日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-65)

Mon. Sep 16, 2019 1:00 PM - 3:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:00~14:00
偶数番号14:00~15:00

[PH29] 生徒がアウトプットする活動を取り入れた高校数学授業

学びに向かう態度,深い理解,定期考査に及ぼす効果の検証

秋澤武志1, 植阪友理2 (1.神奈川県立鶴嶺高等学校, 2.東京大学)

Keywords:高校数学、アウトプット、説明

 新学習指導要領では,「主体的•対話的で深い学び」が強調され,単に問題が解けるだけではなく,深く理解することが重視されている。また,学びに向かう態度そのものも変えていく必要があることが,繰り返し論じられている。しかし,現在の教科教育では,学習内容を指導することに追われていて,なかなか学びに向かう態度までも視野に育てられていない実態がある。本校の校内の事前アンケートにおいても,生徒の考える良い受講態度は「先生の話を理解する」や「問題が解ける」などであり,なぜそのようになるのかを考える態度や,授業のポイントを意識して学ぶ姿勢は希薄であった。そこで学びに向かう態度も含めて変化させることを目指し,高校の数学の授業に指導上の工夫を加えた。具体的には,授業中に生徒自身が教師から聞いた内容を説明してみるなど,アウトプットする時間を多く設けた。こうした授業が,学びに向かう態度,深い理解,学力試験におよぼす効果を検証する。
実践の概要
実践校と参加者 関東の公立高校の生徒80名
実践した授業の特徴 実践の特徴を一言で述べると,「前時の授業で学んだことを翌日の授業の冒頭で説明する」というスタイルであった。冒頭の活動を行う前提として,生徒は教師からの説明を受けたあと,自分たちの言葉で説明する活動を行った。また,授業の最後には,学んだ内容について,根拠を明らかにしながら説明できるように振り返りも行った。次時の冒頭では,まず前日のポイントをペアで説明し,その後学んだことについて再整理をし,文章化させた。活動を分かりやすくするため,振り返りシートを作成した。
効果検証のための調査 上述したような実践の効果を検証するために,事前・事後でアンケートを実施した。また,定期考査の得点についても分析対象とした。なお,著者が授業を行ったクラスではないが,同じ学校の別のクラス(303名)についても比較対象群としてデータを収集した(以下,受講群と非受講群と呼ぶ)。
結果と考察
生徒の学びに向かう態度 受講群の事前事後アンケートを分析した結果,生徒の学びに向かう態度が変容している様子が認められた。4件法のうち3と4(当てはまる,やや当てはまる等)に回答した生徒を集計したところ,例えば,「今日の授業のポイントは何か考えながら授業に臨んでいる」(58%→79%)や「なぜそうなるのか分かっていなくても,答えが合っていれば良い」(88%→74%)等の項目に変化が見られた。また「学習内容を自分で説明できるか確認している」(26%→61%)「学習内容を図や表などに整理して理解する」(28%→59%)「自分が『何が分かって,何が分からなかったのか』を確認している」(73%→81%)といった授業外の行動にも変容が見られた。説明するには学習内容を理解していなければならないため,授業外で自発的に学びを深める行動を自発的にとる生徒が増加したと考えられた。また,「あなたにとって,ちゃんと授業を“きく”とはどういうことか」では,「先生が伝えたいことを見破る。問題を解く」と回答していた生徒が「他の人に説明して,相手がその説明で理解できる」と事後で回答するようになるなど,質的な変化も認められた。
深い理解 授業を通じて深く理解されたかどうかを確認するために,授業中の振り返りシートの記述の変化を分析した。例えば,第4時の記述は,授業内容について教科書の内容をそのまま上げており,表層的な説明になっていたが(「n個からr個とって,並べる順列の総数をnPrと表す」),第8時では,既習内容との関連について説明していた(「組合せとは何かを選ぶだけのこと。更に並べてしまうと順列になる」)。同様の変化は他の生徒でも認められた。学習内容と既習内容の関連を考えながら学習している,すなわち深く理解するようになった姿と考えられる。
定期考査への影響 分析に先立ち,受講群と非受講群の入学前の学力を比較したところ,有意な差はみられなかった。一方,こうした実践を行った後の定期考査では,受講群の方が有意に高かった(t(381) = 4.6, p = .00)。定期考査は,記述などは含まれておらず,従来型テストである。生徒自身がアウトプットするようなスタイルの授業実践を行うことで,最終的に記述式のテストなどではなく,従来型のテスト成績も向上したのは興味深い。「学習内容を次回に説明する」ことを前提として学ぶことで,「なぜそうなるのか」に着目するなど,より深く学ぶ姿勢が身につき,従来型の問題でも成果が上がることにつながったと考えられる。