日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-65)

Mon. Sep 16, 2019 1:00 PM - 3:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:00~14:00
偶数番号14:00~15:00

[PH30] 大学受験期における他者の支援と学習動機づけの関連

川中紫音1, 江上園子2 (1.横浜国立大学大学院, 2.白梅学園大学)

Keywords:大学受験、学習動機づけ、他者支援

問題と目的
 2020年度より,現行の大学入試センター試験が廃止され,新たに大学入学共通テストが導入されるなど,大学入試制度改革が進められている。中央教育審議会(2014)は,少子化の影響で従来の受験勉強の必要性が薄れているために,大学受験期における受験生の主体性が低下していることを指摘している。しかし,大学受験に関する言説の数と比較して,実証研究は乏しく,受験生がどのような動機づけで学習しているかは十分に検討されていない。また,受験生に対してどのように関わることで,動機づけを向上させることができるのかという問題について検討した研究もほとんどない状況である。そこで本研究では,受験生との結びつきが強い保護者と教師の関わりに着目し,学習動機づけとの関係を検討することを目的とする。
方  法
予備調査 2018年12月にA県内の4年制大学に所属する男女96名(男性32名,女性64名)を対象に,受験期の他者(保護者・教師)の関わりについて測定する項目を収集するために,自由記述式の質問紙調査を行った。その結果,教師と保護者で共通する関わりとして,14項目が得られた。
本調査 2019年1月にA県内の4年制大学に所属する212名(男性82名,女性130名)を対象に,予備調査で作成した保護者と教師の関わり尺度(保護者・教師ともに14項目の計28項目)について7件法,自律的学習動機尺度(20項目; 西村他, 2011)について 4件法で回答を求めた。
結  果
 他者の関わり尺度について因子分析(最小二乗法・Promax回転)を行ったところ,保護者と教師いずれも2因子解が示唆された。各因子に強い負荷を示す項目も共通しており,項目内容から「情緒・環境的支援」と「心理的統制」と命名した。
 保護者および教師の関わりと受験期の学習動機づけの関係を検討するために,重回帰分析を行った。その結果,「保護者の情緒・環境的支援」が同一化的調整,取り入れ的調整,外的調整と有意な正の関係,「保護者の心理的統制」が外的調整と有意な正の関係,「教師の情緒・環境的支援」が同一化的調整と有意な正の関係,「教師の心理的統制」が外的調整と有意な正の関係を示した(Table 1)。
考  察
 「教師の情緒・環境的支援」は同一化的調整と有意な正の関係を示したことから,教師の励ましや学習環境の整備により,受験生は受験勉強に対して目的意識を持つようになる可能性が示唆された。一方で「保護者の情緒・環境的支援」は,自律的な学習動機づけと統制的な学習動機づけの双方と正の関係を示したことから,保護者の励ましや学習環境の整備には,かえって自律性を阻害してしまう側面もあることが示唆された。また,保護者と教師のいずれも,「心理的統制」は外的調整と有意な正の関係を示した。したがって,保護者や教師が叱責したり,考えを押しつけたりすることで,受験生は受験勉強を強制されていると知覚し,自律性が阻害されてしまう可能性がある。
 このように,教師や親の関わり次第で,大学受験期の学習動機づけは異なる可能性が示されたことから,今後は,学習動機づけを向上させていくための支援方法について検討する必要がある。ただし,本研究は回顧法による横断調査であるため,実際の受験生を対象に縦断調査を行うなど,他者の関わりが動機づけに与える影響について,さらなる精緻な研究を行うことも今後の課題である。