[PF38] 児童期における社会経済的地位とアタッチメントおよび援助要請との関連
Keywords:社会経済的地位、アタッチメント、援助要請
問題と目的
日本の子どもの相対的貧困率は13.9%にのぼっており、およそ7人に1人の子どもが相対的貧困の下で生活をしている (厚生労働省, 2016)。こうした貧困を含む社会経済的地位 (SES) は,子どもの発達や教育との様々な関連が指摘されている (e.g., 藤田, 2012)。例えば,SESと学力や精神的健康は正の相関関係にあることが見出されているほか (Reiss, 2013; Sirin, 2005),いじめとの関連も示されており (Tippett & Wolke, 2014),学校現場においても支援をしていく必要がある。
しかし現代の貧困は,貧困世帯とは結びつかない外見等によって見えにくいことが指摘されている (e.g. 青木, 2010)。また,SESは援助要請と正の関連が示されており (Cararco, 2011),支援の必要性を認識することが困難な現状が窺える。援助要請にはいくつかのスキルが必要とされるため (本田・新井・石隈, 2015),SESがどのスキルと関連して,援助要請が少なくなるのかを明らかにする必要がある。
本研究では,SESと援助要請の各スキルとの関連を明らかにする。その際,アタッチメントは援助要請とSESの双方との関連が指摘されており (e.g., Bakermans-Kranenburg et al., 2004; 永井, 2017),関連の様相によっては支援方法も異なると考えられるため,アタッチメントとの関連を含めて検討する。
方 法
対象者と手続き
小学5,6年生162名 (男子81名,女子81名) を対象に質問紙調査を行った。
質問紙
社会経済的地位 2012年のPISAで使用された,家庭の学習リソース,文化的所有物の項目 (国立教育政策研究所, 2013) から,社会経済的地位を高い精度で代替可能と考えられる3項目を用いた (2件法)。
アタッチメント 児童版ECR-RS (中尾・村上・数井, 2018) を用いた (不安,回避の2下位尺度,合計9項目4件法)。
援助要請 本田・新井・石隈 (2010) の援助要請スキル尺度のうち,本田他 (2015) で用いられた4項目を用いた (4件法)。
結果と考察
SESとアタッチメントおよび援助要請の各スキルとの関連を検討するため,パス解析を行った (Figure 1)。なお,各尺度内の誤差項間には相関を仮定した。その結果,SESは,アタッチメント不安 (β = .17, p < .05) および援助相手を想起すること (β = .15, p < .05) と弱い関連が見られた。しかし,アタッチメント不安といずれの援助要請スキルの関連も有意ではなかった。また,SESとアタッチメント回避との関連も有意ではなかった。SESは,子どもと過ごす時間的な資源と関わることが指摘されており,SESが低い場合には十分に養育者と過ごす時間が持てず,不安を抱えたり,援助相手を想起することが困難となった可能性が考えられる。一方,SESとアタッチメントとの関連は養育者の応答性によって調整されることも示されているため (Booth et al., 2018),今後はそうした養育者の要因も含めて検討していく必要がある。
付 記
本研究は,奈良教育大学心理学専修の黒松拓馬氏,広瀬由衣氏,藤井理沙氏,布野詩織氏,又野裕成氏,宮本真衣氏の協力を得て行われた。
日本の子どもの相対的貧困率は13.9%にのぼっており、およそ7人に1人の子どもが相対的貧困の下で生活をしている (厚生労働省, 2016)。こうした貧困を含む社会経済的地位 (SES) は,子どもの発達や教育との様々な関連が指摘されている (e.g., 藤田, 2012)。例えば,SESと学力や精神的健康は正の相関関係にあることが見出されているほか (Reiss, 2013; Sirin, 2005),いじめとの関連も示されており (Tippett & Wolke, 2014),学校現場においても支援をしていく必要がある。
しかし現代の貧困は,貧困世帯とは結びつかない外見等によって見えにくいことが指摘されている (e.g. 青木, 2010)。また,SESは援助要請と正の関連が示されており (Cararco, 2011),支援の必要性を認識することが困難な現状が窺える。援助要請にはいくつかのスキルが必要とされるため (本田・新井・石隈, 2015),SESがどのスキルと関連して,援助要請が少なくなるのかを明らかにする必要がある。
本研究では,SESと援助要請の各スキルとの関連を明らかにする。その際,アタッチメントは援助要請とSESの双方との関連が指摘されており (e.g., Bakermans-Kranenburg et al., 2004; 永井, 2017),関連の様相によっては支援方法も異なると考えられるため,アタッチメントとの関連を含めて検討する。
方 法
対象者と手続き
小学5,6年生162名 (男子81名,女子81名) を対象に質問紙調査を行った。
質問紙
社会経済的地位 2012年のPISAで使用された,家庭の学習リソース,文化的所有物の項目 (国立教育政策研究所, 2013) から,社会経済的地位を高い精度で代替可能と考えられる3項目を用いた (2件法)。
アタッチメント 児童版ECR-RS (中尾・村上・数井, 2018) を用いた (不安,回避の2下位尺度,合計9項目4件法)。
援助要請 本田・新井・石隈 (2010) の援助要請スキル尺度のうち,本田他 (2015) で用いられた4項目を用いた (4件法)。
結果と考察
SESとアタッチメントおよび援助要請の各スキルとの関連を検討するため,パス解析を行った (Figure 1)。なお,各尺度内の誤差項間には相関を仮定した。その結果,SESは,アタッチメント不安 (β = .17, p < .05) および援助相手を想起すること (β = .15, p < .05) と弱い関連が見られた。しかし,アタッチメント不安といずれの援助要請スキルの関連も有意ではなかった。また,SESとアタッチメント回避との関連も有意ではなかった。SESは,子どもと過ごす時間的な資源と関わることが指摘されており,SESが低い場合には十分に養育者と過ごす時間が持てず,不安を抱えたり,援助相手を想起することが困難となった可能性が考えられる。一方,SESとアタッチメントとの関連は養育者の応答性によって調整されることも示されているため (Booth et al., 2018),今後はそうした養育者の要因も含めて検討していく必要がある。
付 記
本研究は,奈良教育大学心理学専修の黒松拓馬氏,広瀬由衣氏,藤井理沙氏,布野詩織氏,又野裕成氏,宮本真衣氏の協力を得て行われた。