[PF66] 創造性の測定方法に関する理論的妥当性
Keywords:創造性、創造的思考、拡散的思考
目 的
創造性をどう測定するかという問題は,創造性研究における大きな弱点となっている。既存の創造性テストの妥当性について,研究者の間でもしばしば批判がなされてきた(e.g., Baer, 1993, 1994; Glăveanu, 2014)。一方で,他の認知的なテストに比べて,その欠陥が誇張されているという指摘も見られる(Plucker & Runco, 1998; Takeuchi et al., 2012)。本研究では,理論的な枠組みの構築を通して,創造性の測定方法の妥当性について検討することを目的とする。
創造性テストに関する問題点
創造性テストの問題点に関する指摘としては,主に次のような内容にまとめられる。
1)生態学的妥当性の低さ:短時間のペーパーテストで創造性は測ることができない。より現実性のある問題を用いるべきだ。
2)予測的妥当性の低さ:実社会における創造的業績との間で高い相関を示すわけではない。
3)アイデア評価の難しさ:生み出されたアイデアを客観的・機械的に評価することができない。
妥当性に関する理論的検討
どのような能力であれ,その測定はプロセスと密接に関連している。創造性が,神のお告げによるものと捉えるならば,その能力を測定することはほぼ不可能である。しかし,それが何かしらの認知的プロセスの所産であると捉えるならば,測定できる可能性は十分にある。
創造性を単一の能力と捉えるか,それとも複数の構成要素から成り立つ能力と捉えるかによっても,測定の仕方は異なってくる。何かしら単一の能力であるならば,1つのテストによって測定可能である。しかし,構成要素説に基づくならば,1つのテストで全体像を把握することは困難である。「創造性の高い人」という表現のように,創造性はしばしばパーソナリティに帰属されるものとして捉えられ,各人に固有の能力だと認識されてきた。しかし,創造性は最も高度な認知的活動の一種であり,さまざまな資源の投入によって達成されるという見方が,今日では一般的である。
Amabile(1983)は,創造的なパフォーマンスの規定要因として,領域関連スキル(例.対象領域に関する専門的知識・技術や才能)・創造性関連スキル(例.アイデア生成に関連する能力やパーソナリティ特性)・課題への動機づけ(例.内発的動機づけ,遂行理由の有無),という3つの要素を指摘した。Amabile(1983)によれば,各構成要素はそれぞれ異なったレベルでプロセスに作用する。例えば,動機づけは最も特殊なレベルで作用し,課題内容やタイミングによって大きく変化する。一方で,創造性関連スキルは最も一般的なレベルで作用し,活動全般に対して影響を及ぼす。
拡散的思考課題を中心とした創造性テストの多くは,創造性関連スキルに該当する側面を測定していると想定される。創造性を測定する際,なるべく領域普遍的な側面を対象にしようとすることは合理的なアプローチであり,この意味において,創造性テストを用いることの意義は認められると考えられる。ただし,もちろん創造性における基礎体力のような位置づけであり,その高さは実社会において創造的パフォーマンスを発揮するための必要条件であって,十分条件ではない。現実には,領域に関する知識や動機づけなどといった要素が,創造性関連スキルと同程度に重要な影響力を持つ。創造性テストの成績とその後の業績が必ずしも一致しないのは,このためである。
創造性テストをより真正な活動にすべきだという意見も見られるが,それが望ましいとは限らない。なぜなら,真正性が高まるということは,その領域に関する知識や技能の介在する余地が大きくなることを意味するためである。特定の領域における創造性の測定が目的の場合には,真正性の高い課題を用いるべきである。しかし,そうではなく,全般的な能力としての創造性の測定が目的の場合には,むしろ既有知識や専門的技能をなるべく必要としないような課題の方が,創造性関連スキルの側面のみに焦点を当てることができるため,より適しているだろう。
今後の課題
創造性テストを全面的に排除することも,慣習的・無批判的に使用することも避けるべきである。Guilford(1950, 1956)は,アイデア生成の流暢性や柔軟性,問題への感受性,アイデアの評価など,創造性のプロセスごとに,異なる課題を用いることを提案した。そうした考え方に立ち返り,あらためて創造性のプロセスについて理解を深めつつ,各プロセスに関する能力の測定方法を慎重に開発・検討していくことが重要である。
付 記
