[PF04] 保育行為スタイルの視点による保育者の専門性発達
Keywords:保育者、保育行為スタイル、TEA
はじめに
保育行為スタイルとは,これまで教育心理学を中心とした領域でティーチング・スタイルとして知見が蓄積されてきたものを,保育者に適応したものである。
従来の研究では,保育行為スタイルとは,量的な分析を中心としており(小川ら 1978,田中ら 1988など),研究知見が蓄積されてきたものの,80年代をピークにほとんど進展がみられていない。ここには,従来の研究が保育者の行動のみを測定し,その行為を裏付けている意味まで研究者射程としていないこと,また,一旦,測定された保育行為スタイルは固定的なものとして捉えられてきたという課題がある。
上田(2017)では,それらの課題を踏まえて,保育者が日々の保育経験を通して自らの価値観と結びつけていること,また,保育行為スタイルが「変わらない」ものではなく,主体的に「変えない」ものであることを明らかにした。
しかし,一方でこれらの保育行為スタイルがどの様に分岐し,多様化していくのかは明らかにされていない。そこで本研究では,保育者の保育行為スタイルがどのように分岐するのか,保育行為スタイルの分岐プロセスを明らかにする。
方 法
本研究の研究協力者は,愛知県内の公立保育園に勤務する2名の保育士(ミナ先生,マツリ先生,共に仮名)である。2名の保育士は調査開始時,3年目であった。おおむね3ヶ月に1回を基本として,2016〜2018年の3年間,インタビューを行った。ミナ先生は公立保育園に配属後,0歳児を経験し,3歳児を2年,4歳児,5歳児と担任している。マツリ先生は,配属後,1歳児,3歳児,4歳児を2年,5歳児と担当している。2人へのインタビューは,現在の保育の状況,上手くいったと感じた関わり,上手くいかなかったと感じる関わりについてを中心に約1時間行った。インタビュー実施回数は13回である。これらの語りを分析し,2名の保育士の保育行為スタイルがどのように分岐していくのかをM-GTA(修正版グラウンデット・セオリー)及びTEA(Trajectory Equifinality Approach)で明らかにする。なお,本研究は名古屋市立大学大学院倫理審査委員会の承認を得ている。
結果と考察
分析結果から,3−4年目にかけて保育行為スタイルが分岐していく以下のポイントが明らかになった。
第一に,養成校時代で学んだ価値観と実際の幼児集団をまとめていくための葛藤である。養成校時代に,「子どもの目線に」「主体的に」という価値観を持つが,実際の保育を行う上で,保育職員全体のプレッシャーや保護者からのプレッシャーから,幼児集団をまとめなければならないという思いを持っていた。このような葛藤を抱える中で,実際のフリー保育士や先輩保育士の影響から,指導的に関わるか,また逆に応答的にまとめていくための関わりを中心に行うようになるのかの分岐点が存在した。
第二に,他の保育行為スタイルの保育者による影響という分岐点である。ミナ先生は,3年目に指導的なフリー保育士の影響から自身も,同じ様に関わっていくようになる。そのような関わりを繰り返していくことで,日々の行為を意味づけていく「子どもが待つこと」の価値観を形成していくようになった。このようにミナ先生は指導的な保育行為スタイルへと形成していった。
一方のマツリ先生は,同じ様に先輩保育士の影響から自身も,応答的なかかわりを行うようになっていった。
このように,二人の保育者は初めて幼児クラスを担当した際に,フリーの保育士や先輩保育士に大きな影響を受けていることが明らかとなった。
総合考察
以上のように,本研究では二人の保育士の語りから,保育行為スタイルの分岐となるポイントが明らかとなった。
本研究では,公立保育園の保育士のみを対象としているため,今後,異なる文化の保育園や幼稚園の保育者の語りを含めて,制さしてくことが課題である。
付 記
本発表は,平成28-30年度文部科学省科学研究費基盤研究(C)「保育行為スタイルの分岐プロセスに関する縦断的研究」の研究の一環として行われているものの一部である。
