要因が連携・協働の推進に肯定的に働きうるのか等についても定量的に分析し,実証データにもとづく議論を進めていく必要がある。