[PF18] インタビューと現場への還元を通じた歴史の再構築過程
個別指導塾における講師研修会の在り方の検討
Keywords:個別指導塾、アクティヴ・インタビュー、社会構成主義
問題と目的
藤森(2019)は自身が勤務する個別指導塾の講師研修の再構築を通じて講師同士が互いに相談し合える関係性を実践した。この実践はニューマン(2019)が述べる,「痛みを社会化する」支援を行うことができる環境を参加者達が共創する実践であったといえる。しかし,先の研究は講師や生徒などの塾運営に関係する人々の協働や講師研修会を初めとする塾内システムの変遷といった,歴史的な背景を内包しきれていないという点に限界があった。香川(2018)は,個人やコミュニティなどのいかなるものの背後には何らかの歴史性が不可避に存在し,異種混交しながら歴史を共創しあうことを指摘している。このことから,当該塾固有の歴史性を対象とすることで,現在までに構築されてきた塾システムの中で,今後の塾内にて望まれる実践の在り方が見出される可能性がある。
そこで,本研究では当該塾教室長と筆者(講師)とのアクティヴ・インタビュー(ジェイムズ・ジェイバー,2004)を通じて塾の歴史の生成過程を記述することを目的とした。
方 法
2019年4月9日,神奈川県内の個別指導塾にて筆者が教室長に対して半構造化面接を実施した。得られたデータから逐語録を作成し,大谷(2008,2011)が開発したSCAT(Steps for Coding and Theorization)を用いて分析を行った。なお,分析結果であるストーリーラインについては筆者を含む講師2名と教室長との協議で作成し,そのことで現場への還元をはかった。
結 果
インタビューでは2013年11月の開校当初から2019年4月まで約5年間を振り返った語りが得られた。本研究では2017年4月から2019年4月まで約2年間分の語りを分析対象とした(Table 1,2)。
考 察
2年間分のストーリーラインから,教室長が語った塾の歴史は,講師の熟達やシステムの転換などの様々な歴史性が混交する中で構成されていることが示された。すなわち,今回のインタビューは,教室長と筆者が対話を通じて経験を語り直す中で塾内の歴史の再構築を行い,そのことで結果として自身のアイデンティティの再翻訳や歴史化を試みる実践であったことが推察される。これは香川(2018)の述べた組織の変遷が関連する人々の営みの歴史と共にある弁証法的関係にあることを含意している。塾を含む組織はそれに関わる営みの中で構築される社会的産物であり,語られた歴史を還元することによる歴史化という実践もまた塾の文化や歴史を再構築し,新たな歴史として生成する塾システムたり得る可能性が示唆された。
また,2018年から2019年の1年間では,教室長や講師,そして他の教室が必要性に基づいて互いに関わり合う中で新たな塾システムを共創してきたことが示された。これは,個別具体的な手続きを変えるのではなく,その存在としての在り方全体を再構築するといった,ニューマン(2019)が説明する様な事態であることが推察される。このことを踏まえると,塾全体の方針転換として他者との繋がりを重視する流れの中で,今後は教室長を含む講師間で様々な問題や感情の共有を行う実践が望まれるといえよう。
藤森(2019)は自身が勤務する個別指導塾の講師研修の再構築を通じて講師同士が互いに相談し合える関係性を実践した。この実践はニューマン(2019)が述べる,「痛みを社会化する」支援を行うことができる環境を参加者達が共創する実践であったといえる。しかし,先の研究は講師や生徒などの塾運営に関係する人々の協働や講師研修会を初めとする塾内システムの変遷といった,歴史的な背景を内包しきれていないという点に限界があった。香川(2018)は,個人やコミュニティなどのいかなるものの背後には何らかの歴史性が不可避に存在し,異種混交しながら歴史を共創しあうことを指摘している。このことから,当該塾固有の歴史性を対象とすることで,現在までに構築されてきた塾システムの中で,今後の塾内にて望まれる実践の在り方が見出される可能性がある。
そこで,本研究では当該塾教室長と筆者(講師)とのアクティヴ・インタビュー(ジェイムズ・ジェイバー,2004)を通じて塾の歴史の生成過程を記述することを目的とした。
方 法
2019年4月9日,神奈川県内の個別指導塾にて筆者が教室長に対して半構造化面接を実施した。得られたデータから逐語録を作成し,大谷(2008,2011)が開発したSCAT(Steps for Coding and Theorization)を用いて分析を行った。なお,分析結果であるストーリーラインについては筆者を含む講師2名と教室長との協議で作成し,そのことで現場への還元をはかった。
結 果
インタビューでは2013年11月の開校当初から2019年4月まで約5年間を振り返った語りが得られた。本研究では2017年4月から2019年4月まで約2年間分の語りを分析対象とした(Table 1,2)。
考 察
2年間分のストーリーラインから,教室長が語った塾の歴史は,講師の熟達やシステムの転換などの様々な歴史性が混交する中で構成されていることが示された。すなわち,今回のインタビューは,教室長と筆者が対話を通じて経験を語り直す中で塾内の歴史の再構築を行い,そのことで結果として自身のアイデンティティの再翻訳や歴史化を試みる実践であったことが推察される。これは香川(2018)の述べた組織の変遷が関連する人々の営みの歴史と共にある弁証法的関係にあることを含意している。塾を含む組織はそれに関わる営みの中で構築される社会的産物であり,語られた歴史を還元することによる歴史化という実践もまた塾の文化や歴史を再構築し,新たな歴史として生成する塾システムたり得る可能性が示唆された。
また,2018年から2019年の1年間では,教室長や講師,そして他の教室が必要性に基づいて互いに関わり合う中で新たな塾システムを共創してきたことが示された。これは,個別具体的な手続きを変えるのではなく,その存在としての在り方全体を再構築するといった,ニューマン(2019)が説明する様な事態であることが推察される。このことを踏まえると,塾全体の方針転換として他者との繋がりを重視する流れの中で,今後は教室長を含む講師間で様々な問題や感情の共有を行う実践が望まれるといえよう。