保育行為スタイルとは,これまで教育心理学を中心とした領域でティーチング・スタイルとして知見が蓄積されてきたものを,保育者に適応したものである。
従来の研究では,保育行為スタイルとは,量的な分析を中心としており(小川ら 1978,田中ら 1988など),研究知見が蓄積されてきたものの,80年代をピークにほとんど進展がみられていない。ここには,従来の研究が保育者の行動のみを測定し,その行為を裏付けている意味まで研究者射程としていないこと,また,一旦,測定された保育行為スタイルは固定的なものとして捉えられてきたという課題がある。
上田(2017)では,それらの課題を踏まえて,保育者が日々の保育経験を通して自らの価値観と結びつけていること,また,保育行為スタイルが「変わらない」ものではなく,主体的に「変えない」ものであることを明らかにした。
しかし,一方でこれらの保育行為スタイルがどの様に分岐し,多様化していくのかは明らかにされていない。そこで本研究では,保育者の保育行為スタイルがどのように分岐するのか,保育行為スタイルの分岐プロセスを明らかにする。
方 法
本研究の研究協力者は,愛知県内の公立保育園に勤務する2名の保育士(ミナ先生,マツリ先生,共に仮名)である。2名の保育士は調査開始時,3年目であった。おおむね3ヶ月に1回を基本として,2016〜2018年の3年間,インタビューを行った。ミナ先生は公立保育園に配属後,0歳児を経験し,3歳児を2年,4歳児,5歳児と担任している。マツリ先生は,配属後,1歳児,3歳児,4歳児を2年,5歳児と担当している。2人へのインタビューは,現在の保育の状況,上手くいったと感じた関わり,上手くいかなかったと感じる関わりについてを中心に約1時間行った。インタビュー実施回数は13回である。これらの語りを分析し,2名の保育士の保育行為スタイルがどのように分岐していくのかをM-GTA(修正版グラウンデット・セオリー)及びTEA(Trajectory Equifinality Approach)で明らかにする。なお,本研究は名古屋市立大学大学院倫理審査委員会の承認を得ている。
結果と考察
分析結果から,3−4年目にかけて保育行為スタイルが分岐していく以下のポイントが明らかになった。
第一に,養成校時代で学んだ価値観と実際の幼児集団をまとめていくための葛藤である。養成校時代に,「子どもの目線に」「主体的に」という価値観を持つが,実際の保育を行う上で,保育職員全体のプレッシャーや保護者からのプレッシャーから,幼児集団をまとめなければならないという思いを持っていた。このような葛藤を抱える中で,実際のフリー保育士や先輩保育士の影響から,指導的に関わるか,また逆に応答的にまとめていくための関わりを中心に行うようになるのかの分岐点が存在した。
第二に,他の保育行為スタイルの保育者による影響という分岐点である。ミナ先生は,3年目に指導的なフリー保育士の影響から自身も,同じ様に関わっていくようになる。そのような関わりを繰り返していくことで,日々の行為を意味づけていく「子どもが待つこと」の価値観を形成していくようになった。このようにミナ先生は指導的な保育行為スタイルへと形成していった。
一方のマツリ先生は,同じ様に先輩保育士の影響から自身も,応答的なかかわりを行うようになっていった。
このように,二人の保育者は初めて幼児クラスを担当した際に,フリーの保育士や先輩保育士に大きな影響を受けていることが明らかとなった。
総合考察
以上のように,本研究では二人の保育士の語りから,保育行為スタイルの分岐となるポイントが明らかとなった。
本研究では,公立保育園の保育士のみを対象としているため,今後,異なる文化の保育園や幼稚園の保育者の語りを含めて,制さしてくことが課題である。
付 記
本発表は,平成28-30年度文部科学省科学研究費基盤研究(C)「保育行為スタイルの分岐プロセスに関する縦断的研究」の研究の一環として行われているものの一部である。