日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-59)

Mon. Sep 16, 2019 10:00 AM - 12:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PG30] 学習に関する完全性へのこだわりと目標志向性や達成動機との関係

木村早紀子1, 藤木大介#2 (1.広島大学, 2.広島大学)

Keywords:完全主義、達成動機、目標志向性

 学習場面において学習者がよい結果を求めることは高い動機づけにつながる一方で,よい結果を過剰に求めすぎる場合,思った結果が得られずやる気を失うこともある。過度に完全性を求めることは完全主義といわれ(桜井・大谷,1997),学習者の意欲や行動に影響を与える。完全主義には,高い目標を課すというポジティブな側面(高目標設置)と失敗を過度に気にするというネガティブな側面(失敗過敏)があり,高目標設置は自己充実達成動機および競争的達成動機に正の影響,失敗過敏は自己充実達成動機に負,失敗回避動機に正の影響を及ぼす(胡(増井)・岩永,2016)。
 しかし,従来の研究では完全主義が既存の動機づけ理論の中でどう位置づくかという検討が不十分である。高目標設置は「完璧にしたい」という一種の目標であり,目標と動機づけとの関係を説明する達成目標理論の中で捉え直すことができる。加えて,失敗過敏については,これまで主として達成行動の結果に対する失敗に着目してきたが,失敗には目標の達成に向けたプロセスで起こるものもあり,達成動機に影響すると考えられる。そこで本研究では,質問紙調査により,完全主義の高目標設置と達成目標理論の目標志向性との関係性を検討する。また,失敗過敏傾向を結果に対するものとプロセスに対するものとに分けて達成動機との関連を検討する。
方  法
調査対象者 大学生179名であった。
質問紙の構成 高目標設置と目標志向性との関連性を検討するため,Frost, Marten, Lahart, & Rosenblate (1990)や桜井・大谷(1997)を参考に作成した高目標設置尺度と光浪(2010)の目標志向性尺度を使用した。また,失敗過敏を結果に対するものとプロセスに対するものに分けて達成動機との関連を調べるため,Frost et al.(1990)や桜井・大谷(1997)を参考に作成した結果に対する失敗過敏およびプロセスに対する失敗過敏の項目,堀野・森(1991)の達成動機尺度と光浪(2010)の失敗恐怖に関する項目を使用した。
結果と考察
 高目標設置と目標志向性に関して,高目標設置が熟達目標と遂行接近目標の間に位置づくモデルを想定して共分散構造分析を行った(Figure 1)。その結果,完全主義の高目標設置は,熟達目標と遂行接近目標の間に位置づき,両者と高い相関をもつことが示された。熟達目標は自分自身による評価を行い,遂行接近目標は他者からの評価を得ようとする。これら両者と高い相関を示した「完璧にしたい」という高い目標は,完璧という他者的な視点で定められた評価基準をもとに自分自身を評価する特性をもつと考えられる。
 また,探索的因子分析により失敗過敏が結果に対するものとプロセスに対するものに分かれることを確認した上で,失敗過敏を独立変数,達成動機を従属変数とする共分散構造分析を行った(Figure 2)。失敗過敏を1つのものとして捉えた胡(増井)・岩永(2016)では,失敗過敏は自己充実達成動機に負,失敗回避動機に正の影響を与えていたが,本研究では,結果に対する失敗過敏は自己充実達成動機および失敗回避動機に正の影響を,プロセスに対する失敗過敏は競争的達成動機に正の影響を示した。失敗過敏を結果に対するものとプロセスに対するものに分けたことで,失敗を気にする場面によって何に動機づけられるかが異なることが明らかになったといえる。最終的な結果が失敗となることに過敏であると,失敗を避けるよう回避的に動機づけられるだけでなく,最善を尽くし自分の達成基準へ到達するよう接近的に動機づけられるといえる。また,目標へ向かう過程で失敗することに過敏であると,他者との比較の中で勝っていたいと動機づけられるといえる。
主要引用文献
胡 (増井) 綾乃・岩永 誠 (2016). 学業場面における不健全完全主義の動機づけに随伴性自己価値および失敗の反すうが及ぼす影響 パーソナリティ研究, 24, 190-201.