[PG07] 中学生を対象としたネガティブ感情への対処スキルの獲得を目的とした研究(2)
SSTの手法を参考にした介入の実施と効果
Keywords:中学生、ネガティブ感情対処スキル、介入効果
問題と目的
文部科学省の調査(2018)では,小6から中2にかけて不登校や暴力等の問題行動が急増する傾向を明らかにしている。ネガティブな出来事や感情に対し,自分なりの対処法をもつことは,感情のコントロールができ,生活満足感につながると考えられる。近年,ソーシャルスキル教育(SSE)は,ネガティブ感情への対処スキルの獲得に有効とされ,児童生徒の学校生活適応への効果が指摘されている(金山・小野, 2006)。本研究では,ソーシャルスキルトレーニング(SST)の手法を参考に,介入前の調査(以下Preと表記)で回答が得られたネガティブ感情への対処スキルを生徒たちへ教示した。介入後,ネガティブ感情を解決できた生徒と解決できなかった生徒を対象に,(1)生活満足感,(2)三浦ら(1997)の「積極的対処」「サポート希求」「認知的対処」を「コーピングへの取り組み」として,介入前後の変容を比較し,介入の効果を検討した。
方法
Pre:2017年4月下旬に,関東地方の公立中学校3校 の1~3年生844名(男子413名,女子417名,不明14名)を対象に,(1)ポジティブな体験の有無と内容,(2)ネガティブな体験の有無と内容,感情,解決の有無と対処法,(3)生活満足感:「学習」「部活動」「友人関係」「家庭生活」(4件法),(4)コーピングへの取り組み(4件法)についてたずねた。
1学期中の介入:Preで回答が多かった「音楽を聴く」「人と話す」「怒り・悲しみをのがす」と,藤枝(2017)によって感情コントロールへの効果が示されている「腹式呼吸」を加えた4つの対処スキルを各学級担任が生徒へ教示した。その際,対処スキルを用いた教師自身の実体験を交えて伝え,生徒各自が取り組みやすい対処スキルを約10日間試してみるよう教示した。合わせて,4つの対処スキルを記載したA1版ポスターを各教室の目につきやすい箇所に掲示し,実践を促した。介入時期は2017年7月上旬~下旬であった。
介入後の調査(以下Post1と表記):2017年7月下旬に,Pre実施の3校のうち2校(1校は未実施)の1~3年生487名(男子242名,女子239名,不明6名)を対象に実施した。Preの内容に加えて,ポスターの対処スキルを試したか否か,試した後の感情をたずねた。各学級担任が配布,回収した。
夏休みにおける介入:各学級担任は,ポスターをA4版に縮小したプリントを各校全生徒に配布し,家庭の目につきやすい箇所へ掲示し,夏休みも継続して取り組むよう生徒へ教示した。
夏休み明けの調査(以下Post2と表記):Pre実施の公立中学校3校の1~3年生827名(男子415名,女子406名,不明6名)を対象に,2017年9月下旬に,Post1の内容に加えて,対処スキルへの認知や活用,必要性をたずねた。
結果と考察
分析対象者は,3回(Pre,Post1,Post2)の調査において,記入漏れ等を除き,3回とも回答が得られた435名のうち,Preで解決できた群(12名),気持ちが軽くなった群(43名),解決できなかった群(38名)計93名を分析対象者とした。
介入前後の生活満足感とコーピングへの取り組み:「積極的対処」で交互作用がみられ(F(4,180)=2.47,p<.05),解決できた群がPost2<
Pre,Post2 生活満足感では,「学習」「部活動」で群の主効果があり(順にF(2,90)=6.32,7.40,p<.01,p<.001),いずれも解決できた群,気持ちが軽くなった群の得点が高かった(ともにp<.05)。他の項目では介入による有意な変化はみられなかった。
解決できなかった群でポスター掲載の対処スキルを試したのは,Post1では51.6%,そのうち「解決できた」「気持ちが軽くなった」と回答したのは58.3%であった。Post2では,同順に22.6%,52.3%であった。
解決できた,気持ちが軽くなった群は,既に自分なりの対処スキルをもっているため,新たな対処スキルを試そうとしなかったのではないか。また,介入により自分の対処スキルを有効な対処スキルと認識できたことで,学校生活の大部分を占める学習と部活動で影響がみられたのではないか。
解決できなかった群は,介入により自分で取り組めそうな対処スキルを見いだし,実際に試したことで,感情のコントロールにつながったのではないか。
