日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-65)

Mon. Sep 16, 2019 1:00 PM - 3:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:00~14:00
偶数番号14:00~15:00

[PH20] 大学院生の出来事への認知的評価とレジリエンスとの相互関係について

トランスアクショナル・モデルを基にした検討

Deng Sixin1, 小倉正義2 (1.早稲田大学, 2.鳴門教育大学)

Keywords:認知的評価、レジリエンス、相互関係

問題と目的
 ストレスにかかるトランスアクショナル・モデルでは,先行条件のストレッサー,それに対する認知的評価,コーピング,ストレス反応,再評価という過程が考えられている (Lazarus & Folkman, 1984)。ところで,プレッシャーがかかる出来事と出会う前に,精神的健康と関わる心理的特性や能力を養成することは重要である。多くの研究でレジリエンスと精神的健康との関連が検証されているため (長内・古川, 2004など) ,本研究ではレジリエンスに着目する。レジリエンスの定義や概念に関する見解は多様であるが,本研究では「人がストレッサーを経験しても心理的な健康状態を維持することと,陥った不適応状態を一時的なこととして乗り越え,健康状態へ回復していく力や過程」 (小塩・中谷・金子・長峰, 2002; 石毛・無藤, 2005; 齊藤・岡安, 2011) とする。
 これまでトランスアクショナル・モデルの認知的評価とレジリエンスの経時的な変化に関して検討した研究はほとんどない。人は新たな情報を得ることで再評価を行うため,認知的評価には変化が生じる可能性があり,この変化はレジリエンスの成長を促す可能性がある。そこで本研究では,ストレスにかかるトランスアクショナル・モデルの認知的評価とレジリエンスの経時的な相互関係を検討する。なお,本研究では大学院生を対象にしたため,大学院生にとって比較的負荷が高い修士論文の構想発表会をイベントとした。
方  法
調査時期:2018年6月から7月に。3時点での調査を行なった。
調査対象者:X県内Y大学の大学院生22名(男性5名,女性17名,平均年齢25.81歳±7.66)を分析対象とした。研究目的や負担の説明,プライバシー保護など,倫理的な側面での配慮を祷文に行った。
調査内容:①基本属性,②認知的評価尺度 (三浦・上里, 1999),③レジリエンス尺度 (鄧, 2016)。
結果と考察
 3回調査の平均年齢±標準偏差をTable 1に示した。また,認知的評価とレジリエンスの双方向の因果関係を含む交差遅延効果モデルの適合度は良好であった (χ2 (2) = 1.221, p = .543, n.s., GFI = .981, AGFI = .804, RMR = .002, AIC = 39.221, RMSEA = .000, Figure 1)。
 「認知的評価」のWave 1からWave 2 ( β = .37, p = .073),Wave 2からWave 3 ( β = .55, p < . 001),「レジリエンス」のWave 1からWave 2 ( β = .93, p < .001),Wave 2からWave 3 ( β = .93, p < . 001) への係数は高い値を示した。また,「認知的評価(Wave 1)→レジリエンス(Wave 3)」の係数が有意であり ( β = .19, p = .001, p < .01),1ヶ月前の「認知的評価」は1ヶ月後の「レジリエンス」に正の影響を及ぼすことが示された。このことから,1ヶ月前の認知的評価が高いほど,1ヶ月後のレジリエンスは高い傾向にあるといえる。そのため,ストレッサーとして評価されやすい出来事に対し,出来事に関する認知的評価が固着される前に支援を行い,出来事に関する情報の提供や対処法の獲得を支援することでレジリエンスを成長させることが可能だと考える。