[PH18] 小学校の外国語教育
言語への目覚め活動に着目して
Keywords:外国語、小学校英語、言語への目覚め活動
目 的
子どもが言語と文化の関係に触れ,母語や外国語に対するメタ言語的な気づきを得るための教示活動のひとつとして,「言語への目覚め活動」がある。この活動は1970年代イギリスで,子どもの外国語学習・読み書き能力の低さを改善するために実施された言語意識運動(Language Awareness Movement)をルーツとし,「学校で教えられていない言語と,学校で教えられている言語を含む,複数の言語を使った学習活動」(大山, 2016) と定義される。
大山(2016)は,公立小学校6年生のクラスを対象に月の名前を用いた言語への目覚め活動を実践し,児童が活動を通して知っている外国語の知識の活用,言語ごとに共通している部分があることの発見に至ったことを報告している。
岩坂・吉村(2015)は従来小学校において日本語のみで行っていた「ことばへの気づき」活動に「言語への目覚め活動」を加えることで,メタ言語意識(ことばの仕組みや働きを対象化し,気にとめ,さらに,意識すること(大津,2009))という「ことばへの気づき」の育成に役立つと述べている。
しかし,これまでの研究では,「言語への目覚め活動」において,どのような言語と母語との比較が,有効なメタ言語的気づきに至るかの詳細な検討は進んでいない。そこで本研究では,小学校の外国語教育の場でそのような活動が行われているのか調査し,言語への目覚め活動の言語数による効果について検討する。
研究Ⅰ:授業の発話分析
方 法
2017年10月から2018年3月まで公立小学校へ17回,2018年5月に公立中学校へ2回訪問し授業の内容(教師及び児童・生徒の発話)を記録した。得られた記録は発話ごとに,「活動の種類」にはルーティン,デモンストレーション,アクティビティ,クイズ,歌・チャンツ,練習,教科書の7カテゴリーを,「発話の機能」にはフレーズ・単語,挨拶,応答,指示,質問,反応,推測,訂正,評価の9カテゴリーを設定して分析した。
結 果
「活動の種類」は小学校1~3年生では練習の割合が大きいのが,小学校5~6年生ではアクティビティが最大の割合となっていた。中学校1年生では文法の学習や英文を読むなどの「教科書」の発話記録が最も多かった(41%)。「発話の機能」は,児童・教師共に小学校1~3年生では「フレーズ・単語」が最も多かった(児童67%,教師45%)。この割合は小学校5~6年生,中学校1年生と年齢が上がるにつれて小さくなった。また,児童・生徒の発話では「応答」が増え,教師の発話では「質問」が増えていた。学年が高くなるほど,授業中のやりとりが多くなることが分かった。
研究Ⅱ:言語への目覚め活動の実験と質問紙調査
方 法
実験には大学生34名が参加した。実験では被験者を対象に,実際に「言語への目覚め活動」の授業を行い,その前後で,言語に関連する意識がどのように変化するかを質問紙によって調査した。質問紙の内容は,外国語に対して感じていること,日本語と外国語を学ぶ理由,小学校での英語学習と海外経験の有無,活動を通して言語の特徴や文化との関係等について気づいたかどうか,言語に対する意識が変わったかという項目よって構成されていた。題材としては,大山(2016)による言語によって異なる月の名前の形態論的特徴に触れる活動に加え,Malt(1999)による言語によって異なるモノの名前の意味論的特徴に触れる活動を行った。被験者は,3つの言語(日本語・スペイン語・英語)に触れるグループ,7つの言語(日本語・スペイン語・英語・中国語・韓国語・ポルトガル語・フィリピノ語)に触れるグループに分けられ,その上で,触れる言語の数によるメタ言語的気づきの効果の違いについて検討した。
結 果
実験の前後の質問紙調査で尋ねた「複数の外国語を学ぶことは大切だと思いますか」「複数の外国語を学びたいと思いますか」の2項目について,実験の前後の平均値をt検定した結果,7言語グループにおいてのみ有意差が見られた。「自分が複数の外国語を使えるようになることは可能だと思いますか」という質問項目については,3言語グループにおいてのみ有意差が見られた。活動の言語数が多い方が言語に対しての意欲をより持つ一方,扱う言語数が少ない方が複数の外国語を使うことが可能だと思うようになると考えられる。実験後の質問紙調査では,どちらのグループにおいても活動を通して言語ごとに異なる特徴があること,言語と文化に関係があることへの気づきが見られたが,「言語ごとに異なる特徴やルールがあることに気づいた」という質問項目について,グループ間の平均に有意差があり,7言語グループではより気づきが促されていることが示唆された。両グループとも,言語(日本語・英語・英語以外の外国語)を学ぶ理由としては,実験後の質問紙調査で文化・価値観や他言語との関係についての言及が増えていた。言語は単なる手段ではなく,それを通して文化や価値観といったものにも触れることができると気づいたことがうかがえる。
考 察
小学校では外国の言語の構造や,表現と意味の間の規則性についての理解を喚起する言語への目覚め活動のような試みはみられなかった。
言語への目覚め活動の実験では,扱う言語数が多い方が言語の特徴や文化との関連への気づきが促されたが,言語数の少ない方が外国語学習についてハードルを低く感じられる可能性も考えられた。
これまでの外国語教育や,異文化理解のための教育と「言語への目覚め活動」の違いは,後者では複数言語を比較することで,そこから生まれた気づきによって言語全般について思考し,言語それぞれに文化が伴っていることを認識するメタ言語能力につながる点にある。「言語への目覚め活動」とは,言語そのものを通して,異文化体験をすることができる活動であると考える。
