日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-65)

Mon. Sep 16, 2019 1:00 PM - 3:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:00~14:00
偶数番号14:00~15:00

[PH09] 幼児期における手指の巧緻性と計算能力の関係についての基礎研究

喜多真明1, 野中陽一朗2 (1.四万十市立中村南小学校, 2.高知大学)

Keywords:手指の巧緻性、計算能力、幼児

問題と目的
 手指の巧緻性 (以下;巧緻性) とは,一般に手指の精巧で緻密な動きと解釈されている。近年,幼児期における巧緻性研究が,発達心理学分野で注目されている (鳴海, 2015;西ノ平・廣中・大島・中山, 2018;戸次, 2014;橋爪・村上, 2016)。浅川・杉村 (2011) は,年中児と年長児を対象に文章題を口頭で掲示し,測定した計算能力と30秒間でペグボードに何本棒をさせられるかで測定した巧緻性が他の運動能力や認知能力に比べて強く関係していることを明らかにした。一方,児童期の巧緻性については,ペグボードで測定した巧緻性とWISC-3の下位検査である足し算,引き算,掛け算などを調べる算数課題や足し算及び引き算の算数ドリルで測定する計算能力との関係が小学校1年生段階で消失すること (浅川・村上・杉村,2013),年齢が幼い段階では女児のほうが男児よりも優れていること (鳴海・川端,2013) が明らかにされている。しかしこれらの研究は,巧緻性及び計算能力を測る課題が限定的であり,巧緻性や計算能力測定について課題が残されている。
 そこで,本研究では,浅川・杉村 (2011) で調査対象外であった3歳児も含め,巧緻性と計算能力の測定課題を多様化し,巧緻性と計算能力の関係,性要因が両者の関係に及ぼす影響を検討した。
方  法
倫理的配慮 X市教育委員会教育長からの研究承諾,公立保育所所長,幼稚園園長及び担任保育者から研究承諾を受け,研究協力においては,対象児の保護者から承諾を得た。
対象児 2018年度のX市公立保育所・幼稚園の全3園に所属する年少児37名 (男児16名,女児21名),年中児40名 (男児26名,女児14名),年長児48名 (男児27名,女児21名)。
数量感覚課題 浅川・杉村 (2011) を参考に「足し算課題」(6問),「具体物を活用した引き算課題」(4問) を個別に口頭で掲示し,回答を求めた。
線引き課題 巧緻性の一つの特徴である精巧さを測るため,尾崎 (2015, 2018) を参考として6つの課題を集団で実施 (各課題制限時間30秒) し,線のはみ出し具合を測定した。
止め結び課題 巧緻性の一つの特徴であるすばやさを測るため,鳴海・川端 (2013) を参考に,改良した止め結び課題を集団で実施 (制限時間2分30秒) し,個数の測定を行った。
結果と考察
 浅川・杉村 (2011) を参考に,月齢を統制した偏相関分析を行い,巧緻性と計算能力の関係を大局的に示す指標として,Table 1に上段から順に幼児全体,全体男児,全体女児の結果を示した。その結果,全体では止め結びと足し算 (r=.271, p<.01),引き算 (r=.227, p<.05),計算課題 (r=.279, p<.01) で弱い相関,男児は線引きと足し算 (r=-.270, p<.05) で弱い相関,女児では止め結びと足し算 (r=.362, p<.01) で弱い相関,引き算 (r=.483, p<.01),計算課題 (r=.445, p<.01) で強い相関がみられた。また各年齢及び男女別に分け,相関分析を行ったところ,年少児では止め結びと足し算,年中児では引き算とも関連し,年長児で両者の関係が消滅すること,性要因に関して年少児及び年長児では女児のほうが止め結びと計算能力の間に強く関連がみられ,年中児では男児のほうが止め結びと計算能力の間に強く関連がみられることを明らかにした。
 本研究の結果は浅川・杉村 (2011) の結果と比べ,幼児期を鳥瞰した時に,計算能力 (年少児は足し算,年中児は加えて引き算) が巧緻性の一部である止め結びと関連すること,計算能力と巧緻性の関連は女児において顕著にみられることを明らかにした。巧緻性と計算能力の関連は,巧緻性は前頭前野で司り (鈴木;1994,久保田;1982),計算能力は頭頂野で司ること (高山;2003, Sandra & Matthew;2007) から浅川・杉村 (2011) 同様,脳の局在論的理論により両者が関連し,特に巧緻性のすばやさと計算能力が強く結びつくことが示唆された。
付  記
 本年中児データの一部は,第74回中国四国心理学会 (喜多・野中, 2018) で発表したものである。