[PH02] 小学生のセルフモニタリングの発達的変化と安定性
Keywords:セルフ・モニタリング、発達、安定性
問題と目的
発達障害児の学校場面への適応のための支援として,しばしば認知行動療法的アプローチが実施されている。その際には,児童のセルフモニタリングに対する苦手さへの配慮や支援,ソーシャルスキルトレーニング等による介入を的確に行う必要性が指摘されている。支援や介入にあたってはアセスメントのための指標が必要となるため,小中学生を対象としたセルフモニタリング尺度の開発が求められている。わが国における代表的な尺度としては桜井(1993)が作成した児童用のセルフモニタリング尺度が存在するが,その内容は学習や対人関係に限定されているため,谷ら(2017)は臨床的な介入を見据えて,さらに広い領域と概念を扱ったセルフモニタリング尺度を開発した。この尺度では,セルフモニタリングについて「社会的場面からの社会的な適切さに関する情報に基づいて,自分の行動を管理統制すること」というSnyder(1974)の定義を用い,セルフモニタリングの領域を「対人場面」に限定せず,「時間感覚」,「感情」,「身体感覚」まで広げ,さらに「気づき・観察」,「評価・分析」,「対処行動」の3つの段階での測定を可能とするために新たな質問項目を作成し,小中学生用のセルフモニタリング尺度を開発した。しかし,その尺度得点の安定性や発達的な変化,信頼性や妥当性の検討についてはまだ不十分であり,課題が残されている。そこで,本研究では小学生を対象とした2年間の縦断調査に基づいて,セルフモニタリングの発達的変化と安定性について検討する。
方 法
対象者 2016年に公立小学校1校の3年生から5年生までの小学生のうち,保護者より研究の趣旨に同意を得た児童430名(3年生135名,4年生153名,5年生142名)を調査対象として,質問紙調査を行った。さらに,2017年に同小学校の4年生から6年生までの小学生のうち,保護者より研究の趣旨に同意を得た児童432名(4年生140名,5年生150名,6年生142名)を調査対象として,質問紙調査を行い,照合が可能であった393名(91.3%)を分析対象とした。
手続き 両年度において,学級ごとに各担任教諭によってアンケート調査を実施した。セルフモニタリング尺度は「気づき・観察」,「評価・分析」,「対処行動」の3つの段階×「対人場面」,「時間感覚」,「感情」,「身体感覚」の4つの領域から構成され,合計36項目について4件法での回答を求られるが,年度によって用いた項目に違いがあったため,共通した20項目(「気づき・観察」5項目,「評価・分析」9項目,「対処行動」6項目)を用いて分析を行った。
結果と考察
セルフモニタリング尺度に含まれる20項目について,年度ごとに探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った結果,いずれの年度においても各領域において「気づき・観察」,「評価・分析」,「対処行動」の3つの因子を確認することができた。一部の因子についてはややα係数が低いものが見られたが,項目が少ないことが原因であると考えられる。各年度について3つの尺度得点を求め,相関分析を行った(Table 1)。
同じ年度の下位尺度間の相関は高かったが,これはセルフモニタリングという同一の構成概念を測定するため,このような結果が得られていると考えられる。異なる年度間の相関係数も中程度であり,年度を越えて安定した概念であることが認められた。また,同じ下位尺度間の相関係数は異なる下位尺度との相関係数よりも高く,収束的妥当性と弁別的妥当性が示唆された。
さらに,学年ごとに各尺度得点の推移を検討するために対応のあるt検定を行った結果,4年生から5年生にかけて「評価・分析」が低下することが認められた(t(123)=2.47, p <.01)が,これ以外の変数については有意差が認められなかった。また,各年度において,一要因の被験者間分散分析と多重比較によって3学年の間の比較を行った結果,有意な学年差が認められ,世代差が示された。
発達障害児の学校場面への適応のための支援として,しばしば認知行動療法的アプローチが実施されている。その際には,児童のセルフモニタリングに対する苦手さへの配慮や支援,ソーシャルスキルトレーニング等による介入を的確に行う必要性が指摘されている。支援や介入にあたってはアセスメントのための指標が必要となるため,小中学生を対象としたセルフモニタリング尺度の開発が求められている。わが国における代表的な尺度としては桜井(1993)が作成した児童用のセルフモニタリング尺度が存在するが,その内容は学習や対人関係に限定されているため,谷ら(2017)は臨床的な介入を見据えて,さらに広い領域と概念を扱ったセルフモニタリング尺度を開発した。この尺度では,セルフモニタリングについて「社会的場面からの社会的な適切さに関する情報に基づいて,自分の行動を管理統制すること」というSnyder(1974)の定義を用い,セルフモニタリングの領域を「対人場面」に限定せず,「時間感覚」,「感情」,「身体感覚」まで広げ,さらに「気づき・観察」,「評価・分析」,「対処行動」の3つの段階での測定を可能とするために新たな質問項目を作成し,小中学生用のセルフモニタリング尺度を開発した。しかし,その尺度得点の安定性や発達的な変化,信頼性や妥当性の検討についてはまだ不十分であり,課題が残されている。そこで,本研究では小学生を対象とした2年間の縦断調査に基づいて,セルフモニタリングの発達的変化と安定性について検討する。
方 法
対象者 2016年に公立小学校1校の3年生から5年生までの小学生のうち,保護者より研究の趣旨に同意を得た児童430名(3年生135名,4年生153名,5年生142名)を調査対象として,質問紙調査を行った。さらに,2017年に同小学校の4年生から6年生までの小学生のうち,保護者より研究の趣旨に同意を得た児童432名(4年生140名,5年生150名,6年生142名)を調査対象として,質問紙調査を行い,照合が可能であった393名(91.3%)を分析対象とした。
手続き 両年度において,学級ごとに各担任教諭によってアンケート調査を実施した。セルフモニタリング尺度は「気づき・観察」,「評価・分析」,「対処行動」の3つの段階×「対人場面」,「時間感覚」,「感情」,「身体感覚」の4つの領域から構成され,合計36項目について4件法での回答を求られるが,年度によって用いた項目に違いがあったため,共通した20項目(「気づき・観察」5項目,「評価・分析」9項目,「対処行動」6項目)を用いて分析を行った。
結果と考察
セルフモニタリング尺度に含まれる20項目について,年度ごとに探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った結果,いずれの年度においても各領域において「気づき・観察」,「評価・分析」,「対処行動」の3つの因子を確認することができた。一部の因子についてはややα係数が低いものが見られたが,項目が少ないことが原因であると考えられる。各年度について3つの尺度得点を求め,相関分析を行った(Table 1)。
同じ年度の下位尺度間の相関は高かったが,これはセルフモニタリングという同一の構成概念を測定するため,このような結果が得られていると考えられる。異なる年度間の相関係数も中程度であり,年度を越えて安定した概念であることが認められた。また,同じ下位尺度間の相関係数は異なる下位尺度との相関係数よりも高く,収束的妥当性と弁別的妥当性が示唆された。
さらに,学年ごとに各尺度得点の推移を検討するために対応のあるt検定を行った結果,4年生から5年生にかけて「評価・分析」が低下することが認められた(t(123)=2.47, p <.01)が,これ以外の変数については有意差が認められなかった。また,各年度において,一要因の被験者間分散分析と多重比較によって3学年の間の比較を行った結果,有意な学年差が認められ,世代差が示された。