子どもが言語と文化の関係に触れ,母語や外国語に対するメタ言語的な気づきを得るための教示活動のひとつとして,「言語への目覚め活動」がある。この活動は1970年代イギリスで,子どもの外国語学習・読み書き能力の低さを改善するために実施された言語意識運動(Language Awareness Movement)をルーツとし,「学校で教えられていない言語と,学校で教えられている言語を含む,複数の言語を使った学習活動」(大山, 2016) と定義される。
大山(2016)は,公立小学校6年生のクラスを対象に月の名前を用いた言語への目覚め活動を実践し,児童が活動を通して知っている外国語の知識の活用,言語ごとに共通している部分があることの発見に至ったことを報告している。
岩坂・吉村(2015)は従来小学校において日本語のみで行っていた「ことばへの気づき」活動に「言語への目覚め活動」を加えることで,メタ言語意識(ことばの仕組みや働きを対象化し,気にとめ,さらに,意識すること(大津,2009))という「ことばへの気づき」の育成に役立つと述べている。
しかし,これまでの研究では,「言語への目覚め活動」において,どのような言語と母語との比較が,有効なメタ言語的気づきに至るかの詳細な検討は進んでいない。そこで本研究では,小学校の外国語教育の場でそのような活動が行われているのか調査し,言語への目覚め活動の言語数による効果について検討する。
研究Ⅰ:授業の発話分析
方 法
2017年10月から2018年3月まで公立小学校へ17回,2018年5月に公立中学校へ2回訪問し授業の内容(教師及び児童・生徒の発話)を記録した。得られた記録は発話ごとに,「活動の種類」にはルーティン,デモンストレーション,アクティビティ,クイズ,歌・チャンツ,練習,教科書の7カテゴリーを,「発話の機能」にはフレーズ・単語,挨拶,応答,指示,質問,反応,推測,訂正,評価の9カテゴリーを設定して分析した。
結 果
「活動の種類」は小学校1~3年生では練習の割合が大きいのが,小学校5~6年生ではアクティビティが最大の割合となっていた。中学校1年生では文法の学習や英文を読むなどの「教科書」の発話記録が最も多かった(41%)。「発話の機能」は,児童・教師共に小学校1~3年生では「フレーズ・単語」が最も多かった(児童67%,教師45%)。この割合は小学校5~6年生,中学校1年生と年齢が上がるにつれて小さくなった。また,児童・生徒の発話では「応答」が増え,教師の発話では「質問」が増えていた。学年が高くなるほど,授業中のやりとりが多くなることが分かった。
研究Ⅱ:言語への目覚め活動の実験と質問紙調査
方 法
実験には大学生34名が参加した。実験では被験者を対象に,実際に「言語への目覚め活動」の授業を行い,その前後で,言語に関連する意識がどのように変化するかを質問紙によって調査した。質問紙の内容は,外国語に対して感じていること,日本語と外国語を学ぶ理由,小学校での英語学習と海外経験の有無,活動を通して言語の特徴や文化との関係等について気づいたかどうか,言語に対する意識が変わったかという項目よって構成されていた。題材としては,大山(2016)による言語によって異なる月の名前の形態論的特徴に触れる活動に加え,Malt(1999)による言語によって異なるモノの名前の意味論的特徴に触れる活動を行った。被験者は,3つの言語(日本語・スペイン語・英語)に触れるグループ,7つの言語(日本語・スペイン語・英語・中国語・韓国語・ポルトガル語・フィリピノ語)に触れるグループに分けられ,その上で,触れる言語の数によるメタ言語的気づきの効果の違いについて検討した。
結 果
実験の前後の質問紙調査で尋ねた「複数の外国語を学ぶことは大切だと思いますか」「複数の外国語を学びたいと思いますか」の2項目について,実験の前後の平均値をt検定した結果,7言語グループにおいてのみ有意差が見られた。「自分が複数の外国語を使えるようになることは可能だと思いますか」という質問項目については,3言語グループにおいてのみ有意差が見られた。活動の言語数が多い方が言語に対しての意欲をより持つ一方,扱う言語数が少ない方が複数の外国語を使うことが可能だと思うようになると考えられる。実験後の質問紙調査では,どちらのグループにおいても活動を通して言語ごとに異なる特徴があること,言語と文化に関係があることへの気づきが見られたが,「言語ごとに異なる特徴やルールがあることに気づいた」という質問項目について,グループ間の平均に有意差があり,7言語グループではより気づきが促されていることが示唆された。両グループとも,言語(日本語・英語・英語以外の外国語)を学ぶ理由としては,実験後の質問紙調査で文化・価値観や他言語との関係についての言及が増えていた。言語は単なる手段ではなく,それを通して文化や価値観といったものにも触れることができると気づいたことがうかがえる。
考 察
小学校では外国の言語の構造や,表現と意味の間の規則性についての理解を喚起する言語への目覚め活動のような試みはみられなかった。
言語への目覚め活動の実験では,扱う言語数が多い方が言語の特徴や文化との関連への気づきが促されたが,言語数の少ない方が外国語学習についてハードルを低く感じられる可能性も考えられた。
これまでの外国語教育や,異文化理解のための教育と「言語への目覚め活動」の違いは,後者では複数言語を比較することで,そこから生まれた気づきによって言語全般について思考し,言語それぞれに文化が伴っていることを認識するメタ言語能力につながる点にある。「言語への目覚め活動」とは,言語そのものを通して,異文化体験をすることができる活動であると考える。