[PG28] 高校生の自己肯定感の向上を目的とした時間管理プログラムの実践
認知行動療法的手法を用いて
Keywords:高校生、時間管理プログラム、自己肯定感
問題と目的
日本における高校生の自己肯定感が国際比較において低いと言われて久しい。年齢別にみると,特に10代後半から20代前半にかけて,諸外国との差が大きい(内閣府,2014)。
高校生の自己肯定感を高めることを目的としたエンカウンターグループなどが入学時のオリエンテーションの一環として実施され,効果を得ている(2012,伊藤)が,継続した支援,高校生活を送る上で必要なライフスキルの獲得を通して自己肯定感の向上を目的として実施しているプログラムは少ない。
そこで,本研究では,自己肯定感を高めることを目的に,授業の一環として「時間管理プログラム」を現在の問題を取り上げ解決に向かう集団認知行動療法の手法を用いて行った。その実施前と実施後の時間管理の変化,自己肯定感の変化について調査した。
方 法
対象:福岡県の通信制高校に通う生徒24名
手続き:2018年11月~12月,80分授業で「時間管理プログラム」プログラムを実施した。プログラム実施前後で①「自己肯定感」尺度(自分,友人,家族,先生の4因子構造),②「青年用適応感」尺度(居心地の良さの感覚,課題・目的の存在,被信頼・受容感,劣等感の無さの4因子構造),③「時間管理」尺度(時間の見積もり,時間の活用,その日暮らし,時間コントロール感の4因子構造)を実施した。
結 果
時間管理プログラム実施前と実施後の各尺度の因子得点の変化について,t検定を行ったところ,自己肯定感尺度の「自分」,「友人」,青年期適応感尺度の「被信頼・受容感」,「劣等感のなさ」,および時間管理尺度の「その日暮らし」の各因子において有意な改善が認められた。
各尺度の合計得点の高低と調査時期を要因として,各因子得点について2要因の分散分析を行い,プログラムの効果を検証した。自己肯定感尺度では,「自分」,「友人」,「家族」因子で交互作用が認められ,単純主効果検定の結果,自己肯定感が低い場合に各因子得点にプログラムによる改善が認められ,自己肯定感が高い場合には,効果が認められなかった。青年期適応感尺度では,「居心地の良さの感覚」,「課題・目的の存在」,「被信頼・受容感」で交互作用が認められた。「居心地の良さの感覚」では,時間管理が低い場合に改善が認められ,時間管理が高い場合と適応感が低い場合は効果が認められず,適応感が高い場合は居心地の良さの感覚が低下した。「課題・目的の存在」では,時間管理が高い場合に得点が低下し,時間管理が低い場合は効果が認められなかった。「被信頼・受容感」では,適応感が低い場合に改善が認められ,高い場合は効果が認められなかった。時間管理尺度では,「時間活用」因子で交互作用が認められ,適応感が高いと,改善が認められ,低い場合は効果が認められなかった。その他,t検定で改善が認められた因子に加え,自己肯定感尺度の「家族」因子,および時間管理尺度の「時間の見積もり」因子に主効果が認められ,プログラムによる改善が示された。
考 察
「時間管理プログラム」の実施により,自己肯定感,適応感,時間管理のいずれの要因も改善が認められることが明らかとなった。特に,いくつかの尺度因子得点が低い場合に,より改善がみられることが顕著であり,適応状態の悪い生徒に対しての本プログラムの実施が有効であることが示唆された。一方,適応感が高い生徒では,プログラムにより居心地の良さの感覚が低下し,時間管理が高い場合にも,課題・目的が減少することが示され,問題の少ない生徒ではプログラムに対して抵抗が生じていた可能性が考えられる。本研究はサンプルサイズが小さいため,更に検討が必要であるが,プログラムの実施対象を適応の悪い生徒に限定するなどしながら,さらに検証を重ね,プログラムの精緻化を図りたい。
引用文献
伊藤嘉奈子・工藤吉猛 (2012). 高校生の新入生オリエンテーションにおける構成的)グループ・エンカウンターの実践的研究 鎌倉女子大学紀要,19,61-69.