対処スキルへの認知・活用・必要性:認知,活用は解決できた群が解決できなかった群よりも有意に高かった(順にF(3,431)=6.97,9.58,p<.05)。必要性については,「自分自身を守る」178名(26.0%),「対人関係の考慮」131名(19.2%),「将来や自己の生活の向上」129名(18.9%),「心や気持ちを落ち着かせる」119名(17.4%)であった。
文部科学省の調査(2018)では,小6から中2にかけて不登校や暴力等の問題行動が急増する傾向を明らかにしている。ネガティブな出来事や感情に対し,自分なりの対処法をもつことは,感情のコントロールができ,生活満足感につながると考えられる。近年,ソーシャルスキル教育(SSE)は,ネガティブ感情への対処スキルの獲得に有効とされ,児童生徒の学校生活適応への効果が指摘されている(金山・小野, 2006)。本研究では,ソーシャルスキルトレーニング(SST)の手法を参考に,介入前の調査(以下Preと表記)で回答が得られたネガティブ感情への対処スキルを生徒たちへ教示した。介入後,ネガティブ感情を解決できた生徒と解決できなかった生徒を対象に,(1)生活満足感,(2)三浦ら(1997)の「積極的対処」「サポート希求」「認知的対処」を「コーピングへの取り組み」として,介入前後の変容を比較し,介入の効果を検討した。
方法
Pre:2017年4月下旬に,関東地方の公立中学校3校 の1~3年生844名(男子413名,女子417名,不明14名)を対象に,(1)ポジティブな体験の有無と内容,(2)ネガティブな体験の有無と内容,感情,解決の有無と対処法,(3)生活満足感:「学習」「部活動」「友人関係」「家庭生活」(4件法),(4)コーピングへの取り組み(4件法)についてたずねた。
1学期中の介入:Preで回答が多かった「音楽を聴く」「人と話す」「怒り・悲しみをのがす」と,藤枝(2017)によって感情コントロールへの効果が示されている「腹式呼吸」を加えた4つの対処スキルを各学級担任が生徒へ教示した。その際,対処スキルを用いた教師自身の実体験を交えて伝え,生徒各自が取り組みやすい対処スキルを約10日間試してみるよう教示した。合わせて,4つの対処スキルを記載したA1版ポスターを各教室の目につきやすい箇所に掲示し,実践を促した。介入時期は2017年7月上旬~下旬であった。
介入後の調査(以下Post1と表記):2017年7月下旬に,Pre実施の3校のうち2校(1校は未実施)の1~3年生487名(男子242名,女子239名,不明6名)を対象に実施した。Preの内容に加えて,ポスターの対処スキルを試したか否か,試した後の感情をたずねた。各学級担任が配布,回収した。
夏休みにおける介入:各学級担任は,ポスターをA4版に縮小したプリントを各校全生徒に配布し,家庭の目につきやすい箇所へ掲示し,夏休みも継続して取り組むよう生徒へ教示した。
夏休み明けの調査(以下Post2と表記):Pre実施の公立中学校3校の1~3年生827名(男子415名,女子406名,不明6名)を対象に,2017年9月下旬に,Post1の内容に加えて,対処スキルへの認知や活用,必要性をたずねた。
結果と考察
分析対象者は,3回(Pre,Post1,Post2)の調査において,記入漏れ等を除き,3回とも回答が得られた435名のうち,Preで解決できた群(12名),気持ちが軽くなった群(43名),解決できなかった群(38名)計93名を分析対象者とした。
介入前後の生活満足感とコーピングへの取り組み:「積極的対処」で交互作用がみられ(F(4,180)=2.47,p<.05),解決できた群がPost2<
Pre,Post2
解決できなかった群でポスター掲載の対処スキルを試したのは,Post1では51.6%,そのうち「解決できた」「気持ちが軽くなった」と回答したのは58.3%であった。Post2では,同順に22.6%,52.3%であった。
解決できた,気持ちが軽くなった群は,既に自分なりの対処スキルをもっているため,新たな対処スキルを試そうとしなかったのではないか。また,介入により自分の対処スキルを有効な対処スキルと認識できたことで,学校生活の大部分を占める学習と部活動で影響がみられたのではないか。
解決できなかった群は,介入により自分で取り組めそうな対処スキルを見いだし,実際に試したことで,感情のコントロールにつながったのではないか。
対処スキルへの認知・活用・必要性:認知,活用は解決できた群が解決できなかった群よりも有意に高かった(順にF(3,431)=6.97,9.58,p<.05)。必要性については,「自分自身を守る」178名(26.0%),「対人関係の考慮」131名(19.2%),「将来や自己の生活の向上」129名(18.9%),「心や気持ちを落ち着かせる」119名(17.4%)であった。