日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-65)

Mon. Sep 16, 2019 1:00 PM - 3:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:00~14:00
偶数番号14:00~15:00

[PH22] 中国人留学生の進学における学習動機づけ・自己調整学習方略とパフォーマンスの関連

董思遠1, 犬塚美輪2 (1.東京学芸大学, 2.東京学芸大学)

Keywords:自己調整学習、学習動機づけ

問題と目的
 留学生は,自由裁量の時間が多く,情報やサポートが欠如している状況で進学を目指している。進学試験でよい成績を上げるためには,より自律的に自己調整学習方略を使用し,学業を進めることが必要だと思われる。先行研究では,言語学習や異文化適応が進学の最も重要な要因としてあげられたが(e.g. 瀬尾,2011;趙,2015),日本の高等教育を受けるための学習する過程における,留学生の学習動機づけと方略使用の実態はまだ明らかではない。
 そこで,本研究では,在日中国人留学生の進学準備における学習動機づけ,自己調整学習方略の使用,それらと学業成績との関連を検討する。
研究1
 学習動機づけ,自己調整学習方略がそれぞれ直接パフォーマンスへ影響し,学習動機づけが自己調整学習に影響するという仮説モデルを検証する。
方法 来日2年間以内の日本の大学に進学準備中の中国人留学生111人を対象とした。事前に目的について説明し,試験成績を含む質問紙への協力同意を確認した上で以下の質問への回答を求めた。①自律的学習動機づけ尺度(西村・河村・桜井,2011)20項目:外的調整,取り入れ的調整,同一化的調整,内的調整,各5項目。②自己調整学習方略尺度29項目:目標設定とプランニング(7項目),援助要請(5項目),時間管理と環境構成(6項目,Duncan &. McKeachie, 2005),テスト復習方略(7項目,伊藤・神藤,2003),情報収集(4項目)。③自己評価尺度7項目。④日本留学試験成績(日本語,総合科目,数学)3項目。
結果と考察 学業成績指標を統一するため,83人の文系受験生のデータを使った。最終モデルの適合度はχ^2(39)=47.36,GFI=.912,AGFI=.851,CFI=.959,RMSEA=.051。内発的な学習動機づけ(内的調整と同一化的調整)の間に正の相関(r=.29,p<.05)が見られ,両方とも自己調整学習方略に有意な正の影響を与えた(パス係数=.29,.26)。概ね先行研究に沿った結果が得られたが,同一化的調整が学業成績に負の影響を与えることが示され,これは従来の研究結果(e.g. Otis et al.,2005; Burton et al., 2005)と異なった。
研究2
 研究1において,同一化的調整が学業成績に負の影響を与えるという先行研究に反する結果が得られた背景には,研究1のモデルでは検討されていない変数が重要であることが考えられる。そこで,少人数の半構造化面接を行い,留学生の動機づけや学習状況を詳しく調査することとした。
方法 受験準備中の中国人留学生7人に半構造化面接を行った。事前に質問内容を説明し,協力同意を確認した上で,主に①留学の理由,②母国での自分の学力や高等教育への意見,③学習と自己評価の方法,について1時間程度面接を行った。
結果と考察 面接協力者のうち6人は,母国の受験競争が厳しく志望大学に進学する見込みがなかったと言及した。また,4人はこれまで一度も自分の進学準備について振り返ったことがないと述べ,3人は,振り返りは行うが,ほとんど他人と対比せず,自分の成績を見直すのみであると述べた。見直しの際に参照できる公的な試験は少なく,日本留学試験が年に2回実施されるのみである。
 以上より,中国人留学生が日本の大学の受験を準備する過程では:①母国の受験競争を怖がり,進学失敗を避ける意志が強いこと,②留学した後は競い合う相手に欠け,公的な試験が少ないため,自己評価の参照や基準が乏しく,より客観的な絶対評価がしにくいことが示唆された。これらの要因がいかに留学生の学習プロセスに影響するか,研究1のモデルに組み込んで検討する必要がある。