[PH06] 大学生の所属サークル・部活動に対する認知がアイデンティティの実感としての充実感に与える影響
時間的展望に着目して
Keywords:サークル・コミットメント、充実感、時間的展望
問題と目的
人格形成の理論として存在する,Erikson(1959 西平・中島訳 2011)の漸成発達理論に,溝上(2008)の見解も加味すると,大学生が「アイデンティティ対アイデンティティ拡散」の危機を乗り越え,「親密対孤立」の危機と対峙するためには,「役割実験」を通じた自分を試す作業が必要であり,その作業の場としてサークル活動や部活動も機能し得る可能性が理論面で示唆される。
橋本・唐沢・磯崎(2010)や高田(2014)の研究により,大学生のサークル集団に対する認知は類型化されていることが実証的に示されていると言える。
山田(2004)や溝上・中間・畑野(2016),大野(1984)の研究から,大学生がサークル活動において活動への肯定的な認知的評価を行うこと,またサークル活動において充実感を抱くことは,単に大学生に充実した気分をもたらすだけでなく,青年期の心理・社会的危機を乗り越えた末にある,アイデンティティの確立や時間的展望の獲得を促すと考えられる。
本研究では,大学生のサークル集団への種々の認知がアイデンティティの実感としての充実感に及ぼす影響を,分散分析によって調べる。
方 法
調査手段 質問紙調査
調査対象者 大学でのサークル・部活動への所属経験のある学部生・院生135名(回答に欠損のあった者を除く)
調査時期 2018年10月上旬
使用尺度 サークル・コミットメント尺度(橋本・唐沢・磯崎,2010)・充実感尺度(大野,1984)ともに5件法(1.全くあてはまらない~5.とてもあてはまる)
結果と考察
サークル・コミットメント尺度について天井効果のあった項目を省いた後,因子分析をした結果,先行研究と異なり2因子に分かれた。先行研究に倣い,「情緒的・集団同一視コミットメント」および「規範的コミットメント」と命名した。充実感尺度についても,天井効果のあった項目を省いた後,因子分析をした結果,先行研究通り4因子(「充実感気分」,「信頼・時間的展望」,「連帯」,「自立・自信」)となった。サークル・コミットメント尺度において, 調査協力者を各因子の平均値によって,高群・低群の2群に分けた。
信頼・時間的展望の因子について述べる。情緒的・集団同一視コミットメントと規範的コミットメントによる2要因分散分析を行った結果,交互作用は有意ではなかったものの,情緒的・集団同一視コミットメントの主効果が有意であった。(F(1, 131) = 12.85, p<.001) 効果量η^2はη^2=.09であり中程度の効果量を示し,効果量ω^2はω^2=.07であり小さい効果量を示した。
この結果から,サークル集団に対する情緒的な愛着を持っていて,集団の問題を自分自身の問題であると認知するといった集団への同一視をしているメンバーの方が,自分の人生に関する意味感と,人生への肯定感を持つことが示された。
サークルに参加する多くの大学生にとっては,サークル集団が彼らにとっての準拠集団である可能性が高い(橋本ら,2010)上に,本因子での主効果に相当する大学生はサークルへの不満が少ないと推測される(飛田,1994)。Merton(1957 森ら訳 1961)や都筑・白井(2007)は,アメリカ兵を調査対象とした研究で,成員が将来自己を関連づけたい集団へ参加したいという積極的・肯定的な方向も準拠集団は含んでいることを指摘しており,本研究における信頼・時間的展望の因子での結果との関連が示唆される。
なお因子構造の変化ついては,本尺度の元となった高橋(1997)の組織コミットメント尺度が,集団に対する愛着や同一視,忠誠心を合わせて,情動的コミットメントとしており,情緒的コミットメントと集団同一視コミットメントの概念上の混在が変化の原因の一つあると推察される。
人格形成の理論として存在する,Erikson(1959 西平・中島訳 2011)の漸成発達理論に,溝上(2008)の見解も加味すると,大学生が「アイデンティティ対アイデンティティ拡散」の危機を乗り越え,「親密対孤立」の危機と対峙するためには,「役割実験」を通じた自分を試す作業が必要であり,その作業の場としてサークル活動や部活動も機能し得る可能性が理論面で示唆される。
橋本・唐沢・磯崎(2010)や高田(2014)の研究により,大学生のサークル集団に対する認知は類型化されていることが実証的に示されていると言える。
山田(2004)や溝上・中間・畑野(2016),大野(1984)の研究から,大学生がサークル活動において活動への肯定的な認知的評価を行うこと,またサークル活動において充実感を抱くことは,単に大学生に充実した気分をもたらすだけでなく,青年期の心理・社会的危機を乗り越えた末にある,アイデンティティの確立や時間的展望の獲得を促すと考えられる。
本研究では,大学生のサークル集団への種々の認知がアイデンティティの実感としての充実感に及ぼす影響を,分散分析によって調べる。
方 法
調査手段 質問紙調査
調査対象者 大学でのサークル・部活動への所属経験のある学部生・院生135名(回答に欠損のあった者を除く)
調査時期 2018年10月上旬
使用尺度 サークル・コミットメント尺度(橋本・唐沢・磯崎,2010)・充実感尺度(大野,1984)ともに5件法(1.全くあてはまらない~5.とてもあてはまる)
結果と考察
サークル・コミットメント尺度について天井効果のあった項目を省いた後,因子分析をした結果,先行研究と異なり2因子に分かれた。先行研究に倣い,「情緒的・集団同一視コミットメント」および「規範的コミットメント」と命名した。充実感尺度についても,天井効果のあった項目を省いた後,因子分析をした結果,先行研究通り4因子(「充実感気分」,「信頼・時間的展望」,「連帯」,「自立・自信」)となった。サークル・コミットメント尺度において, 調査協力者を各因子の平均値によって,高群・低群の2群に分けた。
信頼・時間的展望の因子について述べる。情緒的・集団同一視コミットメントと規範的コミットメントによる2要因分散分析を行った結果,交互作用は有意ではなかったものの,情緒的・集団同一視コミットメントの主効果が有意であった。(F(1, 131) = 12.85, p<.001) 効果量η^2はη^2=.09であり中程度の効果量を示し,効果量ω^2はω^2=.07であり小さい効果量を示した。
この結果から,サークル集団に対する情緒的な愛着を持っていて,集団の問題を自分自身の問題であると認知するといった集団への同一視をしているメンバーの方が,自分の人生に関する意味感と,人生への肯定感を持つことが示された。
サークルに参加する多くの大学生にとっては,サークル集団が彼らにとっての準拠集団である可能性が高い(橋本ら,2010)上に,本因子での主効果に相当する大学生はサークルへの不満が少ないと推測される(飛田,1994)。Merton(1957 森ら訳 1961)や都筑・白井(2007)は,アメリカ兵を調査対象とした研究で,成員が将来自己を関連づけたい集団へ参加したいという積極的・肯定的な方向も準拠集団は含んでいることを指摘しており,本研究における信頼・時間的展望の因子での結果との関連が示唆される。
なお因子構造の変化ついては,本尺度の元となった高橋(1997)の組織コミットメント尺度が,集団に対する愛着や同一視,忠誠心を合わせて,情動的コミットメントとしており,情緒的コミットメントと集団同一視コミットメントの概念上の混在が変化の原因の一つあると推察される。