日本における高校生の自己肯定感が国際比較において低いと言われて久しい。年齢別にみると,特に10代後半から20代前半にかけて,諸外国との差が大きい(内閣府,2014)。
高校生の自己肯定感を高めることを目的としたエンカウンターグループなどが入学時のオリエンテーションの一環として実施され,効果を得ている(2012,伊藤)が,継続した支援,高校生活を送る上で必要なライフスキルの獲得を通して自己肯定感の向上を目的として実施しているプログラムは少ない。
そこで,本研究では,自己肯定感を高めることを目的に,授業の一環として「時間管理プログラム」を現在の問題を取り上げ解決に向かう集団認知行動療法の手法を用いて行った。その実施前と実施後の時間管理の変化,自己肯定感の変化について調査した。
方 法
対象:福岡県の通信制高校に通う生徒24名
手続き:2018年11月~12月,80分授業で「時間管理プログラム」プログラムを実施した。プログラム実施前後で①「自己肯定感」尺度(自分,友人,家族,先生の4因子構造),②「青年用適応感」尺度(居心地の良さの感覚,課題・目的の存在,被信頼・受容感,劣等感の無さの4因子構造),③「時間管理」尺度(時間の見積もり,時間の活用,その日暮らし,時間コントロール感の4因子構造)を実施した。
結 果
時間管理プログラム実施前と実施後の各尺度の因子得点の変化について,t検定を行ったところ,自己肯定感尺度の「自分」,「友人」,青年期適応感尺度の「被信頼・受容感」,「劣等感のなさ」,および時間管理尺度の「その日暮らし」の各因子において有意な改善が認められた。
各尺度の合計得点の高低と調査時期を要因として,各因子得点について2要因の分散分析を行い,プログラムの効果を検証した。自己肯定感尺度では,「自分」,「友人」,「家族」因子で交互作用が認められ,単純主効果検定の結果,自己肯定感が低い場合に各因子得点にプログラムによる改善が認められ,自己肯定感が高い場合には,効果が認められなかった。青年期適応感尺度では,「居心地の良さの感覚」,「課題・目的の存在」,「被信頼・受容感」で交互作用が認められた。「居心地の良さの感覚」では,時間管理が低い場合に改善が認められ,時間管理が高い場合と適応感が低い場合は効果が認められず,適応感が高い場合は居心地の良さの感覚が低下した。「課題・目的の存在」では,時間管理が高い場合に得点が低下し,時間管理が低い場合は効果が認められなかった。「被信頼・受容感」では,適応感が低い場合に改善が認められ,高い場合は効果が認められなかった。時間管理尺度では,「時間活用」因子で交互作用が認められ,適応感が高いと,改善が認められ,低い場合は効果が認められなかった。その他,t検定で改善が認められた因子に加え,自己肯定感尺度の「家族」因子,および時間管理尺度の「時間の見積もり」因子に主効果が認められ,プログラムによる改善が示された。
考 察
「時間管理プログラム」の実施により,自己肯定感,適応感,時間管理のいずれの要因も改善が認められることが明らかとなった。特に,いくつかの尺度因子得点が低い場合に,より改善がみられることが顕著であり,適応状態の悪い生徒に対しての本プログラムの実施が有効であることが示唆された。一方,適応感が高い生徒では,プログラムにより居心地の良さの感覚が低下し,時間管理が高い場合にも,課題・目的が減少することが示され,問題の少ない生徒ではプログラムに対して抵抗が生じていた可能性が考えられる。本研究はサンプルサイズが小さいため,更に検討が必要であるが,プログラムの実施対象を適応の悪い生徒に限定するなどしながら,さらに検証を重ね,プログラムの精緻化を図りたい。
引用文献
伊藤嘉奈子・工藤吉猛 (2012). 高校生の新入生オリエンテーションにおける構成的)グループ・エンカウンターの実践的研究 鎌倉女子大学紀要,19,61-69.