[PH33] 地理教材における画像資料の大きさと配置が学習者の動機づけと理解度に及ぼす影響
Keywords:挿絵、地理教材、動機づけ
問題と目的
理解に直接関連しない挿絵は,余計な注意を引くことで認知負荷をかけ,理解度に悪影響を与える場合がある。この効果は,seductive details effect と呼ばれている (Harp & Mayer, 1997)。一方で,注意を引く挿絵は学習者の動機づけを向上させる効果も持つ (Moreno, 2006)。先行研究の大半は,挿絵の有無の影響のみを検討しているが,挿絵が注意を引くものであるほど認知負荷がかかるはずであるため,挿絵が注意を引く程度によって,理解度への影響は異なると考えられる。
本研究では挿絵が注意を引く程度をseductive度として操作し,地理教材中の挿絵の違いが理解と動機づけに及ぼす影響を検討する。地理は図にも注意を向ける必要のある教科であるため,挿絵が理解に与える影響も大きいと考えられる。
方 法
参加者 地理を専門としていない大学生22名。
実験計画 刺激のseductive度 (高・低・統制) を操作した1要因3水準参加者内計画であった。
刺激 福屋・森田・草原・渡邊・大坂 (2015) が作成した教材を参考に作成した。教材は3種類あり,いずれも異なる架空の地域の地形・降水量・人口分布に関する文章と地図から構成された。これに挿絵として,理解に直接関連しないが内容と一致する画像資料である風景写真を載せ,大きさと配置をseductive度として操作した。画像資料は高条件が教材全体の30%の大きさで左上に,低条件が5%の大きさで右下に配置された。統制条件は文章と地図のみで構成された。理解度テストは,内容の表層的な理解を問う正誤問題と地理的な見方・考え方を問う記述問題で構成された。
手続き まず動機づけを測定するために,seductive度の異なる3種類の地理教材を2秒間ずつ呈示し,学習したいと思う順に順位づけさせた。次に1つの教材を3分間読解させ,その後正誤問題を2分間,記述問題を4分間で実施した。これを3種類の教材について繰り返した。
結 果
動機づけへの影響 動機づけの順位の平均値は,seductive度高・低・統制条件の順に,1.23,2.18,2.59であった。フリードマンの検定の結果,条件間の差が有意であり,多重比較の結果,高条件は他の2条件より有意に順位が高かったが,低条件と統制条件の差は有意傾向であった (χ2 (2) = 21.545, p <.01, η2 = .326)。
理解度への影響 seductive度の各条件の正誤問題の平均得点を算出し,1要因分散分析を行った。その結果,有意差は見られなかった (F (2, 42) = 0.536, p = .589, ηp2 = .025)。記述問題についても平均得点を算出し,1要因分散分析を行った。その結果,有意差は見られなかった(F (2, 42) = 1.101, p = .338, ηp2 = .050) (Figure 1)。
そこで,挿絵があると理解度が下がるという従来のseductive details effectが生じたかを確認するために,正誤問題におけるseductive度高条件と統制条件のみについて,t検定を行った。しかし、条件間に有意差は見られなかった (t (2) = -0.731, p = .473, d = -.230)。記述問題においても同様に、高条件と統制条件について、t検定を行った結果,統制条件の方が得点が高い傾向があった (t (21) = -1.857, p = .077, d = -.389)。
考 察
動機づけについては,挿絵の注意を引く程度から強い影響を受けることが示された。理解度については,正誤問題は表層的な理解度を測定する問題であったため,読解時の認知負荷が影響しにくかったと考えられる。地理的な見方・考え方を測る記述問題については,高条件と統制条件を比較した場合のseductive details effectはわずかながら生じた。つまり注意を引く挿絵は,複雑な思考を求め,認知資源が必要な地理的な見方・考え方の理解を妨げる可能性が示唆された。以上より,seductive度高条件の挿し絵は動機づけは高めるが地理が求める理解は低下させる可能性があり,挿し絵のseductive度が低い場合は,地理が求める理解は妨害しにくいが,動機づけを高める効果も十分ではないことが明らかになった。