本発表内容は,責任発表者の博士論文の一部として含まれた。
創造性をどう測定するかという問題は,創造性研究における大きな弱点となっている。既存の創造性テストの妥当性について,研究者の間でもしばしば批判がなされてきた(e.g., Baer, 1993, 1994; Glăveanu, 2014)。一方で,他の認知的なテストに比べて,その欠陥が誇張されているという指摘も見られる(Plucker & Runco, 1998; Takeuchi et al., 2012)。本研究では,理論的な枠組みの構築を通して,創造性の測定方法の妥当性について検討することを目的とする。
創造性テストに関する問題点
創造性テストの問題点に関する指摘としては,主に次のような内容にまとめられる。
1)生態学的妥当性の低さ:短時間のペーパーテストで創造性は測ることができない。より現実性のある問題を用いるべきだ。
2)予測的妥当性の低さ:実社会における創造的業績との間で高い相関を示すわけではない。
3)アイデア評価の難しさ:生み出されたアイデアを客観的・機械的に評価することができない。
妥当性に関する理論的検討
どのような能力であれ,その測定はプロセスと密接に関連している。創造性が,神のお告げによるものと捉えるならば,その能力を測定することはほぼ不可能である。しかし,それが何かしらの認知的プロセスの所産であると捉えるならば,測定できる可能性は十分にある。
創造性を単一の能力と捉えるか,それとも複数の構成要素から成り立つ能力と捉えるかによっても,測定の仕方は異なってくる。何かしら単一の能力であるならば,1つのテストによって測定可能である。しかし,構成要素説に基づくならば,1つのテストで全体像を把握することは困難である。「創造性の高い人」という表現のように,創造性はしばしばパーソナリティに帰属されるものとして捉えられ,各人に固有の能力だと認識されてきた。しかし,創造性は最も高度な認知的活動の一種であり,さまざまな資源の投入によって達成されるという見方が,今日では一般的である。
Amabile(1983)は,創造的なパフォーマンスの規定要因として,領域関連スキル(例.対象領域に関する専門的知識・技術や才能)・創造性関連スキル(例.アイデア生成に関連する能力やパーソナリティ特性)・課題への動機づけ(例.内発的動機づけ,遂行理由の有無),という3つの要素を指摘した。Amabile(1983)によれば,各構成要素はそれぞれ異なったレベルでプロセスに作用する。例えば,動機づけは最も特殊なレベルで作用し,課題内容やタイミングによって大きく変化する。一方で,創造性関連スキルは最も一般的なレベルで作用し,活動全般に対して影響を及ぼす。
拡散的思考課題を中心とした創造性テストの多くは,創造性関連スキルに該当する側面を測定していると想定される。創造性を測定する際,なるべく領域普遍的な側面を対象にしようとすることは合理的なアプローチであり,この意味において,創造性テストを用いることの意義は認められると考えられる。ただし,もちろん創造性における基礎体力のような位置づけであり,その高さは実社会において創造的パフォーマンスを発揮するための必要条件であって,十分条件ではない。現実には,領域に関する知識や動機づけなどといった要素が,創造性関連スキルと同程度に重要な影響力を持つ。創造性テストの成績とその後の業績が必ずしも一致しないのは,このためである。
創造性テストをより真正な活動にすべきだという意見も見られるが,それが望ましいとは限らない。なぜなら,真正性が高まるということは,その領域に関する知識や技能の介在する余地が大きくなることを意味するためである。特定の領域における創造性の測定が目的の場合には,真正性の高い課題を用いるべきである。しかし,そうではなく,全般的な能力としての創造性の測定が目的の場合には,むしろ既有知識や専門的技能をなるべく必要としないような課題の方が,創造性関連スキルの側面のみに焦点を当てることができるため,より適しているだろう。
今後の課題
創造性テストを全面的に排除することも,慣習的・無批判的に使用することも避けるべきである。Guilford(1950, 1956)は,アイデア生成の流暢性や柔軟性,問題への感受性,アイデアの評価など,創造性のプロセスごとに,異なる課題を用いることを提案した。そうした考え方に立ち返り,あらためて創造性のプロセスについて理解を深めつつ,各プロセスに関する能力の測定方法を慎重に開発・検討していくことが重要である。
付 記
本発表内容は,責任発表者の博士論文の一部として含まれた。