[PF56] 児童版マインドセット尺度における妥当性の検討
キーワード:児童、マインドセット、動機付け
研究の背景と目的
マインドセットとは「能力はもともと決まっているもので変わることはない」と考えるfixed mindset(固定的思考態度)と,「能力は努力で成長させることができる」と考えるgrowth mindset(成長的思考態度)から構成され,経験や教育から形成される信念のことである(Dweck,2006)。マインドセットは達成目標理論に基づいており,成長的思考態度を有する者は学習目標を,固定的思考態度を有する者は遂行目標を頻繁に掲げることが明らかとなっている(Dweck & Leggett,1988)。遂行目標において生じる失敗は「能力」に帰属されるため,失敗を回避する行動をとりやすい。しかしながら,学習目標を掲げる者の失敗は,「努力が足りなかった」と帰属されるため,内発的動機付けなどの適応的な学習動機との関連が示されることが報告されている(田中・山内,2000)。そこで本研究では,児童版マインドセット尺度の妥当性を検討するために,内発的動機付け及び達成動機との関連性を明らかにすることを目的とした。
方 法
1.調査対象者と手続き
東海圏の公立小学校に通学する4年生から6年生を対象に一斉調査を実施した。未回答と記入漏れを除いた142名分を有効回答として分析の対象とした。なお本研究は名古屋学芸大学研究倫理委員会の審査・承認を受けて行われた(倫理番号:225)。
2.調査材料
a)児童版マインドセット尺度(鈴木ら,2018):児童のマインドセットを「固定的思考態度」と「成長的思考態度」の2つの側面から測定する尺度である(15項目4件法)。
b)内発的外発的動機付け尺度(桜井,1985):児童の動機付けを測定する尺度で「挑戦」「知的好奇心」「達成」「認知された因果律の所在」「内生的-外生的帰属(本研究では内生的帰属)」「楽しさ」の6因子で構成される(30項目2件法)。
c)成功願望と失敗恐怖の尺度(田中・山内, 2000):成功への願望と失敗への恐怖を測定する尺度で「成功願望」と「失敗恐怖」の2因子で構成されている(11項目6件法)。
結 果
各尺度における因子間の相関係数を算出した結果,「成長的思考態度」は「知的好奇心」「内生的帰属」「楽しさ」「成功願望」と有意な正の相関を示し(r=.254〜.726),「失敗恐怖」と有意な負の相関を示した(r=-.210,p=<.05)。「固定的思考態度」は「失敗恐怖」と有意な正の相関を示し(r=.547,p=<.01),「内生的帰属(r=-.433,p=<.01)」「成功願望(r=-.347,p=<.01)」と有意な負の相関を示した。
考 察
本研究の結果を概観すると,「成長的思考態度」は「知的好奇心」「内生的帰属」「楽しさ」「成功願望」との間で正の相関が示され,「失敗恐怖」との間で負の相関が確認された。これらは,学習目標を掲げる成長的思考態度の「失敗を恐れず内発的に挑戦できる」という特性を支持している。また,「固定的思考態度」が「失敗恐怖」と正の相関を示し,「内生的帰属」「成功願望」と負の相関を示したことから,遂行目標を掲げる固定的思考態度の「他者評価を気にして失敗や挑戦を避ける」という特性を支持する結果となった。以上の結果から,先行研究で作成した児童版マインドセット尺度の妥当性は十分であるといえる。しかし,「挑戦」と「成功願望」は「困難なものごとにチャレンジできるかどうか」を測定する構成概念であるが,「挑戦」は成長的思考態度との関連が認められなかった。また,活動に対する主体性を示す「認知された因果律の所在」や,最後までやり遂げようとする動機を示す「達成」との関連も見られなかった。今後は、発達や文化の要因をふまえながらこれらの結果を詳細に検討する必要がある。
マインドセットとは「能力はもともと決まっているもので変わることはない」と考えるfixed mindset(固定的思考態度)と,「能力は努力で成長させることができる」と考えるgrowth mindset(成長的思考態度)から構成され,経験や教育から形成される信念のことである(Dweck,2006)。マインドセットは達成目標理論に基づいており,成長的思考態度を有する者は学習目標を,固定的思考態度を有する者は遂行目標を頻繁に掲げることが明らかとなっている(Dweck & Leggett,1988)。遂行目標において生じる失敗は「能力」に帰属されるため,失敗を回避する行動をとりやすい。しかしながら,学習目標を掲げる者の失敗は,「努力が足りなかった」と帰属されるため,内発的動機付けなどの適応的な学習動機との関連が示されることが報告されている(田中・山内,2000)。そこで本研究では,児童版マインドセット尺度の妥当性を検討するために,内発的動機付け及び達成動機との関連性を明らかにすることを目的とした。
方 法
1.調査対象者と手続き
東海圏の公立小学校に通学する4年生から6年生を対象に一斉調査を実施した。未回答と記入漏れを除いた142名分を有効回答として分析の対象とした。なお本研究は名古屋学芸大学研究倫理委員会の審査・承認を受けて行われた(倫理番号:225)。
2.調査材料
a)児童版マインドセット尺度(鈴木ら,2018):児童のマインドセットを「固定的思考態度」と「成長的思考態度」の2つの側面から測定する尺度である(15項目4件法)。
b)内発的外発的動機付け尺度(桜井,1985):児童の動機付けを測定する尺度で「挑戦」「知的好奇心」「達成」「認知された因果律の所在」「内生的-外生的帰属(本研究では内生的帰属)」「楽しさ」の6因子で構成される(30項目2件法)。
c)成功願望と失敗恐怖の尺度(田中・山内, 2000):成功への願望と失敗への恐怖を測定する尺度で「成功願望」と「失敗恐怖」の2因子で構成されている(11項目6件法)。
結 果
各尺度における因子間の相関係数を算出した結果,「成長的思考態度」は「知的好奇心」「内生的帰属」「楽しさ」「成功願望」と有意な正の相関を示し(r=.254〜.726),「失敗恐怖」と有意な負の相関を示した(r=-.210,p=<.05)。「固定的思考態度」は「失敗恐怖」と有意な正の相関を示し(r=.547,p=<.01),「内生的帰属(r=-.433,p=<.01)」「成功願望(r=-.347,p=<.01)」と有意な負の相関を示した。
考 察
本研究の結果を概観すると,「成長的思考態度」は「知的好奇心」「内生的帰属」「楽しさ」「成功願望」との間で正の相関が示され,「失敗恐怖」との間で負の相関が確認された。これらは,学習目標を掲げる成長的思考態度の「失敗を恐れず内発的に挑戦できる」という特性を支持している。また,「固定的思考態度」が「失敗恐怖」と正の相関を示し,「内生的帰属」「成功願望」と負の相関を示したことから,遂行目標を掲げる固定的思考態度の「他者評価を気にして失敗や挑戦を避ける」という特性を支持する結果となった。以上の結果から,先行研究で作成した児童版マインドセット尺度の妥当性は十分であるといえる。しかし,「挑戦」と「成功願望」は「困難なものごとにチャレンジできるかどうか」を測定する構成概念であるが,「挑戦」は成長的思考態度との関連が認められなかった。また,活動に対する主体性を示す「認知された因果律の所在」や,最後までやり遂げようとする動機を示す「達成」との関連も見られなかった。今後は、発達や文化の要因をふまえながらこれらの結果を詳細に検討する必要がある。