日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-59)

Mon. Sep 16, 2019 10:00 AM - 12:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PG29] いじめにおいて予期される援助要請の利益・コストの差異

近藤昌樹1, 高橋知己2 (1.上越教育大学大学院, 2.上越教育大学)

Keywords:いじめ、援助要請、利益・コスト

問題と目的
 いじめは,子どもの生活に深刻な影響を及ぼす重要な課題である。いじめのような自身の力では解決できない悩みに直面した場合は,他者に相談し,援助を求めることが重要な対処方略の一つとなる。こうした,他者に援助を求める行為は「援助要請」と呼ばれ,様々な領域で研究が行われている。援助要請における結果の予期は,利益・コストという概念として取り扱われている(相川,1989;高木1997)。利益・コストとは,援助要請した場合,援助要請しなかった場合,それぞれにおいて予想されるポジティブな結果(利益)とネガティブな結果(コスト)のことである。援助要請は,利益・コストを考慮して,援助要請を実行するか決定するといわれている。また,援助要請の結果をポジティブ,ネガティブの両側面から捉え,援助要請実行・回避の両面から総合的に捉える重要性が指摘されている(永井・新井,2007)。いじめにおいて,援助要請できない,あるいはしないということは,援助要請をした場合の利益を見込めていないということ予想される。そこで本研究は,相談相手を友人,教師,養護教諭とし,援助要請の利益・コストの予期の違いについて検討することを目的とした。
方  法
調査対象:A大学に通う大学生62名。
調査時期:2018年8月に実施。
調査手続き:「小学生のあなたは,AさんBさんCさんからいじめられ悩んでいます。そのことについて(担任の先生・友人・養護教諭)に話をするとしたら,次のようなことをどの程度思いますか。また,話した結果どうなると思いますか。」と教示し,相談行動の利益・コスト尺度改訂版26項目(永井・新井,2008)を使用した。収集された62名の質問紙のうち,記入漏れのない54名(男性50名,女性4名)の回答を分析に用いた。
結  果
 対象ごとに相談行動の利益・コスト尺度改訂版の内的整合性を検討するため,Cronbachのα係数を算出した。その結果,α=.73~.94であったことから概ね高い内的整合性が確認された。対象ごとの相談行動の利益・コスト尺度改訂版の尺度得点の違いを比較するため,被験者内の一要因分散分析を行った(Table 1)。その結果,担任の先生,友人において相談行動の利益・コストに有意な差がみられた(F(5,85)=8.71,p<.001;F(5,95)=3.54,p<.05)。その後Holm法による多重比較を行ったところ,担任の先生の場合,「否定的応答」「秘密漏洩」より「ポジティブな結果」と「問題の維持」の尺度得点が有意に高かった(p<.01,p<.05)。「秘密漏洩」より「自助努力による充実感」の尺度得点が有意に高かった(p<.01)。友人の場合,「否定的応答」「自己評価の低下」より「ポジティブな結果」の尺度得点が有意に高かった(p<.05)。
考  察
 相談相手によって援助要請の利益・コストの予期の違いが確認された。いじめにおける援助要請は,担任の先生,友人に対して援助要請実行の利益がコストよりも予期されやすいことが示唆された。しかしながら,援助要請の利益・コストにおいて相談実行のコストよりも利益を予期しやすいにも関わらず,援助要請の実行に結びついていない可能性が考えられる。おそらく,周囲との関係の悪化や問題の重大化などそのほかの要因がいじめにおける援助要請を抑制している要因として考えられる。今後は,援助要請の利益・コストの予期が援助要請の実行・回避にどのような影響を及ぼしているのか検討する必要性が見出された。また,援助要請の対象や問題の種類を拡張し,検討を行っていくことが必要であると考えられる。