理解に直接関連しない挿絵は,余計な注意を引くことで認知負荷をかけ,理解度に悪影響を与える場合がある。この効果は,seductive details effect と呼ばれている (Harp & Mayer, 1997)。一方で,注意を引く挿絵は学習者の動機づけを向上させる効果も持つ (Moreno, 2006)。先行研究の大半は,挿絵の有無の影響のみを検討しているが,挿絵が注意を引くものであるほど認知負荷がかかるはずであるため,挿絵が注意を引く程度によって,理解度への影響は異なると考えられる。
本研究では挿絵が注意を引く程度をseductive度として操作し,地理教材中の挿絵の違いが理解と動機づけに及ぼす影響を検討する。地理は図にも注意を向ける必要のある教科であるため,挿絵が理解に与える影響も大きいと考えられる。
方 法
参加者 地理を専門としていない大学生22名。
実験計画 刺激のseductive度 (高・低・統制) を操作した1要因3水準参加者内計画であった。
刺激 福屋・森田・草原・渡邊・大坂 (2015) が作成した教材を参考に作成した。教材は3種類あり,いずれも異なる架空の地域の地形・降水量・人口分布に関する文章と地図から構成された。これに挿絵として,理解に直接関連しないが内容と一致する画像資料である風景写真を載せ,大きさと配置をseductive度として操作した。画像資料は高条件が教材全体の30%の大きさで左上に,低条件が5%の大きさで右下に配置された。統制条件は文章と地図のみで構成された。理解度テストは,内容の表層的な理解を問う正誤問題と地理的な見方・考え方を問う記述問題で構成された。
手続き まず動機づけを測定するために,seductive度の異なる3種類の地理教材を2秒間ずつ呈示し,学習したいと思う順に順位づけさせた。次に1つの教材を3分間読解させ,その後正誤問題を2分間,記述問題を4分間で実施した。これを3種類の教材について繰り返した。
結 果
動機づけへの影響 動機づけの順位の平均値は,seductive度高・低・統制条件の順に,1.23,2.18,2.59であった。フリードマンの検定の結果,条件間の差が有意であり,多重比較の結果,高条件は他の2条件より有意に順位が高かったが,低条件と統制条件の差は有意傾向であった (χ2 (2) = 21.545, p <.01, η2 = .326)。
理解度への影響 seductive度の各条件の正誤問題の平均得点を算出し,1要因分散分析を行った。その結果,有意差は見られなかった (F (2, 42) = 0.536, p = .589, ηp2 = .025)。記述問題についても平均得点を算出し,1要因分散分析を行った。その結果,有意差は見られなかった(F (2, 42) = 1.101, p = .338, ηp2 = .050) (Figure 1)。
そこで,挿絵があると理解度が下がるという従来のseductive details effectが生じたかを確認するために,正誤問題におけるseductive度高条件と統制条件のみについて,t検定を行った。しかし、条件間に有意差は見られなかった (t (2) = -0.731, p = .473, d = -.230)。記述問題においても同様に、高条件と統制条件について、t検定を行った結果,統制条件の方が得点が高い傾向があった (t (21) = -1.857, p = .077, d = -.389)。
考 察
動機づけについては,挿絵の注意を引く程度から強い影響を受けることが示された。理解度については,正誤問題は表層的な理解度を測定する問題であったため,読解時の認知負荷が影響しにくかったと考えられる。地理的な見方・考え方を測る記述問題については,高条件と統制条件を比較した場合のseductive details effectはわずかながら生じた。つまり注意を引く挿絵は,複雑な思考を求め,認知資源が必要な地理的な見方・考え方の理解を妨げる可能性が示唆された。以上より,seductive度高条件の挿し絵は動機づけは高めるが地理が求める理解は低下させる可能性があり,挿し絵のseductive度が低い場合は,地理が求める理解は妨害しにくいが,動機づけを高める効果も十分ではないことが明らかになった。